確実に増加する検診率、だが多部位で半数に満たず…がん検診の動向
2020/08/18 05:00

厚生労働省は2020年7月17日、令和元年度版(2019年度版)の「国民生活基礎調査の概況」を発表した。これは国民生活の基本事項を調査し、各行政の企画や運用に必要な資料を収集する目的で毎年行われているものだが、資料性の高いデータが豊富に盛り込まれており、注目に値する。特に3年おきに実施される「大調査」では、世帯員の健康状態や介護状況などについても調査がなされるため、世帯状況の詳細をより詳しく知ることができる。今回はその「大調査」対象項目の中から「がん検診の動向」について確認していくことにする(【発表ページ:令和元年 国民生活基礎調査の概況】)。
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今調査の調査要件及び注意事項は、今調査に関する先行記事の【平均世帯人員と世帯数推移】で解説済み。必要な場合はそちらを参考のこと。
多種類の傷病の治癒方法の発見や治療法の改善が進むに連れ、相対的に研究進捗の歩みが遅い「がん」の発症率、そしてそれを起因とする死亡率は増加の一途をたどっている。【最新の人口動態統計のデータ】によれば、確定数では悪性新生物(がん)を死因とする人が最上位の比率にある。

↑ 人口動態統計(確定数)における死因(上位5位、死亡率・人口10万人対)(2018年)
「がん」に対する最善の手立ては、健康的な身体作りと定期的な検診による早期発見・早期対応にある。がん検診の詳細は【国立がん研究センターの「がん検診 まず知っておきたいこと」】などを参考にしてほしいが、早期発見によるリスク軽減効果に関する啓蒙が進んでいることもあり、検診率(受診率)は少しずつではあるが上昇傾向にある。
まずは2019年における受診率。なお検診の指針において胃がん検診は過去2年間の受診率も勘案することとなったため(ただし対象年齢は50-69歳)、2019年調査分以降はその値も示している。また女性特有の2検診が「過去2年間の回答」なのは、両検診が2年おきに行うことを基本としているから。

↑ がん検診を受診した人の割合(過去1年間・子宮がんと乳がんは過去2年間、男女別)(2019年)
男性は肺がん検診がもっとも受診率が高く5割超え、女性は乳がん検診がもっとも高く47.4%。女性は子宮がん検診も4割超え。
各部位別の検診率の違いを見ると、男性は肺がん・胃がんが高めで大腸がんは低め、女性は子宮がん・乳がん・肺がんは高めで胃がん・大腸がんは低めと出ている。一方、直近2019年の【2019年分の人口動態統計月報年計(概数)の概況】の「結果の概要」ファイルから「部位別にみた悪性新生物」で死亡率を確認すると、悪性新生物(がん)の場合男性は「肺」「胃」「大腸」、女性は「大腸」「肺」「膵臓(すいぞう)」の順に死因部位率が高い(2019年時点)。男女とも高めの死因率の肺がんには強い関心を抱いて検診を行い、また女性は女性特有の子宮がん・乳がんが気になり検診率が高い動きが確認できる。もっとも女性では一番死因部位率の高い大腸がんに関して受診率が低めなのが気になるところ(逆に受診率が低いからこそ、発見が遅れて死因率が高いのかもしれない)。
最後に、直近5回分の「国民生活基礎調査」大調査における各部位のがん検診受診率の推移が次のグラフ。1997年の女性特有のがん検診は「過去1年間」でのみ問い合わせているので、値が少々低いものとなってしまっている。また2013年からはがん検診の受診率算定の際の対象年齢を、これまでの「40歳以上」から「40-69歳」に変更し、それに合わせて過去のデータも再算出しているため、以前の記事との差異が生じている。また「胃がん(過去2年間)」は「50-69歳」に対象年齢を限定している。

↑ がん検診を受診した人の割合(過去1年間・子宮がんと乳がんは過去2年間、男性)

↑ がん検診を受診した人の割合(過去1年間・子宮がんと乳がんは過去2年間、女性)
2010年から2013年にかけて大きく検診率の向上が見られるが、これは各自治体における受診勧奨事業などの効果が表れていると思われる。ただしそれでも多部位で検診率は5割、つまり半数に届かず、半分以上ががん検診を直近で受けていない状態にあることに変わりはない。
「がん検診」は確実にがんを見つけられるものではない。とはいえ、がんによるリスクを減らせるもっとも賢明な手立てであることにも違いない。がんは目に見えるものではなく、特定の病状を持つものでもない。仮にがんによる病状を覚えても、他の病気と思い違いしてしまうことも多い。是非とも積極的に、がん検診を受診することをお勧めしたい。
勘違いをしている人もいるが、「がん検診を受けるとがんが発症する」わけではない。あくまでも「がん検診を受けると発症しているがんを確認することができるかもしれない」に過ぎないのだから。
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