30年あまりにわたる大学教員の月給推移

2022/05/24 02:00

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先行記事【40年あまりにわたる学習塾の月謝推移】において、学校教育で授業を受ける側の授業料ではなく、教鞭を取る側の給与動向を推し量ろうとしたが、結局総務省統計局の【小売物価統計調査(動向編)調査結果】からは叶わなかった件について触れた。この事案に関して文部科学省の【学校教員統計調査】で、該当するデータが取得可能なことが判明した。そこで今回はそれを用いて大学の本務教員の給料(月給)の動向を確認していくことにする。

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前世紀末までは右肩上がり、その後…


データ抽出元の学校教員統計調査は「学校の教員構成並びに教員の個人属性、職務態様および異動状況などを明らかにすることを目的」としたもので、実質的には1968年度分からスタート、1971年度分から今件調査名に改められている。もっとも現時点でインターネット上から取得可能なのは1989年度分以降のみ。今調査は3年おきに実施されているため、現在もっとも新しい公開値は2019年度分となる(次の2022年度分が公開されるのは2024年3月予定)。

学校教員統計調査では大学の本務教員(常勤、フルタイムの教員)について、全体、国立・公立・私立別の合計、男女別、さらには学長・副学長・教授・准教授・講師・助教・助手別の平均月給が掲載されている。あくまでも本俸のみで諸手当や調整額は含んでいないものの、それぞれの月給における平均額以外に額面区分別構成人数も記されており、相場動向を知ることができる。

それらの値を逐次抽出し、大学の種類別にその動向をまとめたのが次のグラフ。棒グラフでは直近の2019年度と取得できる一番古い1989年度の値を併記した。

↑ 大学本務教員給料(月額、円)(1989-2019年度)
↑ 大学本務教員給料(月額、円)(1989-2019年度)

↑ 大学本務教員給料(月額、円)
↑ 大学本務教員給料(月額、円)

少なくともこの30年の間に大学本務教員の月給は2割台の上昇を示している。ただしピークは2001年度で、それ以降は漸次減少、2016年度で再び上昇の動きを見せた。2013年度までの減少について元の各種データで確認したが、例えば月給の低い助手の数が増えたので全体平均が下がったといった類のものではなく、それぞれの役職において押し並べて給料は下がっている。そして国立の下げ方が一番大きかった。

2013年度では国立と、公立・私立との間に大きな差が開いたが、2016年度の上昇を受け、差は大きく縮まり、そして2019年度では国立と公立はほぼ同額となった。

消費者物価指数を考慮すると


一連の長期価格変動関連の記事同様、今件大学本務教員の月給についても、消費者物価指数を反映した値で再精査を行う。今件では最新データは2019年度のものだが、他の記事同様に2022年時点の消費者物価指数を基準とし、各年度が2022年と同じ物価水準だとしたらどの程度の額になるかを計算したのが次のグラフ(今件では各月額は「年度」の平均値だが、消費者物価指数は「年」と連動させる)。実のところ1990年ぐらい以降は消費者物価指数はさほど変動しておらず、大きな額面の変化は生じていない。

↑ 大学本務教員給料(月額、2022年を基に消費者物価指数を考慮、円)(1989-2019年度)
↑ 大学本務教員給料(月額、2022年を基に消費者物価指数を考慮、円)(1989-2019年度)

↑ 大学本務教員給料(月額、2022年を基に消費者物価指数を考慮、円)
↑ 大学本務教員給料(月額、2022年を基に消費者物価指数を考慮、円)

物価変動を考慮すると、私立大学の本務教員給料はむしろ上昇、公立はほぼ横ばいで推移していたことが分かる。一方で国立大学は下げ幅がゆるやかなものに。とはいえ、やはり最近では下げていたことに違いはない。2016年度の私立以外の大きな上昇は物価変動を考慮すると、国立では上昇に違いないが公立ではほぼ横ばいでしかなかったことが分かる。そして直近の2019年度では国立・公立・私立すべてで下落の動きとなってしまっている。特に私立は2016年度からの継続した大きな下落で、公立や私立とあまり変わらない値となってしまった。



どの種類の学校でも当てはまる話ではあるが、特に大学は個々の本務教員が持つ、普段は会得しがたい豊富な知識や経験を学生に教示する意味合いが強く、当然教員への対価はしかるべき高額の必要がある。本俸でこれだけとなればその他手当なども含めれば…とそろばん勘定をする人もいるだろうが、より多くの優れた人材を育て世に送り出す案内役への対価と考えれば、不当なほどに安いと考える人も少なくあるまい。

気になるのは今世紀に入ってから給料水準がやや頭打ち、それどころか失速の気配を示していること。物価変動を考慮するとその動きは明らかではある。人材育成が一朝一夕では不可能なことを考慮すれば、もう少しリソースを配分し、働き手の手取りを増やすべきとの判断が妥当だと思われるのだが。もちろん、「働き手」の選別に関する精査の厳格化も同時に求められるのは言うまでもない。

ちなみに直近の2019年度における、各役職毎の平均給料は次の通りとなる。

↑ 大学本務教員給料(月額、諸手当や調整額含まず、万円)(2019年度)
↑ 大学本務教員給料(月額、諸手当や調整額含まず、万円)(2019年度)

学長・副学長は国立から公立、私立となるに従い額面は減少するが、教授や准教授はむしろ私立の方が高い。もっとも助教や助手はやはり私立の方が安くなる。それぞれの大学種類における役職の立ち位置の違いもあるのだろうが、興味深い話には違いない。


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