アメリカ合衆国民が抱く中国への懸念の現状を探る(2015年)
2015/09/13 13:04
冷戦構造が終結し、米ソによる二大大国の世界的対立構造は歴史上のものとなり、今ではアメリカ合衆国が最大の大国としてその立ち位置を維持。そしてロシア、EUとしての欧州諸国の連合体、さらには中国が対立軸として存在する状況となっている。中でも中国は成長率が極めて大きいことに加え、ロシア同様太平洋をはさんで直接対峙していることや、同盟国との絡みもあり直接的な軍事的圧力の影響が生じている点から、その対立による懸念がこの数年拡大する傾向にある。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2015年9月9日に発表した、同国の市民ベースでの対中懸念に関する調査報告書【Americans’ Concerns about China: Economics, Cyberattacks, Human Rights Top the List】を元に、その現状などを確認していくことにする。
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今調査は2015年4月から5月にかけてアメリカ合衆国内に住む18歳以上の人に対して電話インタビュー形式で行われたもので、有効回答数は1003人。年齢、性別、教育水準、人種などによるウェイトバックが行われている。
次に示すのはアメリカが懸念を抱いていると思われる対中問題に関して、「大きな懸念」「懸念」「懸念していない」「まったく懸念していない」(+「分からない」、無回答)の選択肢の中から一つを選んでもらい、そのうち懸念派について表記したもの。
↑ アメリカ合衆国にとって中国関連の事案でどの程度の懸念事項だと思っているか(2015年春、アメリカ合衆国)
最近日本ではあまり報じられなくなったが、米国債の大量保有に関する懸念が一番大きく、89%、うち強い懸念が2/3。報告書によれば中国による米国債の保有額は7月時点で1.27兆ドルで、日本の1.20兆ドルを抜いてトップについている。全体比は約2割。
強弱の点では下になるが、懸念派では同じ値となるのが、アメリカ国民の就業機会の損失で、これが89%。報告書によると特に低収入者、共和党支持者、年長者、女性、低学歴の人がより強い懸念を抱いているとのこと。要は(支持政党は別にしても)回答者自身にとって切実な問題の立場にある人ほど、懸念は強くなる。
サイバー攻撃に対する懸念や中国の人権問題に対する懸念度も高い。対中貿易赤字も懸念派は8割を超え、強い懸念派は5割を超えている。他方、台湾と中国の関係における緊張化は、それらの問題と比べるとさほど強い懸念は抱かれていない。
米中関係はこの数年の間に悪化の方向へかじ取りを切ったかのように見える。経済問題や就労問題、軍事的対立、外交上の問題など思い当たる原因は山ほどあるが、実際に市民感覚での懸念はどのように変化したのか。ほぼ同一条件で3年前の2012年5月に調査した結果との比較が次のグラフとなる。
↑ アメリカ合衆国にとって中国関連の事案でどの程度の懸念事項だと思っているか(アメリカ合衆国)
突然悪化、実は状況はむしろ改善化……的な話は無く、少なくとも3年位前から現状のような、対中問題における懸念は相応のものであったことが分かる。これより前の期間における詳細区分の調査は行われておらず、比較をすることは不可能。単なる好き嫌い的な感情レベルの設問ならば別調査にまたがる形で実施されており、詳しくは別の機会に譲るが、やはり2012年がターニングポイントとなっている。それ以前は好意派の方が多く、以降は嫌悪派が多数を占めている。
動きはほぼ誤差の範囲だが、あえて違いを見出すとすれば、サイバー攻撃や中国内の人権問題、世界的に影響を及ぼす環境問題の点で、懸念度が高まっている。また、軍事的方面の項目は値の変化が無い。これらは日本でもよく耳にする問題であり、アメリカのみに限った懸念でもないのだろう。
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