EUの懸念事項はロシアによるウクライナへの侵略戦争、27%が懸念を表明(最新)

2025/06/17 02:36

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2025-0616欧州連合欧州委員会(European Commission)は2025年6月に、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」の最新版となる第103回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのはロシアによるウクライナへの侵略戦争で、全体の27%が懸念を表明していた。ロシアによるウクライナへの侵略戦争は情勢に応じる形で2023年10月調査分から項目に加わっているが、その時は28%で移民問題の29%に次ぐ値を示しており、今回調査分では27%を占める形となった(【発表リリース:Standard Eurobarometer 101】)。

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「Standard Eurobarometer」は原則的に毎年2回行われており、今回発表分が103回目となる。今調査の直近分は2025年3月26日から4月22日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国および候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万6583人、EU27か国に限定すると2万6368人。現在イギリスはEU加盟国側ではなく候補国側で集計されている(厳密にはイギリスはEU加盟を表明していないので候補国ではないのだが、データの連続性などを考慮し、この扱いとしたのだろう)。

2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が社会問題化している。船を使い、あるいは陸続きで、より経済的に安定していると思われるドイツ、さらには英仏海峡トンネルを越えてイギリスに向かう人たちは後を絶たず、海峡トンネルでは警備の強化が成されるほど。また、対応しきれない一部の国では国境線の封鎖措置も行われ、これに伴う衝突も起きている。

さらに移民(難民)が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを覚える地元住民の不満の増加も併せ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と多分に連動する形でのテロ事件なども多々生じており、情勢はお世辞にもよいとはいえない。当然各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。昨今では中東情勢の緊迫化とともに移民の挙動への不信感が強まっていることや、北アフリカの政情不安定化によってイタリアに移民が殺到して混乱がおきていることなどを受け、欧州諸国における移民への反発は強まりを見せている。

他方2020年の春先から新型コロナウイルスの世界的流行により保健衛生への関心が高まり、また生活活動全般において厳しい規制が設けられることで、経済も大きな影響を受けるように。2021年春ぐらいからはワクチン接種の広まりで感染状況も沈静化に向かい、それに伴い流行で生じた経済の停滞とその回復動向に注目が集まるようになっている。

一方でロシアによるウクライナへの侵略戦争(グラフ上では原典直訳の「ウクライナでの戦争」あるいは「露宇戦争」と表記)そのものはもちろんだが、それに伴うロシアの外交的強硬姿勢はEUにおいても大きな懸念材料となっている。また、このロシアの挙動が主な原因として生じている資源高による物価の上昇も、頭痛のタネに違いない。

このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から2つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化がよくわかるように、過去4回分も合わせ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。また、直近調査の上位陣について、過去の調査分からの動向もグラフ化する。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)(2025年4月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択)(2025年4月)

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択、上位陣の動向)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU27か国、2つまで選択、上位陣の動向)

回答個数無制限の複数回答ではないため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況のような数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念はかつては低下する傾向にあった。2020年7月あたりで跳ね上がったのは、新型コロナウイルスの流行による景況感の後退によるものと考えられる。

それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。移民問題は2015年11月にピークを迎え、それ以降は下落する動きを示していた。状況に改善が見られたわけではないが、これ以上の悪化の動きもないため、少しずつ心境的に慣れてきたのかもしれない。ところが2023年に入ってから、再び上昇する動きを示した。中東情勢の悪化に連動する形での移民の挙動の不穏化や、大量の移民が欧州諸国に押し寄せて対応がしきれない状態が発生しているのが影響しているのだろう。

ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まった2022年2月以降はじめてとなる97回調査では、新たに追加された国際情勢が高い値を示す形となっている。直近の103回調査ではロシアによるウクライナへの侵略戦争が値を落としているものの、国際情勢が値を増やしており、初めて登場した項目である安全保障と防衛も高い値となっている。

国単位での自国における懸念動向を見ると、懸念の違いが微妙に異なることが見て取れる。

↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2025年4月)
↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2025年4月)

どの国でもインフレ・物価高がトップクラスで、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が主要因となっている物価高が、欧州諸国に大きな悪影響を与えている実情があらためて確認できる。ただしスペインは単純にインフレ・物価高にとどまらず、それに派生するであろう経済状況についての方が懸念度合いが強くなっている(さらに住宅環境も同一トップなのも注目)。続く問題としては、ドイツは移民、フランスでは政府負債、ギリシャでは経済状況など、国ごとの情勢の違いが見て取れる。

今回調査では「安全保障と防衛」や「民主主義への脅威(AI生成物などでの情報操作による)」の項目が加わるなど、情勢の変化に応じた項目の差し引きが行われている。「安全保障と防衛」の追加は、ロシアによるウクライナへの侵略戦争がヨーロッパ全体における国防問題として認識されつつあるとの観点で、興味深い話ではある。


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