トップはアメリカ合衆国の9160億ドル…主要国軍事費の最新状況(最新)
2024/05/31 02:32
ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)は2024年4月22日、2023年における世界の軍事費動向をまとめたレポート「Trends in World military expenditure 2023」を発表した。その内容によると2023年の世界全体における軍事費総額は2兆4434億米ドル(※)であることが分かった。もっとも多い軍事費(軍事支出)を示していたのはアメリカ合衆国で9160億ドル、次いで中国の2964億ドル、ロシアの1095億ドルが続いている。今回はこの報告書を基に、世界の軍事費の現状を確認していくことにする(【発表リリース:Global military spending surges amid war, rising tensions and insecurity】)。
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アメリカ合衆国と中国だけで全世界の49.6%を占める軍事費
最初に示すのは報告書やデータベースで公開されている、主要国の軍事費の上位陣国。米ドル換算で統一しており、「*」がついているのはSIPRIによる推定値。またあくまでもSIPRIが軍事費であると認識した額で、主に対外勢力に対抗する物理的国家軍事組織に対する執行予算がカウントされている。
↑ 主要国軍事費(米ドル換算で軍事費上位15位、*は推定値、億米ドル)(2023年)
↑ 世界の軍事費シェア(米ドル換算で軍事費上位10位国とその他、*は推定値)(2023年)
冒頭でも触れた通りSIPRIの計算による2023年の世界全体の軍事費は2兆4434億米ドル。その4割近くをアメリカ合衆国一国が示している。次いで多いのは中国で2964億米ドル、12.1%。為替レートが影響しうること、海外からの購入品もあるとはいえ、単純な軍事費の多い少ないで軍事力の大小が推し量り切れるわけではないが、やはり両国の軍事力の大きさが改めて認識できる。それとともに、冷戦時代は「米ソ冷戦」との言葉にもある通り、アメリカ合衆国と肩を並べる形で軍拡を行っていたソ連(一部独立した地域もあるが、実質的に今のロシア)の軍事費がここまで落ちていることに、改めて驚きを覚える人も少なくあるまい。
昨今防衛費関連で一部から多様な意見が出されている日本だが、【軍事費の伸びとグラフの書き方と】や【防衛費の推移を見ると、直近の2014年度分でも2004年度分にすら追いついていない】でも解説の通り、ここ数年はようやく持ち直してきたものの、今回の統計では世界で第10位にとどまっている。
また2023年においては、上位10位にウクライナが入ったことが注目に値する。額面は日本を超えて648億米ドル。シェアは2.7%。ロシアによるウクライナへの侵略戦争の当事国の1つとなれば、この額面も仕方あるまい。
対GDP比で比較してみると!?
軍事費の比較は単純な絶対額だけでなく、その国の実情に考慮すべきとの意見もある。そこで今回は、よく使われる指標の一つ、対GDP比を確認する。これはIMF発表の各国GDPと比較し、その国の軍事支出が何%に値するかを計算したもの。要は各国の経済力に対する軍事支出のバランスを示した値で、かつて日本で指標の一つとされた「防衛費はGNP1%まで」がよい例である(GNP1%枠はすでに撤廃されており、しかもGNPとGDPは別物。これについては機会を改めて解説する)。なおグラフは直近年の2023年における軍事費そのものの上位陣に絞り、国の並びも軍事費の大きい順としている。
↑ 主要国軍事費対GDP比(米ドル換算で軍事費上位15位の順、*は推定値、対IMF発表によるGDP比率)(2023年)
ウクライナが群を抜き、36.65%を示している。これは言うまでもなく、ウクライナがロシアによるウクライナへの侵略戦争のさなかにあり、国を挙げて防衛戦を展開していることを意味する。なおウクライナの軍事費には他国からの資金援助や装備品の寄贈分は含まれていない(それぞれの援助側の国の軍事費として計算されている)。
その特異な状態のウクライナを除けばサウジアラビアが最上位で7.09%を示している。次いでロシアが5.86%、イスラエルが5.32%、ロシアが4.06%、ポーランドが3.83%、アメリカ合衆国が3.36%。日本は1.20%で、中国は1.67%。軍事費上位陣の国はおおよそ1%から2%台に収まっており、日本が一番少ない。
SIPRIの過去の発表リリースなどを基に直近5年分について、軍事費と対GDP比の推移を、2023年時点の上位国に絞ってグラフ化したのが次の図。米ドル換算の際に、為替レートの大きな変動が影響しうるため、あくまでも対外比較指標程度に見てほしい。
↑ 主要国軍事費(米ドル換算で2023年における軍事費上位10位、*は推定値、米ドル換算、億米ドル)
↑ 主要国軍事費対GDP比(米ドル換算で2023年における軍事費上位10位、*は推定値、対IMF発表によるGDP比率)
アメリカ合衆国が大きな伸びを示しているが、これは中国の台頭を警戒してのものと考えられる。そして中国も同様の伸び方を見せている(直近年ではほぼ横ばいだが)。東西冷戦の終結後は先進諸国が軍縮、新興国が軍拡の方向を示すのがトレンドだったが、中国の経済成長に伴う軍拡やアメリカ合衆国における対中強硬姿勢が、そのトレンドを変えている。
そしてなにより、ウクライナの伸び方が凄まじいものとなっている。額面そのものはアメリカ合衆国や中国と比べれば小さいために目立ちにくいが、対GDP比の伸びで見ると、2022年以降、他の国の値がかすんで見えてしまうほどになっている。ここまでの無理をしなければならないのが、ロシアによるウクライナへの侵略戦争におけるウクライナの実情ではある。
繰り返しになるが軍事費はあくまでも指標の一つでしかなく、また為替レートで多分に影響を受ける。とはいえ、対外的要因が大きい軍事力の物差しとしては、十分以上に参考になるものに違いはない。
※2023年の世界全体における軍事費総額は2兆4434億米ドル
発表資料上の値は2兆2443億ドルですが、公開された統計資料の単純合算値は2兆4434億米ドルのため、記事の上では2兆4434億米ドルを採用します。各種計算にもこちらの値を用いています。
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