日本の経済成長率…(下)グラフ化とオマケ
2022/09/22 03:00
国家単位における経済上の成長推移を推し量る上でよく用いられる指標、GDP(国内総生産)と、その成長率を意味する経済成長率。「日本の経済成長率をグラフ化してみる……(上)用語解説」では各種用語や概念について説明したが、今記事(下編)では、実際に日本の経済成長率を抽出・計算し、各種グラフを作成して状況の精査を行うことにする。
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日本の経済成長率の年次推移をグラフ化
データの取得元は内閣府の「統計情報・調査結果」から【国民経済計算(GDP統計) > 統計データ > 統計表(四半期別GDP速報)】で最新年を選択し、そこから直近の「統計表」を選ぶ(【記事執筆時点では2022年9月8日公表値が最新】)。取得データは「実額」のうち、「名目暦年」「実質暦年」(暦年とは1月から12月で1年を区切る方法)。2022年は現在進行している年なので、現時点では2021年分が最新値となる(各ファイルには該当年だけでなく、時系列データが収録されている)。
なお現在はこのページには1994年以降の値しか収録されていないが、統計表のページには参考値として現在の基準(2011年基準)に合わせた1980-1993年分の各値も収録されており、1993年以前の値はそれを用いる(1994年以降の値との整合性も確認済み)。
まずはGDP前年比、つまり経済成長率について。元データが1980年以降なので、前年比は1981年以降から存在することになる。
↑ 日本のGDP前年比(実質・名目)
↑ 日本のGDP前年比(実質・名目)(2001年以降)
大きな挙動として5つのポイントを挙げることができる。
・1995年以降、成長率の点ではおおよそ「名目>実質」から「名目<実質」となり、経済構造が変化していた。
・直近の金融不況の影響は2008年から出始めていたが、リーマンショックによる2009年の下落は1998年以降の間では最大の下げ幅。
・2014年に成長率の点で再び「名目>実質」となり、これまでの経済構造から変化が生じている。しかし2017-2018年はわずかだが再び「名目<実質」となってしまった。その後2019年以降では再び「名目>実質」となったが、直近2021年では「名目<実質」に戻る。
・コロナ禍によるものと思われる2020年の下げ幅はリーマンショック時に次ぐ大きなもの。
1990年代前半といえば、バブルからその崩壊にかけた時期であることは言うまでもない。ある意味、1990年代のバブル時代が日本経済のターニングポイントであることを再認識させる。
そしてリーマンショックが、日本経済全体にどれほど大きな影響を与えたのか、その実情がよく分かるグラフでもある。ちなみに2011年にもやや大きな減少が確認できるが、これは言うまでもなく同年に発生した東日本大震災によるもの。そしてコロナ禍が経済に与えた影響の大きさを知ることができる。
なお先行記事でも解説したGDPデフレーターだが、次のような動きを示している。単純にはこの値がプラスなら経済はインフレ、マイナスならデフレの方向にあると判断できる。
↑ 日本のGDPデフレータ前年比(ポイント)
1997年にイレギュラー的な動きを示した以外は、1995年以降概してGDPデフレータは減少し続けている≒デフレを示していた。2014年では1998年以来10年以上ぶりに、今世紀に入ってからは初めて前年比で増加を示し≒インフレとなり、それが2016年まで継続し、まさにデフレ脱却の兆しが確認できる。ただし2017年は再びマイナスに沈んでしまい、デフレ感を覚えさせる事態に。2018年以降は再びインフレとなり一安心だったが、直近2021年で再びデフレに戻ってしまっている。
これを前年比ではなく、金額で示したのが次のグラフ。
↑ 日本のGDP(実質・名目、兆円)
↑ 日本のGDP(実質・名目、兆円)(2001年以降)
いずれにせよ、1990年前後、言い換えればバブルとその崩壊が、日本経済の大きな転換点となったことは間違いあるまい。また今世紀に入ってからは直近の金融危機ぼっ発とリーマンショック、そして東日本大震災、さらには新型コロナウイルスの流行と相次いでGDPを下げる事象が発生しているが、それが中期的に日本の経済、具体的にGDPの動向にどのような変質をもたらすのか、あるいは影響を与えないのかについては、今しばらくようすを見る必要がある。
また2012年12月以降の財政政策の大きな変化(「デフレ化促進・インフレの過度な抑制」からの脱却)も影響を与えている。むしろ2014年以降におけるGDPデフレータの前年比プラスの動き≒インフレ化は、こちらの方が要因としては大きなものと見てよい。
米ドルベースで確認してみる
今回のデータの集計期間の間には、日本円の国際的価値も大きく変化している。そこで毎年の値を年末の為替レートで計算し直した場合、どのようなグラフが形成されるのかについて、記しておく。
基準値として用いたのは、国際基軸通貨として用いられているアメリカ合衆国のドル(米ドル)。【日本銀行の主要時系列統計データ(月次)】から「為替相場(東京インターバンク相場) ドル・円 スポット 17時時点・月末」の毎年年末を抽出し、各GDPの額(円)から米ドル単位の値を算出。その上で米ドルベースの前年比なども計算した結果が次のグラフ。国内生産動向を精査するために用いることから、実質GDPをドルベース換算するのは性質的に意味がないが、この際まとめて掲載しておく。
↑ 日本のGDP前年比(実質・名目、各年年末の対米ドル為替レートを適用)
↑ 日本のGDP(実質・名目、各年年末の対米ドル為替レートを適用、兆米ドル)
↑ 日本円の対米ドル為替レート(各年年末)
実際に国内で生産されたものすべてがアメリカ合衆国などの米ドル圏に売り払われるわけではない。また、円高が進めば進むほど日本国内で生産されたものは海外で売りにくくなる。【円高になるとどんな良いこと・悪いことがあるのか再確認してみる……(3)円高デメリットの具体値と日本の努力】などで説明しているが、海外で売る場合、円高だと割高となってしまう。商品は価値があっても売れなければ意味がない。この状況については、2012年夏までの数年間における記録的円高において、多くの人が実体験したはずである。
また2012年から2014年にかけて今項目グラフでは大きく値を下げているが、これは最後の為替レート動向グラフと、上記の円ベースでのGDPの動きから分かる通り、為替の大規模な変動によるものである。例えば2011年から2014年の3年間では54%もの円安化の動きがあり、そのため米ドルベースでのGDPが落ち込むこととなった次第ではある。直近2021年の落ち込みもまた、円安進行によるところが大きい(上記グラフにある通り、日本円では前年比で増加している)。
今件の「米ドルベースでのGDP動向」は日本の基軸通貨が米ドルではない以上、あくまでも何か物事を考える際の素材、あるいは「思考ゲーム」の材料程度に考えるのが無難だろう。決してその動向を呈して、経済成長が云々と評論する材料にはならない。
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