懸念事項は物価高と米国の通商政策…2025年3月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
2025/04/08 15:04


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現状は下落、先行きも下落
調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。
2025年3月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「悪くなっている」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは47.8。
→詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「製造業」で上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.4ポイントの45.2。
→原数値では「よくなる」「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」が減少。原数値DIは46.6。
→詳細項目は「住宅関連」「製造業」が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は無し。
冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が行われている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを作成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2025年3月では物価高騰の影響が強く出る形で、前月比ではマイナスの結果となった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2025年3月では現状判断同様に物価高騰への影響の懸念が強く、また米国の通商政策への不安もあり、前月比では下落した。
現状判断DI・先行き判断DIの実情
それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(〜2025年3月)
昨今では人流増加のプラス影響が力強いものはあるが、マイナス要因の筆頭としてロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響で生じているコスト上昇や、それが主要因の物価高が景況感への大きな足かせとなり、今回月では多数の部門で前月比マイナスを示している。特に「雇用関連」の下げ方が目立つ。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は無し。
続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(〜2025年3月)
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は無し。大阪・関西万博効果や春闘の結果に期待があるものの、物価上昇が多方面で足を引っ張っており、特に食料品や燃料費の価格高騰が大きな影響を与えている。また米国の通商(関税)政策への不安感も大きなマイナス要因となっている。
どこもかしこも物価高、そして米国通商政策への不安
発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
・春の行楽シーズンに突入し、団体旅行を中心に旅行需要は増えている。インバウンドの増加に伴い宿泊料が高騰しているが、それでも客は予約して旅行を催行している。しばらくはこの状況が続く(旅行代理店)。
・需要期ということもあるが、物価高への順応などが進み、客の消費意欲に変化がみられる(住関連専門店)。
・野菜および米の価格高騰の影響が大きく、買い控えが顕著であり、販売数量は前年を下回っている(一般小売店[食品])。
・冬から夏日となるような急激な気温変化で春物のコートの販売期間が短くなり、例年より客単価が下がっている(衣料品専門店)。
■先行き
・大阪・関西万博による効果が出ており、企業による社員旅行の問合せや受注が増えている。従来は閑散期である6月も、今年は空室がなく、既に予約で一杯の状態である(都市型ホテル)。
・春闘の結果が好調に推移しており、通勤者の懐事情に左右される当社としては好影響が見込める(コンビニ)。
・食品価格の高止まりが続いているため、客の節約志向が更に強まり、ディスカウントストアなどの低価格店舗に、客が流出する傾向が高まりそうである(スーパー)。
・4月よりビールの値上げで3月中は駆け込み需要があり、4月以降当分の間は、商品の動きは余りないとみられる。今後はこれだけ物価高では、消費者の購買意欲もなくなるとみている(一般小売店[酒])。
観光シーズン、大阪・関西万博、春闘などイベントによる底上げ効果が生じている・期待できる話が見られる。また物価高への耐性がつき始めているとの指摘があるが、一方でさらに買い控えが起きるのではとの懸念もある。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
・AI関連製品の受注拡大が継続しており、景気としても少しずつではあるがよくなっている(電気機械器具製造業)。
・受注量に変化はないものの、建設費高騰などの影響で事業予算内に収まらず、計画中止になる案件が複数出ている(建設業)。
■先行き
・観光客は増加傾向が続くとみられ、ゴールデンウィーク需要もあいまって食品関連の需要増加を期待している(食料品製造業)。
・米国大統領は4月3日からの輸入自動車への追加関税を発表した。自動車メーカーはまだ影響について公表していないが、先行きは不透明で、景気は悪化する(輸送用機械器具製造業)。
AI関連でうるおう企業の話もあるが、物価高でコストがふくらみ、計画そのものが中止になるという、世間話ではよく耳にする事案が実際に複数出ていることが確認できる。米国の通商(関税)政策はについてはすでに今回月の時点で懸念材料として挙がっており、次回月分ではさらに大きな懸念となっていることだろう。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
・3月から2026年卒の新卒採用が本格的に始まった。新卒の募集企業数は前年比で増加傾向であり、依然として企業の採用意欲が高いことは間違いない。ただし、慢性的な人材不足が根底にあり、景気動向の影響は少ない状況で、3か月前との変化も余り実感できない(求人情報誌製作会社)。
■先行き
・米国の関税政策により不確定要素が増している。特に地方経済の地盤となる製造業などでの景況感の悪化は、求人数減少につながる懸念がある(人材派遣会社)。
米国の通商(関税)政策問題は日本の雇用関連においても浅からぬ影響を与えているようだ。
多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。
世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスの流行だが、感染症法上における5類感染症への移行によって、世間一般では沈静化に向かっているとの認識が強い。しかし現状では感染者数は沈静化と認識できるほどの減り方はしておらず、むしろ増加の傾向にあると表現してもよいのが実情。後遺症のリスクも含め、感染しないように十分な注意をしなければいけない状態に変わりはない。すでに世の中は「そうなってしまっている」、それにもかかわらず、その現実を認めたくない人が多すぎるのが実情ともいえる。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。食料品や電気料金をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。また米国の通商(関税)政策も大きく足を引っ張りそうだ。
景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
↑ 今件記事のダイジェストニュース動画。併せてご視聴いただければ幸いである
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