下落を続ける米国内のマスメディアへの信頼感、直近では信頼派は32%のみ
2017/01/23 10:22
経年劣化と評されることも多々ある仕組みや内部で働く人の質の低下、対抗しうる新しいメディアの登場で内情が暴露されたことなど、多様な状況の変化に伴い、かつては社会に必要不可欠とされる公明正大な情報を提供する存在とされた大手メディアへの信頼性は、急速に落潮しつつある。メディア先進国ともされるアメリカ合衆国のその実情を、同国民間調査会社のギャラップ社が2016年9月14日に発表した、定点観測調査の最新版から確認していくことにする(【Americans' Trust in Mass Media Sinks to New Low】)。
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今調査の直近分は2016年9月7日から11日にかけてアメリカ合衆国に住む18歳以上の男女に対し、無作為抽出(RDD方式)によって選ばれた1020人に対し電話による通話インタビュー形式で行われたもの。回答者の6割は携帯電話経由、4割は固定電話経由。過去の各調査も類似方法によって実施されている。
次に示すのは最新分も合わせた、アメリカ合衆国の国民が大手メディア、新聞やテレビ、ラジオ(の発する情報)にどれほどの信頼を寄せているかを答えてもらった結果。信頼派を強弱、非信頼派を強弱の計4つの選択肢を提示し、回答者の心境に一番近いものを選択してもらっている。折れ線グラフはその選択肢のうち信頼派の合計を算出してグラフにしたもの。
↑ 新聞やテレビやラジオのようなマスメディア(が伝える情報)にどれほどの信頼を感じますか(アメリカ合衆国)
↑ 新聞やテレビやラジオのようなマスメディア(が伝える情報)にどれほどの信頼を感じますか(アメリカ合衆国、信頼派)
前世紀末でやや長めの未調査期間があるために回答状況に急変が起きているように見えるが、時間軸を一定にした折れ線グラフから分かる通り、マスメディアへの信頼度は一定の割合で低下を続けている。
冒頭でマスメディアのライバルとなりうるインターネットの存在が一つのきっかけであったことを言及したが、インターネットが普及浸透し始めた今世紀初頭、さらにはその浸透が加速する要因となったスマートフォンの普及が始まったこの数年間において、マスメディアの信頼感の減退が加速したようには見えない。予定調和的な信頼の失墜であることが分かる。あえていえば、2011年辺りから「全く感じない」「あまり感じない」がやや足を速める形で増加しており、それがあるいはスマートフォン効果かもしれないと推測ができる程度。
また直近の2016年9月は有意な形で信頼度が減退しているが、これは後述するように同国の大統領選挙絡みの「報道」によるところが大きいと見て良いだろう。
報告書では一部属性の動向も取得可能。次に示すのは回答者の年齢階層別の値動きを示したもの。
↑ 新聞やテレビやラジオのようなマスメディア(が伝える情報)にどれほどの信頼を感じますか(アメリカ合衆国、信頼派)(回答者年齢階層別)
興味深いことに今世紀に入ってから2011年辺りまでは、年齢階層別の差異はほとんど見られず、同じような減退ぶりを示していた。ところが2011年を境に、高齢層はむしろ上昇する気配を見せる一方で、若年層は下落を加速化する。上記でも言及した通り、インターネット、特にスマートフォンの普及浸透が始まったタイミングと一致しており、個人の情報取得スタイルの変化が、若年層に大きな心境の動きを後押しした可能性はある。いわゆるテクノロジーギャップがそのままメディアへの信頼感にも差異を生じさせたと推測しても、あながち的外れではあるまい。
他方、直近調査分では年齢階層を超えた下落が生じているのが分かる。これは後述するが、支持政党によるところが大きいのだろう。
最後は支持政党別。
↑ 新聞やテレビやラジオのようなマスメディア(が伝える情報)にどれほどの信頼を感じますか(アメリカ合衆国、信頼派)(支持政党別)
実のところ共和党支持者は元々マスメディアへの信頼度が低く、民主党は高い傾向がある。マスメディアが昔から民主党寄りなのか、マスメディアへの疑問を強く思う人が共和党を支持しやすいのか、その理由は今件調査からだけでは分からないが、数字として表れていることは事実ではある。また中立派はその真ん中あたりを維持していたが、2008年位以降はむしろ共和党寄りとなり、マスメディアへは信頼がおけないとする認識が強まっている。
今調査の直近分は2016年9月で、同国の大統領選挙の2か月前。その時点で民主党支持者の過半数がマスメディアに対し信頼を寄せていたのに対し、共和党支持者は14%でしかない。また中立派も30%に留まっている。同国のメディアが多分に「自由」ではあるが「公明正大」では無いことを多分に認識できる値ではある。
日本のメディアに関わる調査でも言及しているが、各メディアの信頼度は結局のところ、そのメディアを用いて情報を配信する「中の人」こと業界の信頼度に直結する。新聞やテレビ、ラジオは多分に独占的な存在として情報を配信するため、ツールとなるメディアがそのまま業界企業・関係者の信頼度とイコールとなる。インターネットは情報発信のハードルが低いため、同じようにひとくくりで考えるとつじつまが合わなくなってしまう。
同じギャラップ社では同国の報道機関に関して、大統領選の「報道」姿勢についても調査をしているが、多くの人が特定候補へえこひいきをする情報配信を成したと認識している。そのように評価される姿勢こそが、信頼度の減退となって表れているのだろう。
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