60年あまりにわたるガス料金の推移

2022/05/21 02:00

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日常生活を営む上で電気同様に欠かせないインフラの一つが「ガス」。最近ではIHなどを用いてガスを一切使わない(オール電化)世帯もあるが、今なおガスは生活の中で、特に料理や湯沸し用として欠かせない存在に違いない。そこで今回は【50年前の商品の価格を今の価格と比較してみる】で抽出・算出した、総務省統計局における公開値【小売物価統計調査(動向編)調査結果】を用いて各種計算を施し、ガス料金の推移を確認していくことにする。

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急上昇、そして下落、最近では再び上昇から下落のガス料金


グラフを作成・精査するデータの取得元は上記にある通り、小売物価統計調査。東京都区部の小売価格を参考に、半世紀ほど前の1960年以降、一年間を終えて年平均が算出可能な範囲での最新値となる2014年分までの値を随時取得していく。対象となるのは東京都のガス料金、その基本料金(ガスを使わなくとも発生する固定費)と、従量制のガス料金(基本的に1平方メートルあたり、最低区分)である。

一方、先行する他の記事同様、2014年から2015年にわたる小売物価統計調査における大規模な調査項目の差し換え、内部仕様変更に伴い、ガス関連でも基本料金や従量制の単価に係わる調査が実施されなくなってしまった。ガスの利用状況に関しては他に「1か月1465.12MJ使用したときの料金を算出」した値が調査対象に挙がっているが、こちらは2004年以降の分しか値が取得できない。そこで今回は双方について、取得できる範囲の期間の動向を確認する。

↑ ガス料金(東京都区部、円)(2014年まで)
↑ ガス料金(東京都区部、円)(2014年まで)

↑ ガス料金(東京都区部、1465.12MJ使用を想定、円)(2004年以降、2022年は直近月)
↑ ガス料金(東京都区部、1465.12MJ使用を想定、円)(2004年以降、2022年は直近月)

まず2014年までのグラフにおける推移。左側がいびつな形となり体裁が悪いのだが、これはグラフ中の説明にもあるように、対象使用量の違いによるもの(昨今の事例【東京ガスの料金一覧】を見ればお分かりの通り、一か月のガス使用量によって基本料金は違ってくる)。原因は不明だが1960年代前半において短期間、計測対象とする料金の設定を頻繁に変えた形跡がある。そのため、この時期の数字が突出してしまっている。また同時期の従量制部分のガス代も、一部データが欠落している(グラフの上では作成ソフトの機能を用いてつなげてある)。長期データを取得するために色々と試行錯誤をしていたのだと思われるが、やはり中長期の推移を見るような機会においては、このようなデータの断絶・基準の変更は都合が悪い。同じような現象は電気料金でも確認できるが、詳細は不明である。

その特異値以外で推移を見ると、基本料金は1970年代前半・1980年代後半、従量制部分は1970年代後半で大きく値を上げている。一部はいわゆる2度の石油危機(オイルショック)とほぼ時期を同じくしており、その影響であることが分かる。当時は物理的なガソリン・灯油の不足だけでなく、関連商品各種が値を上げざるを得ない状態に陥ったわけだが、ガスにもそれが及んでいたことが見て取れる。もっとも輸入するガスは原則LNGであり、タンカーで運ばれてくることを考えれば、原油価格の上昇がガスの価格引き上げにもつながることは、容易に理解できるはず。

またその後状況の安定化に伴い従量料金は値を下げているが、先の金融危機に連動して発生した資源価格の高騰を受け、少しずつ料金も値をかさ上げしている。そして2011年の震災を経て、ガスの需要が急増したことにより、さらに少しずつではあるが、従量部分の料金は上昇傾向にある。

