70年あまりにわたる収入と税金の変化(家計調査報告(家計収支編))(最新)
2024/10/04 02:44
社会環境の変化や医療技術の発展、人口構成比の変化に伴い、可処分所得や社会保険料の負担度合いが大きく変化しているとの指摘がある。今回は総務省統計局が2024年2月6日にデータ更新(2023年・年次分反映)を行った【家計調査(家計収支編)調査結果】を基に、その実情を確認していくことにする。
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実収入と非消費支出、可処分所得の実情
次以降に示すのは、家計調査(家計収支編)調査の公開値のうち、実収入や可処分所得、社会保険料が長期的に継続取得可能な対象となる、二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)における各種家計事情。原則として各年における平均月額を精査対象としてしている。また、2007年までは農林漁家世帯を除き、2008年以降は加えているため厳密な連続性は無いが(2007-2008年の値がいくぶん不規則となっている)、2008年の時点で農林漁家世帯が占める比率は0.4%にとどまっているため、目をつむることにする。さらに2018年分以降は人口5万人以上の市限定の値が非公開となってしまったが、他の属性値を基に独自に加重平均を用いて算出し適用する。
実収入をはじめとした各種用語の意味に関しては先行記事【収入と税金の変化(家計調査報告(家計収支編))】を参照のこと。
まずは実収入と非消費支出、可処分所得の推移を見ていくことにする。なお実額であり、消費者物価は配慮されていないことに注意。
↑ 実収入と非消費支出・可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く、円)
↑ 実収入と非消費支出・可処分所得(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く、円)(2001年以降)
戦後少しずつ増加を見せた実収入だが、バブル期に向かって上昇幅を拡大、一時緩やかになるが再び大きな増加を示し、バブルの崩壊後は減少せずにほぼ横ばいを維持。そしてここ数年では上昇を示している。直近の2023年においては、実収入は61万6386円・可処分所得は50万487円となった。
2020年に更新されるまで最高額を示した1997年・1998年以降、実収入や可処分所得は緩やかな下落を示していたが、【日米中のGDP推移を詳しく見ていく】でも指摘しているデフレ期の突入時期とほぼ一致しているのが興味深い。いやむしろ、デフレに突入したからこそ、実収入も減っていると見た方が道理は通る。2021年の前年比マイナスは、新型コロナウイルス流行による経済の後退が数字となって表れた形なのだろう。直近2023年の前年比マイナスは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた世界的な資源高を起因とする物価高騰によるところが大きいものと思われる。
なお人口構成比の観点で考えると、特にここ数年は高齢者でも退職後の再就職(多分に非正規就業で実収入は低いものとなる)で生活費の補完をしているケースが増えており、それが今件の実収入の値の頭をおさえている実情も考慮する必要がある(再就職でも勤労者には違いない)。
税金と社会保険料の実情は
これらの動向、実状がより分かりやすくなるのが次のグラフ。実収入に占める非消費支出、つまり直接税(所得税や住民税など)や社会保険料(公的年金保険料、健康保険料、介護保険料など)の割合の変化を示したもの。
↑ 実収入に占める非消費支出の比率(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く)
↑ 実収入に占める非消費支出の比率(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く)(2001年以降)
↑ 実収入に占める直接税や社会保険料比率(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く)
↑ 実収入に占める直接税や社会保険料比率(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く)(2001年以降)
直接税の負担はバブル期にかけて大きく増加したもののその後緩やかな減少、そして2005年からは再び上昇したものの2009年で天井を打ち、あとはほぼ横ばいで推移している。しかし一方で社会保険料の負担はバブル期以降一方的に増加するばかりで減少の機会はほとんど無く、結果として非消費支出の負担を押し上げる形となってしまっている。バブル期末期から2005年までの間において非消費支出の負担がほぼ横ばいだったのは、社会保険料の負担がゆるやかな上昇にとどまっていたのに加え、直接税の負担が漸減していたからに他ならない。
なお2020年において非消費支出の比率が大きく下落しているのは、上記グラフでも示されている通り、実収入が大きな増加を示したからである。直接税も社会保険料も額面では前年比で増加しているが、実収入の増加度合いが非消費支出のそれを大きく上回ったため、結果として非消費支出の比率が下がったまでに過ぎない。翌年の2021年にはほぼ元に戻ってしまっている。
非消費支出の増加は実質的に社会保険料の増加によるところが大きい。世帯あたりの社会保険料の額、比率が中長期的に増加しているのは、他の多数の記事で言及している通り、社会構造の複雑化・近代化に加え、高齢化に伴う医療をはじめとした社会保障負担の増加が要因である。
余談ではあるが、取得可能な最古の値となる1953年と直近となる2023年における、実収入に占める非消費支出・直接税・社会保険料の割合を比較したのが次のグラフ。
↑ 実収入に占める各種比率(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市))(1953年(農林漁家世帯を除く)、2023年)
直接税の負担はほぼ同率、むしろ減っているが、社会保険料の負担は4倍以上に増加し、結果として非消費支出の負担も2倍近くに増えている。可処分所得の目減りが何によるものか、容易に理解できるというものだ。
ちなみに社会保険料の実負担的な額面推移を見たのが次のグラフ。「消費者物価指数考慮額」は直近年の物価をベースに、過去において直近年と同じ物価だったとしたらいくらになるかを試算したもの。
↑ 社会保険料の実額と消費者物価指数考慮額(二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)、2007年までは農林漁家世帯を除く、円)
消費者物価指数を考慮しても、バブル期と比べて約2倍、1960年代(1万円前後)と比べれば6倍以上に増加している。過去の水準のイメージのままで、現在の社会保険料の負担を述べるのは大きな間違いでしかないことが改めて理解できよう。
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