貯蓄額1880万円・年収633万円・貯蓄年収比297.0%…60年あまりにわたる貯蓄額や年収、貯蓄の年収比の移り変わり

2022/06/02 03:00

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家計内における貯蓄や負債の現状や動向を知るためのデータは官民問わず多数調査・公開されているが、その中でも重要視されているものの一つが、総務省統計局が定期的に調査・結果の公開を実施している家計調査報告。その「貯蓄・負債編」の直近年次分にあたる2021年分・速報値が、先日2022年5月10日に発表された。今回はこの値や過去のデータを基に、日本における長年にわたる、二人以上世帯の貯蓄額、年収の変移を確認していくことにする(【家計調査報告(貯蓄・負債編)-年平均結果速報-(二人以上の世帯)】)。

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今回グラフ化し精査する値のうち、2000年分までは家計調査の附帯調査として実施されていた「貯蓄動向調査」のものを参照している。それまでは家計調査そのものでは同様の調査は行われていなかった。家計調査へは1年の準備期間をおいた上で移行されたので、グラフ上でも2001年分が空いている。

さて、貯蓄動向調査分も合わせ、1959年以降の二人以上の世帯における「貯蓄現在高」と「年間収入(年収)」、さらには「貯蓄の年収比」(年収の何%分が貯蓄として備えられているか。失業などに備えるためには半年から3年分のたくわえが必要と言われている)の推移を示したのが次のグラフ。物価上昇とともに年収や貯蓄現在高が上昇しているだけでなく、貯蓄の年収比が少しずつ増えている。また、金額が分かりやすいよう、家計調査へ移行した2002年以降分について抽出したグラフを併記しておく。

なお今調査は二人以上世帯(原則夫婦世帯)のみの対象であり、世帯全体、あるいは単身世帯の動向を推し量ることはできない。一方で昨今では年齢階層別人口構成比の変化に伴い、二人以上世帯でも低年収(貯蓄の取り崩しで生活費の補てんが行われる)の高齢世帯の割合が増えているため、必然的に平均値としての年収が減り、貯蓄額が増える傾向があることは、あらかじめ記しておく。あくまでも各年における二人以上世帯全体としての動向、その変化を示したものである。

↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、2000年までは貯蓄動向調査による)
↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、2000年までは貯蓄動向調査による)

↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯)(2002年以降)
↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯)(2002年以降)

1990年以降年収が横ばい、やや少しずつ減少していたのは【1950年と比べて8.51倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移(最新)】でも解説している通り、物価が横ばい、むしろ多少ながらも下がっていることも併せ、日本の成長率が鈍化したのが主要因。

とりわけ家計調査に切り替わった2002年以降の減少は物価安定だけでなく、デフレの進行、さらには【日銀レポートによる「なぜ好景気でも賃金は上がらなかったのか」】などで解説した通り、多様な要因による結果である。そして上記の通り、年齢階層別人口構成比の変化によるところも大きい。

↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(2022年分は直近月の値)(再録)
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(2022年分は直近月の値)(再録)

ただしここ数年は脱デフレ政策をはじめとした各種経済政策の転換に伴い、消費者物価指数の上昇とともに年間収入の減少に歯止めがかかる動きを示している。2012年の606万円を底値とし、もみあいを続けながらも上昇の気配がある。

一方、貯蓄「額」は横ばいからやや増加の流れ。結果として貯蓄年収比は漸増の一途をたどっている。もっとも金融危機が発生した2007年から数年間は、貯蓄の取り崩しが起きたこともあり、額面そのものも減少している。そして2012年以降は定年退職者の急増に伴い、退職金で上乗せされた貯蓄が平均値に影響を与えたため、貯蓄現在高も大きく上昇している。

ただしここ数年においては貯蓄額および貯蓄年収比の減少が生じていた。これは年収の増加だけでなく、高齢層におけるより一層の高齢化と、若年層から中年層における住宅取得願望の高まりが大きく影響しているようである(若年層の持家率の上昇傾向は先行記事で触れた通り)。直近2021年では幸いにも貯蓄額および貯蓄年収比は前年比で増加したが、これは新型コロナウイルス流行により巣ごもり化などで、消費支出が減少したのが影響しているようだ。特に50-60代の貯蓄額の増加が著しい。

↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、前年比、世帯主年齢階層別、万円)(2021年)
↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、前年比、世帯主年齢階層別、万円)(2021年)

今世紀に入ってから年収が下がり、あるいは横ばいな一方で平均貯蓄額や貯蓄率が上昇しているのは、定年退職(・再就職)者の全体数に占める比率の増加が大きな要因。該当世帯では貯蓄額が高い一方、年収は低い傾向がある。そして全体の平均値は回答世帯数の世帯主年齢階級別ウェイトがかかる。これは先行記事【二人以上世帯の総貯蓄の7割近くは60代以上の世帯だけで保有…世帯主の年齢別貯蓄総額分布(最新)】などでも挙げている。

↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、世帯主年齢階層別、万円)(2021年)
↑ 貯蓄額および年間収入(二人以上の世帯、世帯主年齢階層別、万円)(2021年)

↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)(再録)
↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)(再録)

直近の2021年に限れば、全体では前年と比べて貯蓄額はプラス38万円、年収はプラス30万円、結果として貯蓄年収比はプラス14.5%ポイントとなっている。



参考までに最新の2021年分の値を挙げておくと、貯蓄額1880万円・年収633万円・貯蓄年収比は297.0%となっている。これらはあくまでも二人以上世帯全体の平均値であり、中央値ではない(直上にある通り、年齢階層別で大きな差異が生じている。そして定年退職者などで多額の貯蓄をしている人が、平均値を引き上げている)が、参考値、または目標値として覚えておくことをお勧めする。


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