主要局すべて下落…主要テレビ局の直近視聴率実情(2023年3月期・上期)

2022/11/17 02:00

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従来型4マスメディア、具体的にはテレビ・新聞・雑誌・ラジオの中で、最大の広告市場規模と媒体力を持つとともに、昨今の広告市場動向では、唯一復調の兆しを示しているのがテレビ。そのテレビ全体、あるいは各局、さらには各番組のすう勢を推し量るのに、もっともシンプル、かつ明確な指標が「(世帯)視聴率」。要は世帯単位でどれだけその番組・テレビ局、さらにはテレビ放送そのものが視聴されているかを指し示したもので、雑誌や新聞ならば購読者数、販売部数に相当する。今サイトではテレビ局の中でもキー局、そして上場を(直接、あるいは間接的に)果たしている企業の(半期)決算短信資料などを基に、ほぼ半年毎にキー局の視聴率動向を確認している。今回は2022年11月に発表された各社の半期決算短信資料を基に、2023年3月期(2022年4月から2023年3月)における上期の視聴率動向を確認していくことにする。

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全日は日テレ、ゴールデンはNHKがトップ


日本国内のテレビ局における視聴率は以前【「テレビをつけている時間」と「視聴時間」、「視聴率」を考え直してみる】で解説した通り、現在ではビデオリサーチ社のみが計測を実施している。上場テレビ局・企業では各社が程度の差はあるものの投資家への経営の状況判断材料として、各種短信資料で視聴率の公開を行っている。視聴率動向が広告売上をはじめとしたテレビ局の主事業である放送業務の勢いを推し量るのに、最適な指標だからである。一方、各社の資料ともビデオリサーチ社提供の値を基にしているため、基本的に同じものとなる。

まずは現時点で直近にあたる2023年3月期・上期の、キー局の視聴率をグラフ化する。データは【TBSホールディングス・決算説明会資料集ページ】内にある「2022年度第2四半期決算資料」などから取得した(第2四半期とは上期を意味する)。なお「キー局」と表現した場合、一般的にはNHKは含まれないが、よい機会でもあるので合わせてグラフに収めておく。

なお昨今では多くの局の発表資料においてHUT(世帯視聴率、Households Using Television)ではなくPUT(個人視聴率、Persons Using Television)を用いるようになったが、連続性を鑑み今記事では引き続きHUTを用いる。以後の記事内表記・グラフ内表記も断りがない限り「視聴率」は「世帯視聴率」を意味する。

↑ 主要局世帯視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2022年3月期・上期)
↑ 主要局世帯視聴率(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区)(2022年3月期・上期)

テレビ東京は区分の上では在京キー局の5局に収められているが、他の4局と比べれば放送内容の特異性(比較的経済関連の内容が多い)の都合上、視聴率で他局と比べて低めの値が出るのは、ある意味やむを得ない。その特異性を考慮し順位精査の際に除外すると、日本テレビ・テレビ朝日・NHKが高め、TBSとフジテレビが低めと、2階層状態にある。

視聴率が低迷しやすい昼間や深夜を除いていることから、全日と比べて高い視聴率が期待できるのがゴールデンタイム(19-22時)とプライムタイム(19-23時)。その双方で10%を切っているのは今期では全局・全時間帯となった。10%は視聴率の節目であり、かつては多くの局の時間帯で超えていたものだが。

放送している番組の構成にもよるが、ゴールデンタイムとプライムタイムの視聴率の差はあまり出ておらず、テレビ朝日以外は両者とも同じか、ゴールデンタイムの方が若干高い程度。しかしNHKに限れば大きな差異が生じている。つまりNHKは他局と比べ、プライムタイムが弱いと判断できる(理由は後ほど)。

数年前までは主要キー局ではTBSが一番低迷していたが、今期ではそれ以上にフジテレビの低迷が目立つ。全日だけでなく、ゴールデンタイムやプライムタイムすべての区分において、(テレビ東京を除けば)視聴率は一番低い立場に収まってしまっている。

22時の番組表(ヤフーより)今件で選択したテレビ局の中ではやや特異な動きを示しているのがNHK。上でも触れているが、ゴールデンタイムとプライムタイムの差異が他局動向と比べるとかなり大きい。これは以前からの傾向で、ゴールデンタイムよりもプライムタイムの方が低いことから、その違いとなる時間帯、22-23時における視聴率がとりわけ低く、平均値を下げてしまっていることになる。もっともこれは各テレビ局の番組構成上、民放ではこの時間帯に番組のクライマックスや人気の高い番組が入ることが多いのに対し、NHKではそうとは限らないこともあり、仕方のない面もある。

