無料で満足な人多数…有料動画配信サービスの内情を探る(2015年)(最新)
2015/05/21 08:25
映像や音楽の市場を大きく変質させる新たな技術・サービスとして、急速に浸透しつつあるのが有料動画配信サービス。個別の作品をデータ単位で買い取る、あるいはレンタルソフトのように短期間視聴できるスタイルだけでなく、クラウドサービスのように特定作品を視聴する権利を得られる「永久視聴権」の販売や、一定期間は特定の枠組み内で好きな映像が観放題の定額サービスも展開され、急速にその利用者を積み増ししている。今回は日本映像ソフト協会が2015年4月28日付で発表した、日本の映像ソフト協会そのものやソフト関連の実地調査結果を絡めた白書【映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査】の最新版「概要」をもとに、有料動画配信サービスの周辺状況を確認していくことにする。
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国内市場規模は614億円、利用者の年間利用本数は60本
先行記事【映像ビデオ市場の推移】にもある通り、直近の2014年では有料動画配信サービス市場は614億円を計上している。この市場には「定額見放題サービス」「都度課金サービス」「有料動画購入サービス」などが該当するが、WOWOWやスカパー!のような有料放送局による自社放送番組の再配信、ポータルサイトの有料付随サービス、動画配信サービスの有料プレミアムなどは該当しない。
↑ ビデオソフト(DVD&BD)市場規模推移(億円)(-2014年)(再録)
この有料動画配信サービスの利用状況を確認したところ、2014年では調査対象母集団(16-69歳。一般調査は1500人、有料動画配信の内情調査は300人。いずれも男女・年齢・インターネットの利用状況に関するウェイトバックがかけられており、調査対象母集団の属性に関する偏りは最小限に抑えられている)の5.9%が利用していることが分かった。大よそ17人に1人。また、利用者における平均利用本数は60本。
↑ 有料動画配信サービス利用率(2013-2014年)
↑ 有料動画配信サービス利用者の利用傾向
調査開始からまだ2年分しか経年データが無いので、経年傾向を推し量ることは難しいものの、2013年と比べて2014年は、利用者率が減り、利用金額が落ち込んでいる一方で、利用本数が増えているのが分かる。より廉価なタイトルの視聴、あるいは定額制のサービスを多用することでコストを抑えつつ、多様なタイトルを楽しむ視聴スタイルにシフトしているのかもしれない。
利用者はどのようなジャンルを視聴しているのだろうか。一番人気は海外映画、次いでほぼ同率で日本映画との結果が出た。洋画・邦画を問わず、映画を有料動画配信サービスで視聴するスタイルがメインのようだ。
↑ 有料動画配信サービス利用者の視聴ジャンル(複数回答)(2014年)
次いで多いのは海外のテレビドラマ。シリーズものをまとめて視聴するスタイルだろうか。次いで日本のアニメ、日本のテレビドラマなどが続くが、これらは有料動画サービスやチャンネルで、パッケージスタイルにしていちどきに配信している場合が多く、「最初から最後まで一気に視聴できる」便宜性が受け、視聴動機をかきたてる一因となっているようだ。インターネット喫茶などで長編ものや長期連載の漫画単行本がずらりと並んでいるのを目にすると、つい最初から読みたくなる、あの感覚と同じである。
上位陣のジャンルはこれらで占められており、それ以降は利用率が2割を切っている。視聴しているか否かのみの問い合わせで、どの程度の本数の視聴かまでは尋ねていないが、少なくとも有料動画配信サービス利用者でも8割以上はアジア映画・テレビドラマ、日本音楽ビデオ、海外アニメなどはタッチしていない計算になる。
なぜ有料動画配信サービスを利用しないのか。理由はやはり……
有料動画配信サービスの利用者は1割にも満たない。配信側としては地団駄を踏むような状況だが、それではなぜ有料動画配信サービスを利用しないのか。非利用者にその理由を尋ねた結果が次のグラフ。最上位の回答は「無料放送の視聴で十分」とするもので、4割近くが同意を示している。
↑ 有料動画配信非利用者の非利用理由(複数回答)(2014年)
次点は「無料テレビの放送を視聴する機会が増えたので」で22.7%。一つ飛んで「動画配信サービスは無料のもので十分」「無料テレビ放送を録画して見る機会が増えた」。いずれも無料の動画やそれに類するもので満足しており、わざわざ対価を支払って動画を視聴する必要性が無いとするものだ。また第3位の「動画を有料で見る習慣が無い」も広義では「動画への対価支払いの必要性を感じていない」であり、ちまたに広がる無料動画の充実ぶりが、有料動画配信サービスを圧迫している現状がうかがえる。
一方で「見たいコンテンツが特に見当たらない」「サービスの契約・機器の設定操作が面倒」のようなサービス側に改善が求められる要素や、「動画を観る時間がなさそう」「契約・購入するお金のゆとりが無くなった」など利用者サイドの事情によるところもある。しかし回答率としては「無料で十分」とする意見と比べると少数派でしかない。
この「無料でお腹いっぱい」はスマートフォンにおけるアプリケーション市場や、無料では無く自前で購入したライブラリの蓄積の点では多少異なるものの、デジタル系音楽市場にも同様の傾向が見受けられる。市場における消費性向が大きな変化を遂げる中で、売り手側も対応が求められるのだろう。
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