一方2004年以降の、一定量を使った場合の総合的なガス料金(世帯ベースでの利用状況を想定しているのだろう)。こちらは2010年まではいくぶん上昇気味の動きのあとに下降へ転じ、2011年以降はややキツイカーブでの上昇。基本料金などの区分は今件値からは判断できないが、一つ目のグラフと見比べると、従量料金部分の値上げが全体的なガス料金の支払いに影響しているものと考えられる。そして2014年をピークに、2016年までは下落に転じ、その後は横ばいからやや上昇、失速。2021年以降の大きな上昇の動きは、原油価格の高騰の影響を受けているものと見て間違いあるまい。

消費者物価指数と連動させて動きを確認する


モノやサービスの値段の価格の推移を見る場合、当時の額面自身の流れを追うとともに、家計に対する負担を考慮したい場合もある。その際に便利なのが消費者物価指数。この指数と連動させる形で価格を算出すれば、家計への負担の推移をより正確に推し量ることができるようになる。

そこで各年のガス料金に、それぞれの年の消費者物価指数を反映させた値を試算することにした。先日の記事【1950年と比べて8.51倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移(最新)】で用いた値を基に、2022年の消費者物価指数を基準とし、各年のガス料金などを再計算した結果が次のグラフ。

↑ ガス料金(東京都区部、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2014年まで)
↑ ガス料金(東京都区部、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2014年まで)

↑ ガス料金(東京都区部、1465.12MJ使用を想定、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2004年以降、2022年は直近月)
↑ ガス料金(東京都区部、1465.12MJ使用を想定、2022年の値を基に消費者物価指数を考慮、円)(2004年以降、2022年は直近月)

電気料金の時ほど美しいグラフを描いてはいないが、ガス代もまた基本料金部分は物価変動にほぼ対応しており、実質的な価格はおおよそ横ばいを維持しているのが分かる。一方、従量制部分は1980年前後の大幅値上げが目立つ。オイルショックは第一次(1973年。第四次中東戦争)よりも第二次(1980年。イラン革命)の方が、石油供給の観点では大きな衝撃を与えていたことが改めて理解できる。

また第二次オイルショック以降は資源供給の安定化とともに実質的に値下げ、そして横ばいの状況が続いたものの、その後少しずつではあるが値を上げていることも確認できる。特に2007年以降は金融危機に伴う資源価格の高騰、そして震災以降におけるエネルギー需給の変化により、上げ幅が大きくなっているのが気になるところだ。

他方、世帯ベースでの支払いを想定している2004年以降の動向では、大体従来の価格動向と変わりはない。2009年から2011年におけるへこみがやや大人しくなった程度である。昨今では原油価格の高騰を受けて上昇の中にあり、直近年では2004年以降の最高値となる2014年の値に届きそうな動きをしているのが気になるところだ。



家庭のインフラの大部分を電化する、いわゆる「オール電化」の浸透率は上昇中で、ガスは劣勢に立たされていた。しかし2011年の東日本大震災を経て、たとえ家庭内でもインフラを単一化することによるリスクが露呈してしまい、今では以前ほどの勢いは見られない。また、たとえ料金面でお得でも、多様性・応用性の高さで分のある電気を集中利用するのは、エネルギー利用の最適化の視点では問題があるとの指摘も少なくない。

昨今ではガス供給の面でシェールガスが注目を集め、世界におけるガスの需給状況が大きな変化を迎えている。日本においてもエネルギー政策の点で大きな揺らぎが生じており、それが数年前までのガス料金の値上げの一因にもなっている。すでに詳細は先行別途記事【電気代・ガス代の出費動向をグラフ化してみる】で解説している通り、資源価格の上昇、為替レートの変動、さらには電力事情の変化に伴うガス需要の急増をきっかけとしたガス価格の上昇などで、震災以降ガスの従量料金は漸増傾向にあった。昨今ではLNG価格の変動を受けガス料金も大きな上下感を示している。

今後ガス料金がどのような変化を遂げていくのか、中長期的な視点から見続けていきたいところだ。


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