恐らくは減少中…駅売店などの出版物販売動向

2022/12/08 10:00

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電車内での時間潰しの主役が雑誌や書籍などの出版物から、携帯音楽端末やスマートフォンなどの携帯電話に代わりつつあるものの、現在でもなお駅売店で週刊誌をはじめとした雑誌、そして新たに発売した文庫を購入する機会は少なくない。そこで今回は、駅売店とスタンドの出版物の販売状況について、日販の「出版物販売額の実態」最新版(2022年版)などを基に状況を確認するとともに、その変化を精査していくことにした。

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まずは駅売店とスタンドのみを抽出した、販売ルート別推定出版物販売額…としたいところだが、2016年版(2015年度データが掲載時における最新分)より「駅売店」の単独区分は無くなり、大学生協やスーパー・ドラッグストアなどのスタンド店、二次卸などを経由した販売額を合算した「その他取次経由ルート」で統括されてしまった。よって「駅売店」の単独データは2014年度分までで、しかも2015年度分以降の「その他取次経由ルート」とは連続性が無い(合算されたのだから当然)。

中野坂上駅構内のファミマまた各記事で解説の通り、あるいは実店舗を見ている人も多いだろうが、昨今では駅売店の少なからずが鉄道会社と大手コンビニチェーン店との提携に伴いコンビニ化、あるいは共同経営の形で疑似コンビニ化を果たしており、この類の店舗経由の出版物販売額はコンビニルートでのものとなる。

よって、鉄道駅構内・施設における印刷物の販売動向を、特定項目の状況確認で精査することは不可能。そこで、2015年版における2014年度までの駅販売店・スタンドの動向と、最新版の値を基にコンビニ経由の販売動向を合わせグラフ化を行い、大まかな動きを見ていくことにする。

↑ 販売ルート別出版物販売額(駅売店・スタンドのみ、億円)(2014年度まで)
↑ 販売ルート別出版物販売額(駅売店・スタンドのみ、億円)(2014年度まで)

↑ 販売ルート別出版物販売額(コンビニ、*はその年度から算出方法変更、億円)
↑ 販売ルート別出版物販売額(コンビニ、*はその年度から算出方法変更、億円)

他ルートも交じっている、そしてコンビニでは多分に通常立地店舗が占めているため、推定動向しか確認できないが、駅売店の下落動向は継続していると容易に想像できるデータとなっている。コンビニ化した売店ではなく、従来型の駅売店(KIOSKなど。鉄道弘済会などの二次卸で供給されている売店)に限定すれば、売上はさらに加速度的な落ち方を見せているだろう(何しろ店舗数そのものも減少しているのだから)。無論他にも先行記事で解説の通り、駅売店における鉄道利用客による購入機会の減少、そして売店そのものの閉鎖・営業時間の短縮などが影響しているのは言うまでもない。

なお他要素が多すぎるためグラフ化は略するが、「その他取次経由ルート」に限っても、減少動向は同様であり、「実は駅売店とスタンドの売れ行きはアップしているのでは?」との推測も否定される。

駅売店の場合は店員のなり手が少なく(レジが無いため在庫管理が不十分との指摘からレジを導入するとともに、ベテランの正社員店員をパートに切り替えたところ、パート店員の質が安定せずに客をさばききれず売上が減少、そのためセルフレジの導入を促進しているとの話もある。【参考:キヨスク180店休業中 ベテラン店員去り人手不足】参照のこと)、一方で鉄道利用客数に大きな変化は無い。それどころか今世紀に入ってからは一時下落に転じたもののおおよそ増加の動きを示していた。利用スタイルが同一とは限らないが、単純に見れば需要は増加しつつある、少なくとも機会は増えていると見てもよい。需給のアンバランス化が拡大しているともいえる。

なお2020年度で過去に類を見ないほどの減少が生じているが、これは新型コロナウイルスの流行で就業者の在宅勤務が推し進められ、また旅行などの自粛が求められたことによるもの。直近2021年度でもわずかにしか値は戻していない。

↑ 鉄・軌道旅客数量(のべ、億人)(国土交通省・鉄道輸送統計調査から作成)
↑ 鉄・軌道旅客数量(のべ、億人)(国土交通省・鉄道輸送統計調査から作成)

この事態を打開するため、すでに上記で触れている通り、鉄道会社とコンビニ各社が提携を結び、駅構内に独自のコンビニを展開する事例も続々見受けられるようになった。【近鉄の駅ナカ売店など、ファミリーマートに転換へ】で紹介した「TOMONY」がよい例。また昨今では提携の上で独自ブランドでは無く、コンビニブランドのままで駅構内への売店として展開が行われるケースも珍しくなくなった。地域によってはむしろ、コンビニそのものやコンビニ関連ではない駅売店を見つける方が難しいかもしれない。

店舗数の増大によるスケールメリット戦略を積極化するコンビニ側の需要、そして鉄道会社側も売店運営のわずらわしさから解放されるとともに、相応の利益を確保しながら鉄道利用客へのサービスも維持できることから、双方ともにメリットが生じる形でのスタイルとして、積極的な動きが各鉄道会社で見受けられる。「駅売店の販売額減少に対して早急な手を打つべき事態」への回答が、まさにコンビニへのシフトなのだろう。



全体額の減少はともかく、個々の駅売店での販売額減少の最大の原因は、冒頭でも触れた通り電車内での時間の過ごし方が大きく変化したのが主要因。かつては電車内での時間を有意義に、少なくとも暇なまま過ごすことがないよう、駅売店で雑誌などを購入したものだが、最近では自前の携帯電話、特にスマートフォンでソーシャルメディアへアクセス、ゲームを楽しむ、ニュースを確認するなど、多様の有意義な時間消費ができるため、駅売店での出版物購入の必要性が低下している。

上記で挙げた運営戦略上のミスも小さからぬ要因だが、仮にその判断ミスがなくとも、電車利用者の行動性向の変化は生じており、遅かれ早かれ需要と供給のバランスは崩れたに違いない。そして駅売店数は減り、販売機会が減ることでさらに販売額は減少していく。コンビニに代替されることで受け皿は維持されているが、需要そのものの変化までは左右できない。コンビニそのものの出版物販売額の減少動向を見るに、実情は容易に想像できる。

時代の流れとはいえ、少々もの悲しいところがあるのも否めない。


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(C)日販 ストアソリューション課「出版物販売額の実態2022」

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