EUの懸念事項はインフレ・物価高、32%が懸念を表明

2023/03/31 10:00

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欧州連合欧州委員会(European Commission)は2023年2月に、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」の最新版となる第98回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのはインフレ・物価高に関する問題で、全体の32%が懸念を表明していた。国際情勢、エネルギー供給がそれに続いている。移民問題の懸念は急激な高まりを示し2015年11月分でピークに達したが、その後は減少。今回調査分では6番目の懸念となっている(【発表リリース:Standard Eurobarometer 98】)。

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「Standard Eurobarometer」は毎年2回行われており、今回発表分が98回目となる。今調査の直近分は2023年1月12日から2月6日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国および候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万5114人、EU27か国に限定すると2万5892人。4回前の調査分からイギリスはEU加盟国側ではなく候補国側で集計されている(厳密にはイギリスはEU加盟を表明していないので候補国ではないのだが、データの連続性などを考慮し、この扱いとしたのだろう)。

2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が社会問題化している。船を使い、あるいは陸続きで、より経済的に安定していると思われるドイツ、さらには英仏海峡トンネルを越えてイギリスに向かう人たちは後を絶たず、海峡トンネルでは警備の強化が成されるほど。また、対応しきれない一部の国では国境線の封鎖措置も行われ、これに伴う衝突も起きている。

さらに移民(難民)が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを覚える地元住民の不満の増加も併せ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と多分に連動する形でのテロ事件なども多々生じており、情勢はお世辞にもよいとはいえない。当然各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。

他方2020年の春先から新型コロナウイルスの世界的流行により保健衛生への関心が高まり、また生活活動全般において厳しい規制が設けられることで、経済も大きな影響を受けるように。2021年春ぐらいからはワクチン接種の広まりで感染状況も沈静化に向かい、それに伴い流行で生じた経済の停滞とその回復動向に注目が集まるようになっている。

一方でロシアによるウクライナへの侵略戦争そのものはもちろんだが、それに伴うロシアの外交的強硬姿勢はEUにおいても大きな懸念材料となっている。また、このロシアの挙動が主な原因として生じている資源高による物価の上昇も、頭痛のタネに違いない。

このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から2つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化がよくわかるように、過去4回分も併せ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。また、直近調査の上位陣について、過去の調査分からの動向もグラフ化する。なお保健衛生は93回調査から新規に加わったもの、環境や気候変動は92回まで気候変動・環境問題と別々の選択肢だったものが統合したものである。また国際情勢は96回から追加されている。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)(2023年1月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)(2023年1月)

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択、上位陣の動向)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択、上位陣の動向)

回答個数無制限の複数回答ではないため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念はかつては低下する傾向にあった。その他経済関連の値も概して沈静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつあった。

それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化ではなく、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられた。

移民問題は2015年11月にピークを迎え、それ以降は下落する動きを示している。状況に改善が見られたわけではないが、これ以上の悪化の動きもないため、少しずつ心境的に慣れてきたのかもしれない。ただ直近調査結果では前回比で値が増える動きを見せているのが気になるところ。

他方、ロシア・ウクライナ問題に連動する形でエネルギー供給の問題やインフレ・物価高が生じており、それらの値が急激に跳ね上がっていたのも確認できる。そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まった2022年2月以降はじめてとなる97回調査では、インフレ・物価高やエネルギー供給が大きな上昇を示し、また新たに追加された国際情勢が高い値を示す形となっている。直近の98回調査ではインフレ・物価高やエネルギー供給の値は前回比でやや値を落としているが、高い水準に違いはない。国際情勢は28%と高水準のまま。

国単位での動向を見ると、ロシアによるウクライナへの侵略戦争による影響への懸念の違いが微妙に異なることが見て取れる。

↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2023年1月)
↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2023年1月)

いずれの国でもトップはインフレ・物価高で変わらないが、2番目につくのはベルギーとドイツではエネルギー供給なのに対し、ギリシャとスペインでは経済状況、フランスでは保健衛生(新型コロナウイルスの流行関連だろう)となっている。ピックアップした国では度合いの違いこそあれど、ロシアによるウクライナへの侵略戦争による影響として生じたインフレ・物価高が大きな懸念となっているものの、ベルギーやドイツではロシアからのエネルギー供給による問題が頭痛の種となっているのに対し、ギリシャやスペインではそれ以上に経済状況そのものに頭を抱えている。そしてフランスでは自国のエネルギー政策が功を奏しているのか、エネルギー供給に関してはさほど懸念を持たず、むしろ保健衛生への懸念が強いものとなっている。

他方、かつていずれの国でも上位に上がっていた移民やテロへの懸念が大きく減少し、複数の国で上位にすら顔を見せなくなっている(テロは数%、移民は10%前後)。相対的に懸念対象としての優先順位が下がっただけなのか、問題が本当に沈静化したからなのかは、今調査だけでは推定が難しい。

次回調査(2023年秋予定)ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の情勢次第で大きな変化が生じる可能性がある。もっとも、たとえ終結していたとしても、大きな影響は生じたままとなっていることだろう。


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