ゴールデンタイムで視聴率動向を見ると、トップはNHK、次いで日本テレビ、そしてテレビ朝日、TBS、フジテレビが続く。プライムタイムで比較すると、テレビ朝日がトップとなり、次いで日本テレビ、NHK、TBS、フジテレビの順となる。NHKのプライムタイムでのいまいち度合いは直上にその理由を記した通りだが、プライムタイムではテレビ朝日において、ゴールデンタイムを超える値を示しているのは意外かもしれない。22-23時の時間帯で放送される各局の人気番組の人気が、そのままこの差に表れるともいえる。テレビ朝日では「報道ステーション」がメイン、後は各種映画や特番、ワイド劇場となるのだろう。

前年同期からの変化で各局の勢いを推し量る


視聴率の変移を前年同期(2022年3月期・上期)との比較で表すと次のようになる。

↑主要局世帯視聴率前年同期比(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区、ppt)(2023年3月期・上期)
↑主要局世帯視聴率前年同期比(週ベース、ビデオリサーチ、関東地区、ppt)(2023年3月期・上期)

元々テレビの局単位での視聴率は、特番や特定の番組、さらにはイベント的な放送に大きく影響されるところがある。例えば社会現象を引き起こすほどの人気を博したNHKの「あまちゃん」、TBSの「半沢直樹」が好例。

今期はNHKも含む全局が全時間区分においてマイナスとなり、視聴率が増加した局・時間区分は皆無となった。非常に珍しい現象だが、視聴率の低迷傾向はすべてのテレビ局で生じているもので、例えばNHKの業務報告書でも「テレビ放送全体での接触者率の低落傾向は変わらない」との言及があるほど。比較対象の2022年3月期・上期においても、その前年同期からはNHK以外ではマイナスを示しており(オリンピックの影響があったにもかかわらず、である)、比較対象期がプラスだったので反動でマイナスになったとの理由付けはできない。NHKにしても2022年3月期・上期における前年同期比は全日でプラス0.2%のみにとどまっており、反動の影響はほとんどない。

マイナス幅を見比べると、時間区分別では多くの局で、全日よりもゴールデンタイムやプライムタイムのマイナス幅が大きい。多数の人がテレビを視聴する時間帯で、よりテレビから離れる傾向があったことになる。他方日本テレビやフジテレビでは時間区分によるマイナイ幅の差がそれほど大きくはない(最大で0.1%ポイント)。昼夜を問わず、同局番組の放送から距離が置かれたことになる。放送内容や番組構成の傾向が視聴率の落ち込み方に反映されたようで興味深い。

全局の中で時間区分を問わず一番大きなマイナス幅を示したNHKだが、直近の同社四半期決算説明会の公開資料では具体的な説明は特に無し。むしろ「地上波を中心に改善傾向にある」と言及が確認できるほど。



詳しくは経年のテレビ視聴率の記事で解説するが、この数年は各局ともターニングポイントを迎えている気配を示している。ある局はVの字回復を見せ、ある局は低迷を続け、ある局は下落傾向が継続している。まるで雑誌の印刷証明部数の話を思い起こさせるのだが、単発のヒーロー的番組やイベントのおかげで一時的な盛り返しを見せることはあっても、根本的な体質、視聴者への姿勢の部分がしっかりとしていないと、次第に低迷さが明確化してしまう。またこの1年ほどに限れば、局を問わず下落傾向が確実なものとなりつつある。

中にはそのドーピング的効果に味を占め、魅惑に取りつかれ、繰り返しその効果を望んでいるような行動を示す局も見受けられるが、「待ちぼうけ」の歌にある通り、常に切り株にうさぎがやってくるとは限らない。それを期待するどころか、切り株を増やすべく樹の伐採を繰り返し、かえって地道な努力の成果である果実の収穫量を減らすような動きすら見受けられるのは残念な話(昨今の「報道」番組では特にその傾向が見受けられる)。

4大従来メディアの中では最大の影響力を持つ一方、その力に翻弄される面も見せている。そのような状況下で、各局がいかなる姿勢を見せ、その姿勢が視聴率の動向にいかなる成果として結びついていくのか。今後も注意深く見守りたいところだ。

なお2016年10月3日からは視聴率調査に関して新しい測定方法が用いられている。これは従来のリアルタイム視聴に加え、いわゆるタイムシフト視聴も測定に加わるもの(「統合視聴率」と呼ばれる)。視聴スタイルの変化に対応するためとの説明があるが、具体的な計算式は次の通りとなる。

「総合視聴率」=「リアルタイム視聴率」+「タイムシフト視聴率」−「重複視聴」

各局でHUTからPUTに掲載を差し替えたり、リアルタイム視聴率だけでなく総合視聴率を併記する局が出てきたが、今記事では引き続きHUT・リアルタイム視聴率での勘案を継続することにする。

掲載視聴率をHUTからPUTに切り替える局が出てきたのは、世帯人数の少人数化に加え、テレビの観賞スタイルが「家族皆で」から「個人で」が主流になりつつあるとの認識が、局側で生じて来たことを意味するのかもしれない。


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