気候変動、国際経済の不安定化、そしてISIS…世界の人々の心配事の違い
2015/10/04 11:14
新聞やテレビ、そしてインターネットを介して人々は自らが住んでいる、行動領域からはるか離れた場所のさまざまな事象を知ることができる。距離的には数千キロのかなたにある場所の出来事でも気になる話は多く、さらには自分自身の生活に関与してくる事案かもしれない。そして人はポジティブな話よりもネガティブな内容に興味関心をそそられる。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2015年7月14日に発表した調査報告書【Climate Change Seen as Top Global Threat】から、その実情を確認していく。
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トップは気候変動、そしてISIS
今調査は2015年4月から5月に対面調査あるいは電話インタビュー形式によって各国18歳以上の国民に対して行われたもので、有効回答数は原則一か国につき1000件強、中国のみ約3600件(チベット、上海、香港、マカオはのぞく)。各国で調整項目は異なるが、ウェイトバックが行われている。
冒頭で触れている通り人は誰でも自身の生活行動範囲外の事案を見聞きし、それに心配する機会を有している。テレビ画面や新聞、インターネット上で確認できる出来事が場合によっては自分の身の回りに影響を及ぼすかもしれないし、さらには直接関係が生じる可能性もある。また、自分には直接関わり合いのない出来事でも、感情を揺るがされることもある。
そこで国際的な事案、具体的には世界的な気候変動、世界的な経済の不安定化、ISIS、イランの核開発問題、サイバー攻撃、ロシアと周辺諸国の緊張、中国と周辺諸国の緊張、計7つの事案を提示し、それぞれについてどの程度懸念を有しているかに関し、「大いに懸念(心配)」「懸念」「あまり懸念せず」「まったく懸念せず」「分からない・無回答」の中から一つを選んでもらい、そのうち「大いに懸念」の回答率が一番高い選択肢ごとにまとめたのが次のグラフ。各国の国民が、国際問題に関して、どのような方向性で憂いの方向性で関心を抱いているかが分かる。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(一番の懸念事項)
今回の調査対象国の中ではもっとも多くの国が挙げたのは世界的な気候変動。国のラインアップを見れば分かる通り、アフリカや南米など新興国でその懸念度が大きい。他方、中東や西欧諸国ではISIS問題がもっとも大きな問題として提起されている。「やんちゃ」な国の軍事的緊張状態に関しては、周辺当事国での懸念度が目立つが、該当当事国以外はトップには挙がっていない。
ISISに関しては中東各国に並び、ヨーロッパでの値が高い。これは直接的な脅威に加え、昨今大きく問題視されている移民・難民に直結する問題であるからに他ならない。また日本や韓国でも、気象変動や中国問題よりも高い値を示しているのには、不思議さを覚える人がいるかもしれない。「あなた自身はどれほど懸念を覚えているか」と質問をしているものの、その前提として「国際的な問題」と述べているため、自国内での憂慮の観点がいくぶんぼやけている可能性はある。
国別、地域別で異なる「憂慮すべき国際問題」の認識
これを各国ごとに、「大いに懸念」の値の動向を確認したのが次以降のグラフ。まずは北米・欧州地域。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(北米・欧州地域)
一見して分かる通り、緑の棒、つまりISISに対する懸念が他項目から群を抜いており、ひときわ高い懸念を持たれているのが分かる。アメリカ合衆国ではその他にもイランの核開発やサイバー攻撃、さらには経済的な不安定感へも強い憂慮の念を抱いている。スペインでは不況感の強さから経済的な不安定感へも高い値が示されているが、同時に気候変動も強い心配を持たれているのが興味深い。また、中国の軍事的策謀に関しては、一般市民ベースでは強い懸念は持たれていない。
欧州では唯一ポーランドが、他の問題から飛び出る形で対ロシアの緊張状態に関する懸念が大きい。これは歴史的背景に加え、容易に身近になり得る問題であることが主要因。とはいえそれをのぞけばISISがやはりトップ。
続いてロシア・中東地域。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(ロシア・中東地域)
ロシア問題は当事国であるロシア自身では設問から外されているので空白。一方の当事国であるウクライナでは、他の問題を大きく放す形で最上位についている。またロシア・ウクライナ双方で、経済の不安定感への懸念が強く、また気候変動にも高度の心配感を持たれているのは注目に値する。
中東地域ではやはりISISに対する懸念が強い。一方でトルコではむろし気候変動、イスラエルではイランの核開発に対する心配度が大きいのは、それぞれの国の内部事情によるところが大きい。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(アジア太平洋地域)
アジア太平洋地域でもISISへの懸念度は大きい……が、インドやフィリピンでは気候変動の方が強い懸念との結果が出ている。対中国問題ではベトナム、フィリピン、パキスタン、日本、インドなどが同国内他項目と比べて比較的高めの値が出ているものの、ベトナム以外では次点以降に留まっている(調査そのものは今年春先の実施であることに注意)。
興味深いのは中国の値。中国の対外強硬軍事政策項目は当事国であるため調査対象項目から外されているが、それ以外の項目も極めて低い値に留まっている。この動きについて報告書では特に解説は成されていない。海外の情勢にはあまり興味関心が無いのか、情報そのものがさほど伝わってこないのか、それとも「国内事情」をおもんばかってのものなのか。パキスタンでも似たような傾向があることから、恐らくは情報そのものが伝わってこないのか、あるいはわれ関せず的な立ち位置にあるとの認識が強いのだろう。
回答表を確認すると、「強い懸念」ではないが「懸念」の選択肢で相応の回答率が示されている。例えばISIS問題では「懸念」は中国で23%、パキスタンでは19%の回答率。ただし「あまり懸念せず」「まったく懸念せず」「分からない・無回答」の値も高めに出ており、さまさまな環境の上で国際情勢に係わる情報に関しては、両国は似たような状態にあるのかもしれない。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(南米地域)
南米では大よそ気候変動に係わる懸念が大きく、経済の不安定感が続いている。ISISやイランの核開発などは二の次、三の次。中国やロシアの行動に至っては「地球の裏側で何かきな臭い事が起きているっぽい」位の認識しかないようにも見える。
↑ 国際的な次の事案について大変心配しているか(2015年春)(アフリカ地域)
南米同様、アフリカでも気候変動や経済の不安定感に対する懸念度が大きく、ISIS問題はその次程度に留まっている。ガーナなどサイバー攻撃への懸念が比較的高い国がいくつか見受けられるのは、携帯電話、特にスマートフォンの普及に合わせたものだろう。また、南米などと同様、中国やロシアの問題への関心度は低い。
国ごとの事情でぶれが生じている部分もあるが、大よそ自国が直接かかわる問題以外では、欧米や中東ではISIS、世界的な経済問題や気候変動がそれ以外の問題に強い懸念を抱き、イランやサイバー攻撃はさほど問題視はされていない。世界情勢に係わる問題ではあるが、すべての人が同じような懸念を持つわけではなく、認識の実情はケースバイケース、立場に寄りけりであるということなのだろう。
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