50年あまりにわたる乗用車価格の推移
2022/05/22 03:00
もはや陳腐化した感すら否めない「若者の自動車離れ」という言葉。若年層が自動車を乗らなくなった、買い求めなくなった状態を意味するものだが、原因は多様におよび、また自動車離れが生じているのは都市部在住者のみであるとの指摘もある。そしてその「自動車離れ」の最大の原因とされるのが「自動車の価格・維持費が高いため、若年層の購買力では維持できない」とするもの。そこで今回は【50年前の商品の価格を今の価格と比較してみる】で用いた手法を流用する形で、総務省統計局における公開値【小売物価統計調査(動向編)調査結果】から各種計算を施し、自動車のお金関連の要素「本体価格」「維持費」のうち前者である本体価格の推移を確認していくことにする。
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50年あまりで約5倍に上昇
グラフを作成・精査するデータの取得元は上記にある通り、総務省統計局における小売物価統計調査。乗用車の価格は全国統一の値で収録されているが、長期の経年データが取得できるのは「小型乗用車・国産・排気量1500cc超-2000cc以下」の統一車種のみだった。そこでこの車種について、1970年から2016年分までの値を年次計測値より取得している。
ところがこの車種に関して小売物価統計調査では2016年12月時点で調査を終了してしまった。そこで2017年分以降については2016年12月時点で乗用車・国産車の区分で該当する車種の価格を比較。
・乗用車(7102)…200万9666円(小型乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される小型自動車のうち排気量1.50L以下のもの)
・乗用車(7103)(計測終了)…319万3956円(小型乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される小型自動車のうち排気量1.50L超のもの)
・乗用車(7112)…328万9669円(普通乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される普通自動車)
結果として一番価格の近い「乗用車(7112)(普通乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される普通自動車)」を2017年以降の抽出対象とすることとした。なお収録されている価格は車種指定がされているが、具体的な車種名、さらにはその車種が単数か複数か、差し替えが行われているか否かも含め非公開となっている。
その値を用いて作成したのが次のグラフ。最古の1970年では65万4000円、最新の2022年では329万2402円。約5.0倍に価格は上昇している。
↑ 小型乗用車の価格(国産・1500cc超-2000cc以下、2017年以降は国産・普通乗用車、円)(2022年は直近月)
前世紀末までは乗用車の価格はおおよそ右肩上がりで上昇する。そして2002年に一度大きく下げているが(この年のみ対象車種を変更しており、これが急落の主要因と思われる)、それ以外はほぼ横ばいから漸増の流れに変化している。
そして2014年から2015年にかけての急激な上昇。この急上昇については車種変更などによるものではなく、消費税率の引き上げも関係がない(税率引き上げによる価格上昇もわずかに生じている)。1年半近くで約90万円の純粋な値上げ。長期グラフでも妙な上昇ぶりを示すのも仕方がない。上記で解説の通り具体的な内容は非公開の車種指定による結果であることから、値を算出する対象の(複数)車種でこのタイミングで価格の引き上げが行われたものと考えられる。
今件価格はあくまでも本体の実売価格(消費税込み)であり、購入して利用を始めるまでに必要となる各種保険料や駐車場代は含まれていない。とはいえ、高度成長期と比べれば乗用車の価格が数倍に上昇していることに違いはない。大体半世紀で5倍、と覚えるのが妥当だろう。
物価上昇率を考慮すると
しかしこの時代の流れの間には、当然物価も変化している。50年前の100万円と今の100万円では、その価値には大きな違いがある。そこで消費者物価指数と連動させた上で価格の調整を行い、より正しい価格の実情を推し量ることにする。
具体的には各年の価格に、それぞれの年の消費者物価指数を反映させた値を試算する。先日の記事【1950年と比べて8.51倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移(最新)】で用いた値を基に、直近2022年の値を基準値として、各年の価格を再計算した結果が次のグラフ。つまり各年における物価が2022年と同じ水準だとしたら、実際にはどの程度の価格になるのか、その推移を示している。
↑ 小型乗用車の価格(国産・1500cc超-2000cc以下、2017年以降は国産・普通乗用車、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2022年は直近月)
消費者物価指数を考慮すると、乗用車の価格はさほど上昇していなかった。それどころか1990年代後半にかけては、一時的に値を落とした時期すらある。1980年代後半にいたるまで実質価格は下落。それ以降はゆるやかな上昇をしているが、上げ幅は限定的…ではあったのだが、2014年から2015年にかけて上記の通り、今まで居眠りをしていたのが飛び起きたかのように急激な値上げを示す形となった。これにより1970年から2022年における、物価を考慮した上昇幅はおよそプラス55.5%と算出される形となった。
無論今件値はあくまでも実売価格そのもの、そして消費者物価指数を考慮した上での価格変動。消費者一人一人の購買力や、自動車の便益の変化、さらにはガソリン代や駐車場代、車検代などの運用費までは反映していない。とはいえ、実質価格にはさほど大きな変化が無かった。しかしこの数年で大きく跳ね上がった。だがそれでもなお半世紀ほどの間には、物価上昇を考慮しても6割足らずの値上げにとどまっている。
「若者の自動車離れ」の一因とされている「乗用車の値段が高い」は、本体価格そのものの高さはもちろんだが、購入予備層の購買力の低下に伴う相対的な「手の届きにくさ」の増加、そして利用価値の低下によるところの方が大きいと見た方が、道理は通りそうだ。
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