60歳以上は69.0%が通院中…国民生活基礎調査から見た通院率
2020/08/19 05:00
厚生労働省は2020年7月17日、令和元年版(2019年度版)の「国民生活基礎調査の概況」を発表した。国民生活の基本事項を調査し、各行政の企画や運用に必要な資料を収集する目的で行われているものだが、資料性の高いデータが豊富に盛り込まれており、多数の切り口から実情を知ることが出来る。特に今回発表された2019年版では、3年に一度の「大調査」が行われ、世帯員の健康状態や介護の状況も確認することが可能となっている。今回はその中から「通院している人の割合」について現状を確認してみることにした(【発表ページ:令和元年 国民生活基礎調査の概況】)。
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通院者は約40%、女性がやや多し
今調査の調査要件や注意事項は、今調査に関する先行記事の【平均世帯人員と世帯数推移】で解説済み。必要な場合はそちらを参考のこと。
今回スポットライトを当てるのは、病気やけがなどで病院に通っている人、つまり「通院者」の割合について。計算を行う際に入院者は通院者にはカウントされないが、比率を計算する際の世帯人員数には入院者自身も含まれる。例えば「通院者」が40.4%だったとして、残りの59.6%が全員病院と無関係なわけではなく、何%かは入院していることになる(入院者は今件調査時には回答できないため、当然入院者率は調査回答項目には無い)。
まずは年齢階層別の通院者率。全体では約4割の40.4%。30代までは2割前後と表現できる値だが、40代以降は急激に増加。70代以降は7割台をキープしている。平均的な定年年齢である65歳以上で区切れば、約7割が何らかの形で通院中となる。
↑ 年齢階層別通院者率(入院者は含まず・分母となる世帯人員数には入院者含む)(2019年)
若年層の通院率が若干高めに見えるかもしれない。これは一般の病院の他、歯医者や眼医者なども合わせて通院とカウントしているからに他ならない。子供のうちは虫歯関連で歯医者、そして視力のチェックや眼鏡装着のためで眼科に通う人は少なくない。
これを男女別に見ると、10代までは男性が、それ以降はほぼ女性の方が高くなる。女性は妊娠や腰痛など、入院の起因となる要素が多いからだと考えられる。もっとも60代以降は再び男性の方が通院率は高くなる。通院を要するほどの体の老朽化は男性の方が早いからなのだろうか。
↑ 年齢階層別通院者率(入院者は含まず・分母となる世帯人員数には入院者含む、男女別)(2019年)
特に20代から30代にかけての男女の差異の大きさが、妊娠関連による通院機会の多さを指し示している。
前回調査からの変化を確認
元資料には2019年分のデータ以外に、前回の「国民生活基礎調査」大調査の値(つまり2016年分)も掲載されている。そこで3年の間に通院率がどれだけ増減したかを計算したのが次のグラフ。
↑ 年齢階層別通院者率(入院者は含まず・分母となる世帯人員数には入院者含む、2016年からの変移、男女別、ppt)(2019年)
「入院患者・入院数を減らそう」との政策は以前から続けられている。具体的には保険給付金はベッド数・療養病床に比例するため、それらを減らすことで保険給付費≒医療費を減らしていこうとする厚生労働省の方針によるもの。また、特に高齢者では、いわゆる「社会的入院」(傷病の治癒以外の目的を主としての入院)を解消する狙いもある。
2016年から2019年の変移では、30-60代まではおおむね増加、9歳以下は低下の傾向が見受けられる。データの性質上、プラスマイナス1%ポイントぐらいまでは誤差の範囲と見てもよいのだが、傾向だった動きをしていることから、何らかの意味があると考えてもよい。高齢層では女性は減っているが男性は逆に増えているのが気になるところ。他方、現役世代の増加は、健康留意の表れだろうか、あるいは経済的な余裕も一因かもしれない(ふところ事情も診察・通院の意思決定には小さからぬ影響を及ぼす)。
やや蛇足ではあるが、通院者における対象となる病症の直近調査分の上位5項目を男女それぞれに集計し、以前の調査との差異も確認するため、過去3回分と併記したグラフは次の通りとなる。
↑ 通院者率の上位5傷病(複数回答、男性)
↑ 通院者率の上位5傷病(複数回答、女性)
男女とも高血圧症がトップで、男性は糖尿病に歯の病気、女性は脂質異常症に目の病気が続く。経年変化を見ると男女とも高血圧症と目の病気、そして男性の糖尿病と目の病気が4調査分連続して増加しているのが確認できる(女性の目の病気は同率の調査年もあるが)。いわゆる生活習慣病のうち、上位項目としてラインアップされ、三大成人病と呼ばれている「糖尿病」「脂質異常症」「高血圧」のうち、男女ともに5位以内に2つ以上が入り、しかも男性では2つも、女性でも1つが通院者率の増加を示している。
これらの疾病で通院する状況に陥らないように日々の生活習慣の改善を目指すとともに、定期的な検診を受け、兆候が確認されたら可及的速やかに改善のための治療を受けるようにしたいものだ。
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