専門家による施政「テクノクラシー」はよい施政方法か否か

2017/11/20 05:08

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施政の仕組みの一つとしてテクノクラシーなるものがある。選挙に選ばれた議員や住民が直接に物事を決め法を定めるのではなく、各方面の専門家・技術者が施政を行うとするものである。より合理的、科学的な決定により社会を収めていくべきだとの考えのもとに考え出された方法だが、果たして現在には受け入れられる仕組みなのだろうか。アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2017年10月16日に発表した調査報告書【Globally, Broad Support for Representative and Direct Democracy】を元に、その実情を確認する。



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今調査の調査要綱は先行記事【「あなたの国では民主主義が満足できるほどに機能している?」世界の人に聞いてみました】を参照のこと。

次に示すのはテクノクラシーについて、回答者の国での導入について、よいことであるか、悪いことであるかを尋ねた結果(導入の度合いは設問上では記されていない。仕組みそのものの是非を問われている)。肯定派は青系統、否定派を赤系統で着色している。

↑ 選挙によって選ばれた者ではない専門家が国にとって最適な選択をすることにより施政を行うテクノクラシーは自国にとってよい仕組みか悪い仕組みか(2017年春)
↑ 選挙によって選ばれた者ではない専門家が国にとって最適な選択をすることにより施政を行うテクノクラシーは自国にとってよい仕組みか悪い仕組みか(2017年春)

報告書では詳しい値は公開されていないが、中央値としては49%が肯定派(「とてもよい」+「よい」)で、48%が否定派(「悪い」+「とても悪い」)だとしてる。ほぼ折衷している次第である。

ヨーロッパと北米では否定派が多い。しかしながらハンガリーは肯定派が68%を占めており、特異な値を示している。同国では鉱山資源が豊富で、戦後に社会主義体制下で工業が推し進められ、冷戦後に資本主義に転じてからも工業中心の経済が成長を続けていることから、専門家への信頼が厚い結果によるものかもしれない。

アジア地域では北米やヨーロッパと比べるとやや高め。唯一オーストリアで否定派の方が多い結果が出ている。アフリカや南米では賛否両論やや肯定派が多い感はある。中でもナイジェリアでは肯定派が6割を超えている。他方ブラジルでは肯定派は約3割でしかなく、北米やヨーロッパよりも低いほど。

報告書では一部属性の傾向について伝えている。

・先進国の若年層は肯定派が多い。アメリカ合衆国では18-29歳の46%は肯定派だが、50歳以上は36%。

・18-29歳の肯定派と50歳以上の肯定派の差異(18-29歳の方が多い)が、オーストラリアでは19%ポイント、日本では18%ポイント、イギリスでは14%ポイント、スウェーデンやカナダでは13%ポイント。

先進国の若年層は専門家への純粋な信頼感が強いのかもしれない。

報告書ではテクノクラシーに関する詳細な解説はなく、単純に施政の仕組みとしての一概念を提示したに過ぎない。実際に専門家といっても玉石混交なのが実情に違いなく、同じ専門分野でも考え方に大きな違いがあり、単に専門家ならば最適の施策を導き出すとは限らない。

またその専門家にとってはベストの選択肢でも、その専門分野、さらには国全体にとっては悪しき選択である可能性も否定できない(「技術の暴走」が良い例)。その上、どの専門家を施政に関与させるかを誰が決めるのか、その決定者が国の施政を間接的に決めることになるため、実質的には独裁制に近い形となりかねない(「専門家が決定した」という無敵カードを手に入れたことになる)。

SFの描写で見られる「全知全能をうたうコンピューターに支配された未来社会」が、ある意味究極のテクノクラシーなのだが、それは果たして望ましい社会の姿なのだろうか。また、報告書では解説の最初に「最近『専門家』と呼ばれる人たちの言及の意義に疑問の目が向けられている」と記されていることも付け加えておこう。


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