広告「量」は減少、では広告「料」は!?…企業が払う新聞広告費と広告費相場の変化
2022/03/24 03:00
当サイトでは複数の情報源からの公開値を基に、新聞業界の動向を集積し、これまでの状況や現状を精査する、定点観測的な記事展開を行っている。先に【新聞の広告掲載「量」と「率」動向】で記した通り、新聞社や通信社、放送局などで構成される日本新聞協会が5月に発表・更新した日本の新聞全体における記事掲載量などの最新データを基に、新聞の記事や広告「量」、広告費全体に関する流れを確認した。今回はそれらのデータを手がかりに、新聞の広告費やその概算的な相場の変化について推し量ることにした。
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広告費総額は減少傾向
データ取得元は日本新聞協会の公式サイトにおける【調査データ>新聞広告>新聞広告費、新聞広告量の推移】。以前の別記事ではこれらの公開値から、必要な値を算出した。なお「段」とは言葉通り、新聞の文字列を構成する横線の段組みを意味しており、左端から右端までの1ライン分で1段として構成単位を数えていく。
↑ 新聞広告・新聞記事量(2017年以降は概算、万段)(再録)
次に新聞の広告費を抽出し、これをグラフ化して精査する。これは「企業や団体など『新聞に広告を出したい』と考えている側(クライアント)が、広告出稿のために支出する広告費」を意味する。
この値がそのまま「新聞業界の売上」となるわけではないので注意を要する。なぜなら広告を出稿する企業と新聞社が直接やりとりすることは滅多に無く、大抵は複数の広告代理店が仲介を行い、仲介手数料などが差し引かれるからである(今件は【広告業界や代理店の仕組みが分かるステキなレジュメ】あたりでもう少し詳しく触れている)。
↑↑ 新聞広告費(億円)
ITバブル崩壊時の2002年に大きな減少が起きている。そしてその後の景気回復でも広告費総額は下がったまま。これは先の記事でも指摘しているが、広告掲載率の変化と同じ現象。新聞への出稿効果に疑問符が浮かべられるようになり、費用対効果の算出の上で、選択肢から除外される、優先順位が落とされた事例が増えてきたことになる。そしてさらにいえば、4マス系の広告費、とりわけ紙媒体にも似たような状況は当てはまる。
2007年の金融危機以降、再び急激に減少の傾向を示している。予算は限られるが、出稿効果の減退はできるだけ抑えたい。ならば効率のよい媒体を選ぶのは道理であり、優先順位の低い選択肢は切られてしまうことになる。
最新の2021年においては、前年からわずかながら新聞広告費は増加を示している。前年2020年がコロナ禍で大きく減少したことの反動や、コロナ禍がいくぶん落ち着いて経済の復調の気配が生じたことで広告出稿の動きも活発化したのが影響しているのだろう。とはいえ、記録のある1998年以降においては、前年2020年の3688億円に次ぐ低い金額であることも事実に違いない。
単価を概算で計算してみる
これまで解説した通り、「企業の新聞向け広告費」と「実際に掲載される広告の段数」が公開値によって確認された。そこで両方の数字から「1段あたりの概算広告費」が算出できることになる。直上で解説した通り仲介手数料の問題もあり、そのままイコールの値と断じることはできない。複数段・1面丸ごとの場合は別料金となり(昨今では新聞広告の掲載希望が少ないため、需給関係から「まとめ買い」として値引きされる)、場所によっても多様な料金体系が設けられている。
今件はあくまでも「企業側が支払う金額として」「全部平均でならした場合の」概算値、指標の推移として見てほしい。
↑ 1段あたり概算広告費(万円)
ITバブル期の絶好期にあたる2000年に、前年比で少々単価が上がっている。しかしそれ以外は一様に漸減している。そして広告掲載率や広告掲載費の減り方と同様に、「ITバブル崩壊時に大きく減少」「金融不況時も大きく減少」の傾向が確認できる。
概算値ではあるものの、1998年と比べ直近の2021年では新聞広告の平均単価は4割ほどにまで減少していることになる。そして2021年では前年比で広告量は減少したが広告単価は増加し、結果として広告料総額はわずかに増加。コロナ禍からの復調で、いくぶん単価が戻ったために広告料総額が底上げされた形ではある。もっとも中長期的には広告出稿の減少を押し留めるために単価を下げているものの、「量」の回復には至らない、好ましくない状態は継続中で、直近年の動向は現状の傾向から脱却するのには程遠い動きには違いない。
広告単価の相場は上記グラフの通り、減少する一方で、上がる気配が見られない(直近年の前年比増加は、コロナ禍からの復調という特殊事情によるもので、新聞広告の構造が変わったことによるものではない)。下がる要因はいくつか考えられるが、シンプルに需要と供給の関係で推測すると、広告展開を行う場所の観点で、供給過多の状態が思い当たる。
広告掲載が可能な場所の買い手が見つからなかった場合、その部分を空白にするわけにもいかず、いわゆる「自社広告」が収まる形となる(自社広告も自社商品の認知度を高め、業績アップにつながりうるメリットはある。単なる埋め草ではない)。あるいは営業が努力を続け「現在の価格ならコストパフォーマンスの面で割りが合わない。広告を出すつもりはない。しかしながら、●×円/段まで値引きすれば、広告出稿を考えてもよい」との広告主の要望を了承し、値引いた上での出稿となる場合もある。
単価の減少は継続傾向であることから、それだけ新聞そのものの媒体力・広告力が減少していると、少なくとも広告出稿側が見なし続けているのは否定できない。今後新聞各社は企業側の広告費をさらに底上げさせるだけで無く、「より価値あるもの」と認識され、単価を引き上げても広告を出したいと企業・広告主側が判断するよう、媒体力を高めていく努力が求められよう。
そのためには、新聞そのものが記事を介して常に外部に向け、他業種に向けて連呼している「改革の気概」が、実は新聞自身に一番求められているのではないだろうか。
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