人流活性化の一方で猛暑や物価高への懸念…2023年8月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2023/09/08 16:00
内閣府は2023年9月8日付で2023年8月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落し53.6を示したが、基準値の50.0は上回る状態を継続した。先行き判断DIは前回月比で下落して51.4となったが、基準値の50.0は上回る状態を継続。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかに回復している。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和5年8月調査(令和5年9月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2023年8月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは52.8。
→詳細項目は「小売関連」以外の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.7ポイントの51.4。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは50.0。
→詳細項目は全項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外の全項目。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年8月では人流増加によるプラスの影響が出ているものの、猛暑で人の動きがおさえられる業界があり、また物価高で消費意欲が抑えられる点もあったため、前月比で下落することとなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年8月では人流増加のプラス影響への期待があるものの、物価高への懸念が非常に大きく、不安が高まりを見せていることから、前月比で下落することとなった。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2023年8月)
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、プラスを示していた。しかし今回月では猛暑の影響で人の流れが抑えられる面が出て、さらに物価高の影響も根強く、全体ではマイナス。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2023年8月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。人流増加によるプラス影響もあるが、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を大きく引っ張っている。
人流増加はあれど物価高の影響が
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・夏休み期間で、家族連れ、海外からの団体客も多く来店しており、来客数、買上点数は新型コロナウイルス感染症発生前の2019年度を超える動きになっている。特に、円安のため、海外からの観光客は高級ブランドを自分用に何点か購入している(百貨店)。
・気温の高い日が続いているため、夏物商材の販売量が上乗せできている。また、イベント需要が回復していることもプラスである(コンビニ)。
・猛暑のため外に出ない客が多く、お盆を過ぎてから急激に来客数が減っている。また、客から電気代やガソリン代が高騰しているため、外に食べに行きづらいという話も聞く(一般レストラン)。
・高温過ぎる猛暑日が続いたため、来客数が少なく、売上も最悪である(衣料品専門店)。
■先行き
・旅行シーズンに入ることで、海外からの渡航客など、観光での来客数増加が予想される(都市型ホテル)。
・インバウンド需要については、中国の団体旅行が再開されるため、来客数の増加が見込まれる(百貨店)。
・今は夏休み中であり1か月間も猛暑が続いたので、飲物などの売上は上がっている。これから先、暑さが落ち着いてくると、この物価高により財布のひもも固くなってくる(コンビニ)。
・ガソリン価格や農産物価格の高騰、10月に予測される加工食品の再値上げなどで、客の生活防衛意識が高まり、節約志向が拡大するため、ディナータイムの外食利用が減少する(一般レストラン)。
人流増加による期待は大きなものがあり、猛暑によるプラスの影響が出たとの声があるが、その猛暑で逆にマイナスの影響が生じたとの声も少なくない。また一方で物価高によるコスト高と需要減少・節約志向の高まりの2局面からの厳しさを指摘する声も多い。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
・観光地や商業施設、路面小売店において、全国的に景気が回復している。特に観光地は新型コロナウイルス感染症発生前の状態に戻っている様子がある。また、猛暑が続いていることがタオルの受注を押し上げていることもあり、まだしばらく受注は活発であるとみられる(繊維工業)。
・製造業を中心に出荷量が落ちている。特に住宅などの建材系での落ち込みが激しい。また、燃料コストの上昇や人手不足が続き利益を押し下げている(輸送業)。
■先行き
・予算計画数に対して上振れが続いており、第2四半期も売上の増加を予測している(輸送用機械器具製造業)。
・猛暑の影響で、米やその他の作物の収量が減少することが懸念される(農林水産業)。
現状同様に観光地などで人流増加によるプラスの影響が生じているとの声がある一方で、物価高などによる業績低迷とコスト高の話も出ている。昨今の「住宅関連」の値が思わしくない原因をかいまみることができる話もある。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・人手不足企業では、賃上げを行う企業が増加している一方、シニア人材や外国人人材の受入れなど、賃金以外の条件を緩和する企業が増えてきたことで、採用者数が増加し始めている。自動車や半導体など一部の業界で人材ニーズが低迷しているものの、インバウンド需要に伴う採用増の動きは力強い(人材派遣会社)。
■先行き
・人流や物流が回復していることで久しぶりに求人を出す事業所もあるが、電気料金などの高騰により求人を控える事業所もあるため、全体としては求人数の増減幅は少ない(職業安定所)。
賃金を上げる以外に条件緩和で人材不足を解消する企業が増えてきたとあるが、景況感の回復や中長期的な企業の安定性の観点で見ると、一概によい方策とは言い切れないのが悩ましいところ。一方で、物価高で求人まで経営リソースがまわらないとの意見もある。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。このまま、生活様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのだろうか。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。今回精査分ではまだあまり声は上がっていないものの、昨今では再び感染者数の増加の動きがあり、これが景況感にいかなる影響を与えるのかが気になるところ。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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