「近居」は進んでいるのか…高齢夫婦のみ世帯と子供の住む家との距離の関係を探る(2016年)(最新)
2016/01/10 05:33
複数世代間、特に血縁関係のある間柄において、同一住居内に住む同居世帯は、二世代世帯・三世代世帯と呼ばれ、かつてはごく当たり前の世帯構成だった。だが生活習慣の変化や価値観の移り変わり、個々世帯の尊重の風潮などを受け、昨今では多くの世帯が核家族化し、成人した子供と親、さらには祖父母も同居する複数世代世帯は少数派となっている。一方で昨今では同一住居のように見えるが内部では仕切り分けされている、さらには入口まで別個のものが用意され、実質的には二つの住宅が並んで建てられてる二世帯住宅による複数世代の同居、別居ではあるがすぐに行き来ができる距離に住む「近居」といったライフスタイルに注目が集まっている。特に近居はこれまでの統計上では表れにくい一方、現在の親子間の関係としては同居よりもハードルが低いこともあり、新たに選択する人が増えている。今回は総務省統計局が2015年12月16日に発表した【「2014年全国消費実態調査」】のうち二人以上の世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果の公開値を元に、高齢者(65歳以上)のみの夫婦世帯の居住地における、子供の居住場所との関係、具体的には同居・あるいは二世帯住宅的なところに住んでいるか、近居をしているか、そうでないのかの実情を確認していくことにする。
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今調査の調査要目は先行する記事【普通乗用車より軽自動車が所有される時代…自動車の車種・世帯種類別普及率(2015年)(最新)】で確認のこと。
今回対象とするのは、高齢者(65歳以上)の夫婦のみで構成される二人以上世帯における、自分の子供(孫では無い)の居住地との距離関係。同居している、あるいは二世代住宅などで同一敷地内に住んでいるか、別居だが徒歩5分以内の距離にあるか、やや遠いが片道1時間未満の距離にあるか(指定はされていないが同一設問の選択肢に徒歩とあることから、1時間未満も「徒歩1時間未満」と解釈できる。不動産界隈では徒歩は時速4.8キロで換算するので、大よそ5キロ以内と判断すれば良い)、1時間以上かかる距離にいるか、それとも子供そのものが居ないか。さらに直近の2014年分に関しては「片道1時間未満」を「片道15分未満」「片道(15分以上)1時間未満」に細分化する。
全国消費実態調査の「高齢者(65歳以上)の夫婦のみで構成される二人以上世帯」の公開値は1999年分以降が取得可能だが、1999年分は仕切り分けが異なっており連続性が無いため、2004年分以降の結果に関して、経年変化による状況を確認していく。なお「全体」は有業者が居る世帯・居ない世帯双方を合わせたもの、「有業者無し」は有業者が居ない世帯、つまり実質的に年金生活者世帯に限定した結果となる。
↑ 夫婦とも65歳以上で他に同居人無し世帯における、自分と子供の住んでいる場所との距離関係(全体)
↑ 夫婦とも65歳以上で他に同居人無し世帯における、自分と子供の住んでいる場所との距離関係(有業者無し世帯)
経年変化を見ると、現在に近づくに連れて同居・二世帯住宅の様式は減り、極めて近居(5分以内)は変わらず。片道1時間以内で行き来できる一般的な近居スタイルの割合は漸増し、その分遠居……と呼ぶべきか(本来の概念における「別居」)、片道1時間以上かかる距離感の世帯は減っている。単純な比率の上での話としてざっくばらんにまとめると「同居や距離が離れたスタイルが減り、多少距離を置いた形での近居が増えている」となる。近すぎず、遠すぎず、適度な距離への適正化と表現できよう。
また高齢夫婦世帯全体と年金生活世帯とを比較すると、わずかだが後者の方が同居率・極めて近居率が低く、遠居率が高い。年金のみで生活ができる状況に移行した以上、完全な別個の世帯であるとの認識が強くなっているのかもしれない。
高齢者自身とその子供の意図がどのようなもので、どれほど距離を置くべきかの思惑は個々の考え方、価値観によるところが大きいが、例えば【同居、近所住まい、別居…希望する老後の子供との距離は(2015年)(最新)】でも紹介した「国民生活に関する世論調査」においては、「一般的に、老後は誰とどのように暮らすのがよいと思うか」との設問で、高齢者に属する年齢となる60代と70歳以上自身は次のような回答を示している。回答者は高齢者個人だが、世帯ベースの決定にも多分に影響すると判断しても良いだろう。
↑ 老後は誰とどのように暮らすのが良いか(国民生活に関する世論調査、2015年)
国民生活に関する世論調査では「近くに住む」の具体的定義が無い。回答者の判断で選択されることになる。そのため、今件全国消費実態調査との単純比較は不可能だが、高齢男性は特に息子夫婦との同居を強く望み、高齢女性はどちらの子供とでも良いので近居を望んでいる傾向が強いのが分かる。
今件調査項目は高齢夫婦世帯が対象。意見力を考慮すると、多分に男性の意思が強調されるものと考えられる。単身高齢世帯と比べ、近居化はやや遅れが生じるのではないだろうか。
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