政府支出総額と人口比率…主要国軍事費の推移を別の視点から(最新)
2024/06/01 02:36
先に【主要国の軍事費】で国際的な軍事研究機関のストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)が発表したレポート【発表リリース:Global military spending surges amid war, rising tensions and insecurity】などを基に、主要国の軍事費動向を確認した。今回は同研究所が収録している各種調査データを用い、主要国の軍事費を複数の視点、具体的には政府支出総額に占める比率と人口比率から、見ていくことにする。
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政府支出に占める軍事費の割合、日本は2.8%
先行記事の通りSIPRIの調査の限りでは、2023年における各国軍事費(米ドル換算)でトップはアメリカ合衆国、次いで中国、そしてロシアの順となっている。
↑ 主要国軍事費(米ドル換算で軍事費上位15位、*は推定値、億米ドル)(2023年)(再録)
これは単純に米ドル換算して比較したもの。国によって内情が異なることから、単純な額面比較だけでは問題ではないかとの指摘もある。そこでまずは、それぞれの国の政府支出総額、つまり国家予算に占める軍事費の比率を算出する。
次に示すのは2023年時点における米ドル換算による軍事費上位10か国の、それぞれの国の政府支出総額に占める軍事費の割合。例えば日本は2.8%とあるので、国家予算全体の2.8%が軍事費にあてられていることになる。また過去値を用い、精査可能な範囲での過去の比率推移を折れ線グラフ化する。
↑ 軍事費の対政府支出総額比(2023年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国)(2023年)
↑ 軍事費の対政府支出総額比(2023年時点の米ドル換算で軍事費上位5か国)
↑ 軍事費の対政府支出総額比(2023年時点の米ドル換算で軍事費上位6-10位の国)
それぞれの国の各年における経済状況や周辺環境にも大きく影響するため、一概にどの程度が望ましい値なのかに関する基準値はない。【1944年の国家財政の85.3%が軍事費で占められていたという話】にもある通り、経済力に見合わない軍事費負担が国そのものの経済を不安定化させることも事実。もしもの時の経済的な不安を取り除くべく保険に多数加入したところ、毎月の保険料で首が回らなくなってしまうようなもの。
一方、同じ軍事費でも政府支出全体が増加すれば比率は下がる。政府支出総額に対する比率の低下は、単に軍縮・予算不足による削減以外に、経済力の伸張を意味する場合もある。
中東諸国は概して比率が高い傾向がある。そのため額面そのものも大きく、トップテン入りしたサウジアラビアのために、グラフ全体の縦軸の最高値を引き上げる必要が生じている。それでもかつて示していたピーク時の4割超えと比べ、直近では24.0%にまで落ち着いている。
中国は漸減傾向にあるが、これは軍事費が減っているのではなく、軍事費の増加以上に政府支出額が増えていることによるもの。インドも同様の理由により、漸減の動きにある。もっとも中国の場合、公開されている軍事費に関して内情が推し量りにくいため、推定値となっているのも要因だろう。
他方、ロシアとウクライナは2022年以降大きな伸びを示しており、特にウクライナは同一グラフ内にある他国とけた違いの数字を示したため、サウジアラビア以上にグラフ全体の縦軸の最高値を引き上げる必要が生じてしまっている。直近2023年では58.2%。政府支出総額の6割近くが軍事費に充てられている状況にある。
対人口比では!?
国家間比較の話でよく持ち上がる意見の一つが「人口が多ければ国の規模も大きくなるから、大国の数字が大きくなるのも当然」とするもの。そこでそれぞれの国の軍事費を、各国の人口で除算し、国民1人あたりの軍事費を算出したのが次のグラフ。
↑ 軍事費の対人口比額(各国国民1人あたり、2023年時点の米ドル換算、2023年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国、米ドル)(2023年)
↑ 軍事費の対人口比額(各国国民1人あたり、2023年時点の米ドル換算、2023年時点の米ドル換算で軍事費上位5か国、米ドル)
↑ 軍事費の対人口比額(各国国民1人あたり、2023年時点の米ドル換算、2023年時点の米ドル換算で軍事費上位6-10位の国、米ドル)
対政府支出総額が大きめなサウジアラビアが、対人口額でも大きな値を示している。他方アメリカ合衆国がそれ以上の値を示しており、あの人口をもってしてもこれだけの高額になるほど、アメリカ合衆国の軍事費が大きいことがうかがえる。
絶対額では大きな伸びを示す中国やインドだが、人口比では少額にとどまっている。日本は1人あたり406.8ドル。そしてロシアとウクライナが、対政府支出総額比同様に2022年以降大きな伸びを示しているのが分かる。特にウクライナは同一グラフ内にある他国の値を大きく引き離す状態になっている。軍事費上位10か国内では、アメリカ合衆国、サウジアラビアに続いて第3位のポジション。
経年推移を見ると、円安の影響を受けた日本で一時的な下落の動きがあったものの、それ以外の国では概して増加傾向にあることが確認できる。人口が急激に増減する事象は生じていないことから、軍事費はおおよそ増加傾向にあると見てよいだろう。また、アメリカ合衆国は2012年以降は減少傾向を示していたが、2018年以降は増加に転じている。
なおサウジアラビアが2016年以降において下落を示したことについてSIPRI側では「2015年までは国防費と治安部門費。2016年以降は軍事費と治安部門費。2015年以前は一部の警察部隊や準軍事組織、さらには治安部隊の費用が含まれている可能性が高いため、実質的なサウジアラビアの軍事費を過大評価している可能性がある」「2015年の値ではイエメンへの軍事支援に200億サウジリヤル(約6000億円)が提供されたものが含まれている」「サウジアラビアの軍事費には中東の複数国に提供されていると報じられる軍事援助が含まれていない可能性がある」と解説している。サウジアラビアも中国同様、軍事費については推定の領域を出ていない。
インドや中国のように多くの人口を抱える国の動向が分かりにくいこともあることから、対人口比の額面がどのような変化を示したのか、該当国すべてで値を取得できる最古の1993年当時と直近の2023年の値を比較し、その増加ぶりを倍数で示したのが次のグラフ。例えば日本は1.2とあるので、1993年から2023年にかけて、国民1人あたりの軍事費は1.2倍に増加(2割増し)したことになる。
↑ 軍事費の対人口比額(各国国民1人あたり、2023年時点の米ドル換算、1993年から2023年への増加倍率。1.0=変わらず、2023年時点の米ドル換算で軍事費上位10か国)
アメリカ合衆国、サウジアラビア、イギリス、ドイツ、フランス、日本は2倍台までの増加にとどまっている。インドはやや大きめで6.6倍、そしてロシアは14.5倍、さらに中国は実に20.1倍となっている。ウクライナは約600倍と、言葉通りけた違いの値。これもまた、各国の軍事費動向を推し量る上での指針となるに違いない。
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