デルタ変異株によるコロナ禍の厳しさ根強く…2021年8月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2021/09/16 09:00
内閣府は2021年9月8日付で2021年8月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落し34.7を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続する形となった。先行き判断DIは前回月比で下落して43.7となり、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、持ち直しに弱さがみられる。先行きについては、内外の感染症の動向に対する懸念が強まっているが、ワクチン接種の進展などによる持ち直しの期待がみられる」と示された。ちなみに2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【令和3年8月調査(令和3年9月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。
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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2021年8月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは34.3。
→詳細項目はすべてが下落。「飲食関連」のマイナス19.3ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス5.4ポイントの43.7。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは41.7。
→詳細項目は「住宅関連」のみ上昇。その「住宅関連」のプラス0.5ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年8月ではデルタ変異株によるコロナ禍の影響の厳しさを受け、下落を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年8月では新型コロナウイルスに対するワクチン接種の進展による期待はあるものの、デルタ変異株による感染者数が増加し事態が悪化する状況が今後も続くとの見通しから、前回月から続く形で下落を示している。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。
↑ 景気の現状判断DI(〜2021年8月)
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年8月はデルタ変異株の猛威によるコロナ禍の影響悪化で、全体では前回月比でマイナスを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
続いて先行き判断DI。
↑ 景気の先行き判断DI(〜2021年8月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。ほとんどの項目で前回月から下落を示している。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展への期待があるものの、現状で猛威を振るっているデルタ変異株による状況悪化への懸念が強いようだ。
すべては新型コロナウイルス流行の状況次第
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、巣籠り消費が再び増加しており、その恩恵を受けている(スーパー)。
・新型コロナウイルス禍における県内の感染者数増加、緊急事態宣言の延長などにより、来客数の減少、衣料品、食料品等の売上減少に歯止めが掛からない状況で、全体的に厳しさが増している(百貨店)。
・県独自の緊急事態宣言や国からのまん延防止等重点措置、その後の緊急事態宣言対象地域への追加など、立て続けの発出で、ほぼ休業せざるを得ない状況である。テイクアウトも行っているものの、元々、酒と料理の店なので、売上が大幅に減少している(一般レストラン[居酒屋])。
・8月上旬は好天候や3連休により前年より多くの来場があったが、最繁忙期に当たる中旬の長雨、下旬のまん延防止等重点措置、緊急事態宣言の発出が相次ぎ、来場者が急減した(レジャーランド)。
■先行き
・ワクチン接種率の拡大で、8-9月がコロナ禍による影響のピークと予想され、街への人出の回復も期待される。長らく我慢が続くなか、年末には少し自分への御褒美消費が出てくる。外出の自粛が続く場合も、少しぜいたくな自宅でのクリスマスなど、消費意欲は今よりも高まると予想される(百貨店)。
・半導体不足の影響は薄まるものの、コロナ禍で東南アジアからの部品調達に問題がある。車の生産に大きな影響が出ており、受注はあるものの納車ができない(乗用車販売店)。
・ワクチン接種は進んでいるものの、新型コロナウイルス変異株の影響で、この状態が今年中継続すると予想される(タクシー運転手)。
デルタ変異株が猛威を振るっていることで、その恩恵を受けるところも一部にはあるが、おおよそはマイナスの影響を受け、厳しい状態。規制の継続や新たな発出が、足を引っ張っているようだ(見方を変えれば規制そのものがそれだけ効果を挙げているのだが)。先行きではコロナ禍による部品不足の悪影響への言及が見られるのが気になるところ。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
・ホテルなど業務関連への売上は厳しいなか、お盆向けや一般食品の販売は引き続き回復している(食料品製造業)。
・新型コロナウイルスの影響で、事務所や店舗の解約が止まらない。小さい物件から大きい物件まで、事務所や店舗にも解約が出ている(不動産業)。
■先行き
・2度目の緊急事態宣言で、今までテレワークに消極的だった企業も環境整備に乗り出してきている(通信業)。
・新型コロナウイルス禍による、国際的サプライチェーン断絶の影響は一層広がり、計画どおりの生産に戻るのは簡単ではない見込みである。自動車以外の分野にも影響が広がるのではないかと、懸念している(一般機械器具製造業)。
コロナ禍による厳しさは継続中との嘆きの声がある。他方、コロナ禍も影響している、半導体をはじめとする部品不足によるビジネスへの影響を懸念する意見が確認できる。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。
・新型コロナウイルスが再び感染拡大したことにより、持ち直しのムードが不透明な見通しになり、再開し始めた小売や飲食店などの求人が鈍化したように感じる(職業安定所)。
■先行き
・新型コロナウイルスの影響で海外での部品供給が滞り、部品不足や半導体不足により、好調だった自動車関連は国内工場が稼働停止になっており、今後も懸念される(アウトソーシング企業)。
デルタ変異株の猛威が、回復ムードを打ち消してしまった実情がうかがえる。また企業動向で指摘されていた、半導体をはじめとする部品不足が、雇用関連にも悪影響を与えてしまっている実情が見受けられる。
今件のコメントで新型コロナウイルスに関しては現状で497件(前回月461件)、先行きで768件(前回月777件)。凄まじいまでの言及数だが、これはコメントの編集上デルタ変異株についての言及もすべて新型コロナウイルスでまとめているからだと思われる。一方で「ワクチン」に関しては現状で48件(前回月119件)、先行きで339件(前回月464件)の言及がある。今後の状況好転の鍵として期待されているようだ。実際、現状におけるワクチン関連のコメントを見るに、接種を終えたと思われる高齢者の動きが複数確認できる。また、接種が進んでいることによる心理的な安心感を指摘する声もある。先行きで多少減っているのは、その分デルタ変異株に関するものと思われる言及が増えているからだと考えられる。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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