必要性とニーズ、合意とコンセンサス、同じ意味か使い分けが出来るか

2014/09/29 11:43

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一般の認識としてカタかな、外来語には権威やカッコ良さがあるとの意識を持つ人が多く、同じ内容でも外来語を使うことで重要性が増す、確からしさが上乗せされると考える人が少なくない。一方で容易に外来語を使うと軽薄さがにじみ出てしまいかねず、公的な文面では避ける場合も多い。文化庁が2014年9月24日に発表した「国語に関する世論調査の結果」の最新版では、一部の漢字を用いた言葉、そしてほぼ同意的に使われることが多い外来語との関係について調べ、その結果を明らかにしている(【発表リリース:国語に関する世論調査の結果について】)。



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「必要性」と「ニーズ」のみ使い分け可能派多数


次に示すのは漢字を用いた語と、それに類する意味を持つ外来語について、どのような認識を持っているか尋ねた結果。同じ意味だと思う(のでそのように使っている)、使い分けが出来ると思う、2つとも意味が分からない、そしてどちらか一方のみ意味を知っている、どの選択肢に自分の考えが属するのか分からないのいずれだが、使い分けが出来る人の方が多い組み合わせは「必要性」と「ニーズ」のみだった。



↑ 漢字を用いた語と外来語の意味・使い分け
↑ 漢字を用いた語と外来語の意味・使い分け

それ以外では「取消し」「キャンセル」、「利点」「メリット」、「危険性」「リスク」、「スキル」「技能」、「災害予想地図」「ハザードマップ」の組合せで双方とも同じ意味だと思う人が多数を占めている。例えばホテルや飛行機の予約を取り消す場合は「キャンセル」と表現することが多い(取引などに関係する場合)が、「取消し」の表現(取引以外の要件ですでになされてしまったことを無かったことにする、白紙にする)はあまり用いない。逆に、何らかの失言をしてその内容に問題があった場合、失言を「取消し」すると表現することはあるが「キャンセル」するとは言わない。このように言葉の組合せによっては場面で使い分ける必要があり、内容には微妙な違いがあるのだが、実際には同じ意味だとの認識が多数派となっている。

他方、漢字を用いた語のみ分かる人が最多意見を占めるのは「合意」「コンセンサス」、「優先順位」「プライオリティー」。また「基本計画」「マスタープラン」、「技術革新」「イノベーション」は使い分けが出来る人より漢字のみ分かる人の方が多い。さらに外来語の見分かる人はどの組み合わせでも少数派で、漢字のみ分かる人を超える事例はない。

つまり少なくとも今件組み合わせでは「外来語の意味を知らない人が結構な割合で存在する」「外来語の意味を知っていても使い分けまでできる人は少数派でしかない」実態が見えてくる。微妙な雰囲気の違いを表現しようとして外来語を用いても、相手はその意味自身が分からなかったり、漢字による語との差まで把握できない可能性があるということになる。意志疎通の齟齬が外来語の利用で生じる可能性が多分にあるわけだ。

「公的文章などでは外来語は使わない方がいい」は多数派


外来語の使用で生じうる意志疎通の齟齬の危険性や、雰囲気的な軽さを嫌うことから、上記の「漢字を用いた語」「外来語」の組合せでは、たとえ「同じ意味だと思う」と判断した人でも、不特定多数の人にあてた文書などに用いる言葉としては、外来語を敬遠する傾向が強い。「同じ意味だと思う」との回答率がもっとも高い「取消し」「キャンセル」の組合せでも、不特定多数に向ける文書では7割の人が「取消し」を用い、双方を同じように使う・どちらでも構わないとする意見は2割足らずに留まっている。

↑ 不特定多数の人にあてた文書などに用いる言葉として、どちらの言葉を使う方が良いと思うか(「同じ意味だと思う」と回答した人のみ)
↑ 不特定多数の人にあてた文書などに用いる言葉として、どちらの言葉を使う方が良いと思うか(「同じ意味だと思う」と回答した人のみ)

外来語の意味が分からないとする意見が多かった「合意」と「コンセンサス」、「優先順位」と「プライオリティー」では特に外来語の利用を敬遠する傾向が強い。同じ意味だと考えている人でも、外来語を用いることによる意志の齟齬発生の可能性や軽薄さ、さらには言葉そのものを理解してもらえないことへの懸念を抱いていることになる。唯一「災害予想地図」と「ハザードマップ」では「どちらでも変わらず」よりも「外来語の方を使った方が良い」との意見が多いが、これは先の震災以降多様な場面で「ハザードマップ」という言葉が使われ、ある程度の周知が成されているとの判断によるものだろう。



本文中で示した「取消し」と「キャンセル」の事例のように、外来語と漢字の組合せによる語との間には、その意味合いについて微妙な差異が生じるものもある。しかし多くはその差異を無視する形で、時に箔をつけるために外来語が使われる。

ところが実際には今件調査のように、外来語の意味を知らない人、第三者への文書では使わない方が望ましいと考えている人か少なからずいる。言葉が意志疎通のための道具であることを考えれば、その意思が伝わらない、齟齬が生じる、敬遠されてしまうのは、本意ではない。無理に外来語を用いることなく、必要に応じて使い分けをすべきだろう。


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