コロナ禍で生じた映画館離れ…映画館での映画鑑賞の動向(最新)

2024/12/12 02:41

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2024-1206最近では社会現象まで巻き起こすヒット作が相次ぐ映画業界。しかしながらそのメインとなるプラットフォームにあたる、映画館での映画鑑賞は不調であるとの話をよく見聞きする。入場者数などはすでに業界団体から開示されているが、一般利用客の利用性向としてはどのような実情なのだろうか。総務省統計局が2022年8月31日以降順次結果を発表している2021年社会生活基本調査の結果を基に、その実情を確認する(【令和3年社会生活基本調査】)。

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映画館離れどころか実情は…だったが


今調査の調査要綱は先行記事の【ボランティア活動の実態(最新)】を参照のこと。

最初に示すのはデータが取得可能な1986年以降の映画館での映画鑑賞の行動者率(調査日において過去1年間に1日でも映画館で映画鑑賞をした人の割合)と行動者数。1986年から1991年は15歳以上が、1996年以降は10歳以上が対象となっているため、厳密には双方に連続性は無い。さらに1986年と1991年分は総数の行動率が公開されていない(対象年齢が異なるためだろう)。そのため行動者率では考察から外している。

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男女別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男女別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男女別、万人)(〜1991年は15歳以上、1996年〜は10歳以上)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男女別、万人)(〜1991年は15歳以上、1996年〜は10歳以上)

明らかに男女とも、映画館での映画鑑賞の行動者率は増加の一途をたどっていた。2011年に一時的に落ち込んだのは、同年3月に発生した東日本大震災に伴う直接の被害や自粛ムードに伴うものだろう。1996年当時には男性で1/4近く、女性で3割近くが少なくとも年に1日は映画館に足を運んで映画鑑賞をしていたが、2016年では男性で4割近く、女性は4割強にまで増加していた。

行動者数では2011年だけでなく1991年でも減少の動きを示したが、おおよそ増加の流れにあった。1986年当時と比べ、30年が経過した2016年では男性で600万人強、女性では1000万人近く増加していた。

ところが2021年では行動者率・行動者数ともに大きな減少を示してしまう。これは新型コロナウイルスの流行で生活行動で外出忌避の方向性が強まり、またいわゆる「三密」となりやすいことから映画館そのものが休館を余儀なくされることも多々あったからに他ならない。

これを年齢階層別に見たのが次のグラフ。年齢階層の区分を古い調査にあわせてあるので、直近2021年の公開値そのものよりは粗いものとなっている。また1986-1991年は10-14歳の公開値が存在しない。

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男性、年齢階層別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(男性、年齢階層別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(女性、年齢階層別)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者率(女性、年齢階層別)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男性、年齢階層別、万人)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(男性、年齢階層別、万人)

↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(女性、年齢階層別、万人)
↑ 映画館での映画鑑賞の行動者数(女性、年齢階層別、万人)

まず行動者率だが、調査年のヒット作とその対象年齢で少なからぬ影響も生じているようだが、大勢としては男性は30代以上、女性は20代後半以上はおおむね映画館での映画鑑賞をより積極的に行う傾向を示している。若年層は映画館での映画離れ的な動きも一部で見られたが(特に男性)、2016年では大いに挽回をし、調査対象期間内では最大の行動者率を示している。「君の名は。」が貢献した可能性を示唆する動きではある。一方で2021年ではその前の調査となる2016年から大きな落ち込みを見せている。いうまでもなく、新型コロナウイルスの流行によるもの。年齢階層別を問わずに下落が生じている。

行動者数の動向でも似たような状況が確認できる。男性は30代までが漸減、30代で増加の後に横ばい、それ以降は漸増。そして2021年では大きな減少。女性は行動者率とはやや異なり40代以降で好調化の動きをしていたが、やはり2021年では急落している。



業界団体の公開資料の限りでは、映画館入場者(延べ人数)は1958年をピークに大きく減少したあと1970年代以降は緩やかな減少、今世紀に入ってからは横ばい、先の震災以降は漸増の動きの中にある。

昨今一部界隈で語られている「映画館での映画鑑賞離れ」といった話は、今回の調査結果の限りでも確認することはできなかった。2021年の減少はコロナ禍という特異な状況下におけるもので、これだけで「映画館での映画鑑賞離れ」を断じることは難しい。

当時と現在とでは、人の生活にかかわる映像娯楽の環境は大きく様変わりを示している。1958年をピークに大きく入場客が落ち込んだのはテレビの普及によるものであり、テレビが無かった時代と同じような活況ぶりを期待する方が間違っている。

インターネットの普及に伴い高解像度の動画が自宅で楽しめるようになり、テレビも大型化・高画質化・多機能化を示している。映画館での映画鑑賞の動員数増加を目指すのなら、それらと対抗できる良質コンテンツの輩出を成しえる土壌づくり、インターネットや家庭のテレビでは得られない魅力あふれる体験を提供する模索が求められよう。

なお映画館以外での映画鑑賞も今調査では調査対象項目に挙げられているが(「映画館以外での映画鑑賞(テレビ・DVD・パソコンなど)」)、2006年と2011年の調査では「DVD・ビデオなどによる映画鑑賞(テレビからの録画は除く)」とずれのある対象行動だったため、時系列的な比較ができない。「自宅で映画館並みの大スクリーンで、好きなだけ映画を鑑賞できるようになったので映画館への入場客が減っている」という話を考察するデータは得られないことを記しておく。


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