短期間契約労働者比率の国際比較(最新)

2024/10/26 02:29

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2024-1018昨今の労働市場問題の一つとして注目を集めているのが、期限の区切りなく原則的には無制限で雇用されるか、ある一定期間の区切りを持って雇われることになる日雇い、臨時雇用者か否かの区別による就労状況。正規・非正規とはまた別の区分だが、就労上の安定感の観点では前者がはるかに上に違いない。今回は先行記事の【大学への進学率の国際比較】同様に、【労働政策研究・研修機構のデータブック国際労働比較】の公開データを基に、主要国の短期間契約による労働者の比率を確認していくことにする。

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次に示すのは全労働者に占めるテンポラリー(一時雇用の)労働者の割合。この「テンポラリー労働者」は国によって定義がさまざまで、日本の場合は一年以内の契約で雇われている人、アメリカ合衆国は自己退職者をのぞいた、雇用の継続が見込まれない労働者が対象。特定企業の業務を1年以下の期間を定めて請負う自営業者および独立請負人も含まれる。EU圏では労使の合意により雇用期間が定められた労働者。韓国の場合は契約が1年未満の有期雇用契約、無期雇用契約だが本人の意に反して解雇される可能性のある場合、派遣業者を通じた雇用、オンコールワーカー(事業主の求めに応じて不定期に短時間就労する契約労働者)が対象。

要は期限無しの正社員以外の雇用体系は国によって多様なため、今件項目のような「テンポラリー労働者」の区分でも、内情は随分異なることから、単純比較としては深い意味は無いことになる。

まずは公開・取得可能な直近データとなる2022年分。

↑ 短期間契約労働者比率(2022年)
↑ 短期間契約労働者比率(2022年)

日本の12.3%は対象国全体の中では中庸に見えるが、これは正規・非正規の区分ではないことに注意する必要がある。むしろオランダや韓国のような2割超えの国があることの方が驚き。イギリスは5.4%と低め。

この直近分に関して、年齢構成別に区分し直したのが次のグラフ。おおよそどの国でも似たような問題、つまり若年層における不安定な労働条件下での就労が浮き彫りになる形となっている。

↑ 短期間契約労働者比率(年齢階層別)(2022年)
↑ 短期間契約労働者比率(年齢階層別)(2022年)

おおよそ二つのパターン、具体的には若年層のみが高い国、そして若年層と高齢層がともに高い国が見られる。若年層が高いのは技術・経験的にまだ未熟であったり、労働市場の上で「前が詰まっている」事例があるため。EUの先進国の中でも失業率が高く労働市場のひっ迫感が強いフランスでは特に若年層の値が高い。他方オランダやイタリア、ドイツなどでも高い値が出ている。また、韓国やフィンランド、スウェーデンなどでは若年層とともに高齢層の値も高い。とりわけ韓国では全体的に短期間労働者の比率が高めとなっており、65歳以上では7割となっている。

例えばヨーロッパなどでは若年層に対して短期間の就労機会しか与えられなくとも、失業時には十分な補償と就業訓練の機会が与えられ、次なる就労へのスキルアップを行う機会が設けられている。これは大企業のような安定した長期雇用が期待できない状況にあること、そして解雇ルールが極めて柔軟性に富んでおり容易に解雇ができるのに併せて、構築された仕組みとなっている(【青少年をめぐる諸問題 総合調査報告書 若年者の就業支援 EU、ドイツ、イギリスおよび日本の職業訓練を中心に】から)。

また韓国では他国と比べて高齢層の異様な高さが目立つが、これは韓国の臨時労働者が期間の定めのあるものが主流なのが原因。同国では非正規労働者は時限的雇用者(労働契約期間の定めあり。契約社員など)、時間性雇用者(労働時間が正社員よりも短い。パートなど)、非典型雇用者(派遣や在宅、日雇いなど)に区分されるが、今件の短時間契約労働者をはじめとした非正規社員の多さが、経済全体に悪影響を及ぼすとして問題視されている。



先の大学進学率同様、社会制度や習慣、周辺環境のシステムが異なるため、一律に同じルールで枠組みを設けて数字を算出しても、参考値以上のものとしての価値は生じない場合が多い(以前紹介した貧困率などもその一つで、その数字に振り回されると本来の目的、問題の解決すべき点を見失ってしまう)。今件もまた、あくまでも指標の一つ程度としてとらえるのが無難。

その一方で、経済的な優等生と言われているドイツ、社会福祉制度などでよく名前が挙がるスウェーデンやフィンランド、そして韓国においてすら、短期間契約の労働者比率は極めて高い現状も認識する必要がある。これはもちろん解雇する企業側の解雇ハードルが低いのも一因だが、同時に失業時におけるサポートがしっかりしており、労働市場の流動性が高いのも原因の一つ。

あくまでも他国の動向はそれぞれの国の文化や習慣、歴史にあわせて少しずつ改善の中にあるもの。他国のよいシステムは参考にした上で、日本の現状、風習に合致する、雇用する側もされる側も、より多くが安定した状況を維持できる仕組みを作り上げていくべきだろう。


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