貯蓄率減少は本当なの? 家計の貯蓄率(単身勤労者世帯版)(最新)

2023/05/08 02:49

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2023-0427先に【貯蓄率減少は本当なの? 家計の貯蓄率】において、複数の情報源をベースに、貯蓄率(収入のうちどれだけの割合を蓄財に回せるか。要は家計の余裕を示す指針)の動向を確認し、昨今話題に上っている「貯蓄率が減少している」傾向は、主に「貯蓄率が低い、あるいはマイナスの高齢者の絶対数、人口そのものに占める割合が増え、結果として全体の貯蓄率を減退させている」ことが原因であること、ここ数年では再び上昇傾向に転じていること、さらに指標の計算方法はともかく「貯蓄」の概念そのものが時代とともに変化を遂げていることを解説した。今回はそれをさらに裏付けするため、単身世帯、特に貯蓄率に係わる対象となる勤労者世帯における動向を確認していくことにする。

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貯蓄率を算出する家計調査の定義などを再確認


今回用いる値の取得元は、総務省統計局の【家計調査】。貯蓄率の概念に一番近い「黒字率」の動向を確認していく。その定義は次の通り。

・総務省の家計調査における「黒字率」
 可処分所得から消費支出を引き、それを可処分所得で割ったもの。経済関係の文献では家計貯蓄率、あるいは貯蓄率として、「黒字率」のうち、特に勤労者世帯の「黒字率」を指している事が多い。

※非消費支出…税金・社会保険料など
 消費支出…世帯を維持していくために必要な支出
 可処分所得…実収入から非消費支出を引いたもの

勤労者世帯に限定することが多いのは、非勤労者世帯の場合は勤労所得が無いことから、貯蓄率は基本的にゼロ以下になるため。年金給付も実収入に含まれるが、年金だけで生活ができる人はほとんどおらず、預貯金の取り崩しなどでまかなっている。

今回の精査でも原則、単身世帯のうち勤労者世帯を対象に各計算を行っていく。

単身世帯のうち勤労者世帯の直近黒字率は41.0%


最初に計算を行うのは、単身世帯のうち勤労者世帯における、直近2022年分の黒字率。全体では41.0%となっており、可処分所得のうち4割強が黒字となり、何らかの形で貯蓄に回されている。なお各グラフで60歳以上の年齢階層の区切りが無いのは、該当者数が少数で統計上のぶれが生じているため。平均では60歳以上も含めた値となっている。

↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、男女別・年齢階層別)(2022年)
↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、男女別・年齢階層別)(2022年)

黒字率は男性の方が女性よりも高い。これは元々男性の方が可処分所得が大きいのに加え、消費支出がさほど変わらないため。男性の35-59歳が34歳以下と比べて低い黒字率にとどまるのは、早期退職・再就職組(=収入は当然少ない)が35-59歳層には少なからず含まれているからだと思われる。

ちなみに男女別の主な収支は次の通り。消費支出に大きな違いはないが、実収入の差異が大きいため、黒字率にも差が生じてしまう。

↑ 単身世帯のうち勤労者世帯における主な収支(1か月あたり、男女別、万円)(2022年)
↑ 単身世帯のうち勤労者世帯における主な収支(1か月あたり、男女別、万円)(2022年)

そして次に示すのが、肝心の黒字率。34歳以下、35歳から59歳、そして平均値の3項目の推移を、男女合計、男性、女性それぞれについて示している。

↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)
↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)

↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、男性、年齢階層別)
↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、男性、年齢階層別)

↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、女性、年齢階層別)
↑ 黒字率(単身世帯のうち勤労者世帯、女性、年齢階層別)

女性はやや振れ幅が大きいものの、全体、男女それぞれで見ても、個々の年齢階層別、全年齢層でも、黒字率に大きな変化はない。あえて傾向を見出すとすれば、34歳以下の黒字率(特に男性)がいくぶん上昇しているようにも見える。その層では金銭的な余裕が出てきたのだろうか。また2020年以降では増加が生じているように見えるが、これは新型コロナウイルスの流行により交際費や交通費などの支出が減少したのが主な要因である。

