落ち込む雑誌と伸びる雑誌と…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2024年7-9月)
2024/11/21 02:36
ゲームそのものの楽しさの提供だけでなく、周辺の人達とのコミュニケーションのための媒介・ツールとしての役割も大きい家庭用ゲーム機とその対応ソフトは、スマートフォンの普及とそれ用のゲームアプリの大々的な展開で、大きな転換期の中にある。ただでさえインターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視されるゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる中で、二重の危機誘発要因の到来に違いない。「アプリ系ゲームの紙媒体専門誌を出せばよい」との意見もあるが、あまり上手くいった事例を聞かないのは、情報の更新伝達スピードがマッチしないことや誘導性のメディア間ハードルが高いのが主な要因だろう。まさに四方の行く手をさえぎられた状態のゲームやエンタメ系の専門誌の実情に関して、社団法人日本雑誌協会が2024年11月5日に発表した、主要定期発刊誌の販売数を「各社の許諾のもと」に「印刷証明付き部数」として示した印刷部数の最新版となる、2024年7-9月分の値を取得精査し、現状などを把握していくことにする。
スポンサードリンク
4誌のみの状態変わらず…部数現状
データの取得場所の解説や「印刷証明付き部数」など用語の内容に関する説明、読む際の諸般注意事項、さらには類似記事のバックナンバーの一覧に関しては、一連の記事のまとめページ【定期更新記事:雑誌印刷証明付部数動向(日本雑誌協会)】で説明済み。必要な場合はそちらで確認のこと。また記事のカテゴリ名をクリックしてたどれる同一カテゴリの記事一覧からも、印刷証明付き部数関連の記事の過去のものを確認できるので、その手段も併用してほしい。
まずは最新値にあたる2024年の7-9月期分と、そしてその直前期にあたる2024年4-6月期における印刷実績をグラフ化し、現状を確認する。
↑ 印刷証明付き部数(ゲーム・エンタメ系雑誌、万部)(2024年4-6月期と7-9月期)
ゲーム・エンタメ系雑誌の中で最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で13.8万部。このポジションは前期から変わりなし。他の雑誌と比べると群を抜いて部数が多い「Vジャンプ」の立ち位置は、少年向けコミック誌の「週刊少年ジャンプ」と同じように見える。
現在印刷証明付き部数を公表しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも今グラフに表示されている4誌にとどまっている。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)なのが現状。今後も減少傾向が続くようならば、「ゲーム・エンタメ」の定義で包括しえる、類似カテゴリの雑誌を加えることも検討せねばなるまい。
とはいえ、類似の趣旨を持つカテゴリが存在しそうに無いのも悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、いずれも印刷証明付き部数は非公開なのが実情ではある。
2誌がプラス…前四半期との差異確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた部数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が配慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。
↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前期比)(2024年7-9月期)
ゲーム・エンタメ系雑誌において前期比でプラスを示したのは「声優グランプリ」「アニメージュ」の2誌で、両誌とも誤差領域(プラスマイナス5%)を超えたプラス幅。一方マイナスを示したのは「PASH!」と「Vジャンプ」で、両誌とも誤差領域を超えたマイナス幅。
ゲーム・エンタメ系雑誌では最大の部数を誇る「Vジャンプ」は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にあった。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らないパターンが続いている。
↑ 印刷証明付き部数(Vジャンプ、部)
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。
しかし長期的な部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況だった。昨今では15万部が底のような部数動向となっていたが、3年ほど前からはその底すら抜けてしまった。今は15万部をはさんでのもみ合いの流れと解釈できる動きをしている。前期では付録カードが部数をけん引したようで大きく伸びたが、今期ではその反動で大きな減少。むしろ前期のイレギュラーな部数から元に戻ったような雰囲気すらある。
