自家用車を利用し続けるか、運転免許を返納して公共交通機関を使うか…経済面での比較(最新)
2022/08/04 02:52
高齢者の自家用車の運転は若年層と比べ運転上の事故リスクが高いとされ、社会問題化している。それとともに、高齢者の運転免許返納と、返納した場合の移動代替手段の問題が論議されている。その論議の際に問題視されるコストに関して、内閣府が2022年3月に発表した「高齢者の交通安全対策に関する調査」から、実情を確認する(【高齢者の交通安全対策に関する調査(令和4年3月)】)。
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初めに示すのは、自家用車を利用する場合の経済的負担額を概算で計算したもの。自家用車の利用目的を近所の買い物がメインとし、年間走行距離を4000キロと想定し、各種費用を算出したもの。
↑ 自家用車を利用する場合の経済的負担額(年間、普通自動車、近所の買い物がメイン・週2回利用・年間4000キロ、車種別、円)(2020年)
車両代だけでなく各種税金やガソリン代まで合わせ、年間では普通自動車が423086円、軽自動車では225824円のコストが必要となる。普通自動車と軽自動車との間には2倍近い差が出てしまう。ちなみに月額にするとそれぞれ35257円・18819円。
これに対し、運転免許を返納すると当然自家用車は利用できなくなるため、公共交通機関を用いて移動の目的を果たす必要が生じてくる。徒歩や自転車で行ける場所、同居人などに運転してもらえるのなら問題はないのだが、多くの人はそのようなケースはあてはまらないだろう。
そこで鉄道やバス、タクシーなどの公共交通機関を移動代替手段として用いた場合、自家用車の利用と比べてどれぐらいの経済的負担額に差が生じるかを計算したのが次のグラフ。自家用車を利用する場合の金額から、公共交通機関を利用する場合の金額を差し引いた結果となっており、これがプラスの場合には公共交通機関を利用した方が安上がりとなる。マイナスならば自家用車を利用した方が安上がり。
なお都市部と地方都市などにおいてはタクシー利用の金額は算出されていない。また金額には単純に運賃などの利用料金に限らず、利用場所までの移動時間や待ち時間による機会損失費用も加えられている。タクシー利用の場合に鉄道利用やバス利用と比べて負担額が低く抑えられているのは、機会損失費用がゼロとの仮定で計算されているからに他ならない。
↑ 自家用車を利用する場合と公共交通機関を利用する場合の経済的負担額の差(年間、近所の買い物がメイン・週2回利用・年間4000キロ、属性別、万円)(2020年)
あくまでも今回の試算においてはだが、都市部では公共交通機関を利用した方が経済的負担額は小さい。地方都市などでは普通自動車を利用していた場合は公共交通機関を利用した方が経済的負担額は小さいが、軽自動車の場合は利用し続けていた方が負担は軽いという計算になる。そして過疎地ではどのような状況でも、運転免許を返納せずに自家用車を利用し続けた方が経済的負担額は小さいとの結果に落ち着く。
過疎地では公共交通機関を利用する場合の経済的負担額が非常に大きなものとなっているが、これは多分に運転本数が少ないために機会損失費用が大きくなるからに他ならない。グラフ化は略するが、例えば近所の買い物がメインによる鉄道の待ち時間での機会損失費用は、都市部なら64360円だが、地方都市なら193080円、過疎地なら1158480円にもなる。タクシーの利用の場合は、この機会損失費用がゼロ計算のため、利用料金そのものは高いものの、経済的負担額は鉄道やバスよりも安くなっている次第である。
あくまでも経済的負担額の観点での話だが、基本的に都市部と、地方都市などの普通自動車利用者以外は、運転免許を返納して公共交通機関に切り替えず、自家用車を利用し続けた方が安上がりという計算になる。機会損失費用を勘案しなければ話はまた別になるが、それだけ移動が面倒になったり、自分の好きな時に移動できなかったりするなど、不便さを覚えることに違いはない。
もちろん今件は各種調査の結果を基にした平均的な環境下における試算であって、実情は個々の環境によって大いに異なる。とはいえ、お金の観点で勘案した場合、都市部など以外、特に過疎地での運転免許の返納はマイナスとなることから、首を縦に振りがたいという実情は認識しておくべきだろう。今件では考慮されていない、運転免許の自主返納に際しての地方公共団体や民間事業者における運転免許証返納者割引などの支援を、どこまで手厚くできるか、あるいは都市部と同じような環境を提供できるかが、運転免許の返納を推し進めるポイントになるに違いない。
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