単身世帯でも勤労者世帯、高収入が期待できる若年層から中年層も漸減中


単身勤労者世帯では貯蓄率の減少傾向はなく、むしろ若年層では増加する気配すら確認できる。ではなぜ全体としての貯蓄率≒黒字率が減少する傾向が見られたのか。それは先の記事でも触れている通り、貯蓄率が必然的に低くなり、場合によってはマイナスとなる高齢層、特に非勤労者世帯が増加し、全体の値を引き下げているのが主な理由。

次に示すのは今回の精査の際に用いたデータから作成した、単身世帯の構成比率推移。実収入が多い60歳未満の勤労者世帯が漸減し、勤労者でも多分に一度退職してからの非正規などでの再就職で実収入が低く、当然黒字率も低くなる、あるいはマイナスとなる人か多い60歳以上の勤労者世帯、さらには勤労所得などがなく、多くの世帯で黒字率がマイナスとなる非勤労者世帯(大部分は年金生活の高齢者世帯)の比率が増加している。

↑ 単身世帯の構成比率(世帯種類別)
↑ 単身世帯の構成比率(世帯種類別)

残念ながら60歳以上の勤労者世帯における黒字率の算出は不可能だが、少なくとも60歳未満より低いのは明らか。データが取得可能な2002年以降2022年までの間に、非勤労者世帯が4.2%ポイント増え、60歳以上の勤労者世帯も4.4%ポイント増加している。これではたとえ中年層までの単身勤労者世帯で黒字率が横ばい、あるいは増加傾向にあったとしても、単身世帯全体では黒字率がマイナスとなるのは、必然の話でしかない。そしてこの状況は二人以上世帯でも容易に想像ができる。

また、おおよそ2012年あたりからは比率において、非勤労者世帯率が横ばいとなり、60歳以上の勤労者世帯が増加している。さらにここ数年では非勤労者世帯の比率も減少する傾向にある。単身の定年退職者が非勤労者、つまり完全な年金生活者になるのではなく、非正規などの再就職に就くケースが増えてきたことを確認する値の動きに違いない。



結論としては先の記事、そして今記事の冒頭でも言及している「全体としての黒字率が減少の動きを示しているのは、黒字率が小さい、あるいはマイナスになることが必然とされる高齢者、特に非勤労高齢者世帯が全体数比で増加し、平均値を引き下げている」からに他ならない。この現象は他の経済指標、例えば携帯電話利用料金の家計負担(の一因)でも現れており、留意が必要になる。またこの数年に生じているさまざまな社会環境の変化が、貯蓄率の漸増にも表れていることにも注目すべきである。

余談ではあるが、今精査の際に併せて抽出した、他の経済的指標となりそうな値を二つほどグラフにしておく。

↑ 家賃・地代を支払っている世帯の割合(単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)
↑ 家賃・地代を支払っている世帯の割合(単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)

↑ エンゲル係数(用途分類、単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)
↑ エンゲル係数(用途分類、単身世帯のうち勤労者世帯、年齢階層別)

実のところ単身世帯のうち勤労者世帯に限れば、借家暮らしをしている人の割合はさほど変わらない。35-59歳で2012年以降減少傾向が見られるぐらい。

またエンゲル係数は明らかな上昇を示していた。これは食品価格の上昇も一因だが、それ以上に【貯蓄額別・日頃のお金の使い道】【中食系食品などの購入動向推移(家計調査報告(家計収支編))】などで解説の通り、多分に生活習慣・環境、特に食文化の変化(中食化)による所が大きい。エンゲル係数の経年的変化上の比較は、食文化・食生活の環境が同一である場合にのみ有効となる。昨今の状況変化は、その前提をくつがえしかねないほどの動きには違いない。他方、ここ数年では落ち着きを見せ、さらに下落の動きを示しているのは、消費支出全体の増加が大きな要因ではある。


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【直近では27.2%…エンゲル係数の推移(家計調査報告(家計収支編))(最新)】

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