今期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の前期比で最大のプラス幅を示したのが「声優グランプリ」。
↑ 印刷証明付き部数(声優グランプリ、部)
「声優グランプリ」は部数動向で時折大幅な増加を示す傾向があるが、これは注目を集める付録によるところが大きい。実際、2期前は付録の声優名鑑(3月号で女性編、4月号で男性編)が人気を博し、大きく部数を伸ばしている。一方、中期的動向を見ると、2018年あたりから部数は失速し、段々と減少度合いが加速しているようにも見られる。あまりよい傾向とは言い難い。今期の動きから、1万3000部あたりで底のようにも解釈できるのだが。
プラスは1誌の前年同期比
続いて前年同期比における動向を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べればロングスパンの動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。
↑ 印刷証明付き部数変化率(ゲーム・エンタメ系雑誌、前年同期比)(2024年7-9月期)
前年同期比ではプラス誌は「PASH!」のみで、誤差領域を超えたプラス幅。残り3誌はマイナスで、「アニメージュ」が誤差領域を超えたマイナス幅を示している。
前年同期比で大きなプラスとなった「PASH!」の部数動向は次の通り。
↑ 印刷証明付き部数(PASH!、部)
「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1-3月期は「おそ松さん」特需、2016年10-12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。2018年ぐらいからは2万部を底とする部数動向を示している。グラフを見ると、2023年1-3月期においてそれまで底値と推測できた2万部から急に落ち込み、その後は2万部への回復は果たしていなかった。しかし前期では大きな伸びを示し、2万部台を回復(2024年4月10日発売号で「崩壊:スターレイル」の特別付録(クリアファイル)や応募者負担ありだが応募者全員プレゼントが功を奏したようだ)。今期はその余韻もあり、前期比では減少しているが、2万部台は維持できている。
【ソフトハード合わせて国内市場規模は3774億円、プラスダウンロードが301億円…CESA、2022年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(最新)】にもある通り、日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は厳しい状況にある。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見い出さない限り、今後も紙媒体としての部数低迷は続くことだろう。
先行記事の【少年・男性向けコミック誌部数動向】でも言及している通り、コンテンツを取得する媒体の多様化、具体的にはスマートフォンやタブレット型端末で電子書籍・雑誌化された内容を読むスタイルが急速に浸透しているため、今件の「印刷された」雑誌の部数が割りを食い、減少している可能性がある。実のところ今ジャンルでも電子化されている雑誌は複数ある。さらに一部雑誌ではアマゾンのキンドルアンリミテッド(月額制の電子書籍読み放題の仕組み。登録されている書籍は好きな冊数を何度でも読める)に登録しているものもある。
しかしながらコミック系雑誌と違いゲーム・エンタメ系雑誌では、大きな表示で見ることで魅力が得られるもの、そして多数の付録がセールスポイントとなる場合も多々あり、単純に電子化しただけで紙媒体版と同じ訴求力が生じるとは考えにくい。さらに一部電子版では版権の問題からか、紙媒体版にあったページが一部省かれているとの話も確認できており、悩ましい状況には違いない。
2019年10-12月期には3誌がまとめて部数非公開化に踏み切り、その状態が今期も続いているため、「三大アニメ誌」の動向の確認などが不可能となり、記事構成の大幅縮小の状態が継続している。部数の非公開化は発売元の出版社、あるいは編集部による判断である以上仕方がないが、褒められる話ではないのは言うまでもない。部数の非公開化という判断もまた、雑誌動向にかかわる情報となるからだ。
■関連記事:
【「妖怪ウォッチ」はなぜ子供達に受け入れられたのか(上)…メディアミックス編】
【定期更新記事:出版物販売額の実態(日販)】
【付録付き雑誌「魅力を感じる」約4割】
【iPadはマンガ、Kindleは……!? iPadとKindle(キンドル)、閲覧したい電子書籍で異なる傾向が】
【「これじゃ皆スマホアプリに行っちゃうわけだ」が分かるセガサミーの資料】
スポンサードリンク