コロナ禍の厳しさ続くもワクチン接種の効果への期待強まる…2021年9月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇
2021/10/08 15:00
内閣府は2021年10月8日付で2021年9月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇し42.1を示したが、基準値の50.0を下回る状態は継続する形となった。先行き判断DIは前回月比で上昇して56.6となり、基準値の50.0を上回ることとなった。結果として、現状上昇・先行き上昇の傾向となり、基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、内外の感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展等によって持ち直しが続くとみている」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和3年9月調査(令和3年10月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は上昇、先行きも上昇
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2021年9月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは43.3。
→詳細項目はすべてが上昇。「製造業」のプラス0.7ポイントが最少の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でプラス12.9ポイントの56.6。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは56.7。
→詳細項目はすべてが上昇。「サービス関連」のプラス19.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年9月では新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少を受けた、人や物の動きの復調を反映し、上昇を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年9月では新型コロナウイルスのワクチン接種の進展や各種規制の緩和・解除による期待から、上昇を示している。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2021年9月)
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年9月は新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少やそれに連動して人や物が動き出した実情を反映する形で、全体では前回月比でプラスを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2021年9月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。全項目で前回月から上昇を示している。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展への強い期待があるようだ。
すべては新型コロナウイルス流行の状況次第
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・売上、来客数、単価、いずれも前年同月を上回っている。ワクチン接種が進んで、客の購買意欲が少しずつ前向きになってきたようである(美容室)。
・まん延防止等重点措置から緊急事態宣言の継続により、来客数は厳しい状況であったが、9月の大型連休は昼の営業については少し活気があった。1か月全体では自粛の月であった(高級レストラン)。
・新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今まで好調であった高額品を含め、前月の中旬から今月の上旬にかけての動きは非常に悪かった。ただし、今月の中旬を過ぎた頃から、徐々に回復傾向となっている(百貨店)。
・緊急事態宣言に伴う営業規制や、外出の自粛による影響が大きく、新規予約の獲得は厳しい状況が続いている。単価を下げて販売せざるを得ず、苦戦が続いている(都市型ホテル)。
■先行き
・9月で緊急事態宣言が解除され、来月になると20時までお酒を提供できるようになるので、その影響で売上が伸びてくるのは確実である(一般レストラン)。
・ワクチン接種が高齢者を中心に行き渡り、国内の近場への旅行や冠婚葬祭などの行事に関連した買物が増えるとみている。今まで不振だったアパレルが復調すると期待している(百貨店)。
・受注は引き続き好調に推移しているが、自動車の減産の影響で配車の見通しが不透明であるため、来年3月の決算期に向けてどのくらい売上に結び付くか読めない状況である(乗用車販売店)。
・当県では時短要請が26日に解除となったが、人の動きはまだ鈍い。ワクチン接種率は向上しているため、10月以降新型コロナウイルスの新規感染者数が収まり、景気が復活することを期待している(タクシー運転手)。
新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、人や物の流れが回復しつつあることを実感する声が多い。先行きではコロナ禍による半導体などの部品不足の悪影響への言及が見られるのが気になるところ。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
・ホテル関係や4か月ぶりに空港関係への納品が再開している。外食関係の酒類の発注も徐々に増えてきており、緊急事態宣言解除に向けた各納品先の動きが活発化している(輸送業)。
・半導体不足や、コロナ禍による海外からの部品の入荷不足で、自動車各社が2割強の減産を余儀なくされている。それに伴い、自動車向けを中心に、20-30%の減産となっている(金属製品製造業)。
■先行き
・緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、飲食業や観光業が少しずつ回復基調になると推測する(食料品製造業)。
・建築資材の高騰が続いており、今後も上昇傾向と予想されている。その影響で、客の発注意欲にも影響が出ている(建設業)。
コロナ禍による厳しさは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、また各種規制が緩和・解除されることで和らぐ、回復するとの期待が多々受けられ。他方、コロナ禍も影響している、半導体をはじめとする部品不足によるビジネスへの影響を懸念する意見が複数確認できる。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。
・求人数は底堅く推移しており、製造業や交通警備、製造業派遣などの求人数が少し増えている(職業安定所)。
■先行き
・ワクチンの接種状況が進み、10月からは宣言も解除となる。サービス業中心に復調するとみている(人材派遣会社)。
新型コロナウイルスのワクチン接種の進展やそれに伴う各種規制解除・緩和が回復ムードを形成していることが分かる。
今件のコメントで新型コロナウイルスに関しては現状で390件(前回月497件)、先行きで579件(前回月768件)。凄まじいまでの言及数だが、前回月よりは減少している。一方で「ワクチン」に関しては現状で66件(前回月48件)、先行きで300件(前回月339件)の言及がある。今後の状況好転の鍵として期待されているようだ。実際、現状におけるワクチン関連のコメントを見るに、接種を終えたと思われる高齢者の動きが複数確認できる。また、接種が進んでいることによる心理的な安心感を指摘する声もある。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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