失業状況改善の動き、若年層は一部で悪化…EU失業率動向(2014年5月分)
2014/07/02 14:30
昨今ではむしろ東部、ロシアとの近隣諸国における政治的・軍事的混乱が注目されるヨーロッパ情勢だが、同地域の経済的困難さ(主に債務問題)を起因とする失業問題が解消されたわけではない。金融危機ぼっ発後に生じた失業率の異様な高さと比べれば、経済の復調と共に落ち着きを見せる値ではあるが、今なお諸国の失業率が高いことに変わりはない。同地域を中心に経済・社会情勢におけるデータを公的値から集積し、分析と共にその結果をまとめて公知し、政治的・経済的な集約組織の施策決定材料を構築する役割を持つ欧州委員会の統計担当部局、日本でいえば総務省統計局に相当する、EU統計局(Eurostat)は2014年7月1日付で、毎月の定例更新分となる諸国の失業率データの2014年5月分を解説レポートと共に公開した。今回はその暫定最新公開値、さらにはデータベースに収録済みの過去値(暫定値から修正済み)を用い、EU諸国を中心とした成人全体、さらには若年層に限定した失業率を確認し、同地域の失業率、さらには雇用市場動向の把握をしていくことにする。
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成人全体では改善の動き
データ取得元の説明、グラフや文中に登場するEA17・EU28の構成国の詳細や動向、各国の参加状況の変化は、過去の記事を一覧の形で収録したページ(【定期更新記事:ヨーロッパ諸国の失業率動向(EU統計局発表)】)上で解説している。
ILO基準に基づいた2014年5月時点の各国失業率は次の通り。EU28か国では10.3%・EA17か国では11.6%を記録している。先月分(速報値から修正済み)と比較すると、EU28か国はマイナス0.1%ポイント、EA17か国では前月から変わらない。状況的にはやや改善の動きと評することができる。今回更新されたデータについて過去の分までさかのぼって検証すると、EA17か国・EU28か国共に2013年4月に最悪の値を示しており(それぞれ12.1%、11.0%)、そこからは数か月に1回、0.1%ポイントの改善が見られるというスローリーな歩みだが、確実に事態の改善は果たされている。もっとも、1年で0.5%ポイント前後の失業率改善が、ゆっくりなものなのか、それとも順調なペースなのか、判断は難しい。一時的な値動きでは無く、一方向性の動きであることを考慮すると、評価すべき流れであることに違いは無いが。
このグラフもあわせ一連のEU失業率の記事では、最新データを掲載している国と合わせるため、(前月比算出のために)直近2か月分のデータがEurostat上で未収録(結構その類の国は多い)だった場合、「掲載時点で公開されている最新月分の」データを代用している。例えばギリシャは今回更新時点では2014年3月分までの値(26.8%)が公開されている(2014年4月分以降はまだデータが登録されていない)ので、ここでは2014年3月分を2014年5月分、そして2014年2月分を2014年4月として、収録・掲載・計算に用いている。
↑ 2014年5月時点でのEU諸国等の失業率(季節調整済)
今回月も失業率トップはギリシャで変わらず。スペインはそのギリシャに1.7%ポイントの差を有しての2位。このポジションはここ数か月は鉄板状態。ギリシャの値は上記にある通り最新値は2014年3月時点の値を適用させているため、比較の際に公平を期するため同月の値同士で両国の値を比較してみると、スペインは25.3%(3月分)。やはりギリシャの26.8%の方が上(悪状況)となる。ただし差は1.3%ポイントにまで縮まる。さらに両国とも誤差が結構出る国であるため、実体としての差異はさほど大きなものではないのかもしれない。
スペインはギリシャと共に国家経済上、債務的に破たん懸念の高い、危機的国家として日本でもしばしばその実情が伝えられた。むしろ当時の日本国内における知名度はギリシャよりも上だったかもしれない。例えば【空のガソリンスタンド、たなから消える生鮮食品……スペインのストライキ続報】など、当サイトでもそれらの状況を何度か伝えている。しかしここ数年の動き、そして今件失業率の動向を見るに、最悪な事態からは脱し、少しずつだが復調の歩みを進めている。
↑ 2012年6月-2014年5月での失業率(季節調整済)(スペイン)
EU・EA全体の失業率のピークが2013年4月なのは上で述べた通り。スペイン自身もほぼ同時期に成人全体の失業率の最悪期を迎えており、それ以降は少しずつだが確実に、状況の改善化が図られている。失業率・雇用市場にもっとも大きな影響を与える経済状態も、低迷、五里霧中状態にあることに違いは無いが、以前と比べれば見通しの面で日差しが差してきた感はある。少なくとも以前のような、アリジゴクの中に足を突っ込んだような心境状況ではない。
↑ EU諸国等の失業率変化(プラス=悪化)(季節調整済・2014年4月→2014年5月)(またはデータ最新一か月前→最新)
国内人口の少ない国では統計値が変化しやすい。また統計取得の方法の違いなどもあり(3か月分をまとめて報告し、その3か月間は同一値で推移しているような国もある)、結果の流れが他国と大きく異なる国がある。1年位前の値にまで数%ポイントの大きさで修正が入ることも珍しくない。そこで「前月比でプラスマイナス0.5%ポイント未満は誤差」と今サイト独自の基準を設けてチェックを行う。
すると今回月では改善・改悪共に際立った動きを示す国は無し、ということになる。ただしグラフ全体の方向性を見ると、プラス側、つまり状況悪化の国は少なめで、マイナス、状況改善の国が多いことは一目瞭然。その観点では喜ぶべき結果といえる。
次に示すのは最近定点観測を続けている3か国。当初はキプロスが悪化、アイルランドとポーランドが改善方向の国としてのサンプルだった。しかし最近ではアイルランドが横ばいに移行し、キプロスが際立った改善の動きを示している。事態の大きな変化がこれらの国で見られそうである。
↑ 2012年6月-2014年5月での失業率(季節調整済)(キプロス/アイルランド/ポーランド)
3か国間の順位はそう簡単に入れ替わる雰囲気は無い。しかし元々キプロスはアイルランドより失業率が低かったことを考えると、ポテンシャルは十分にある。むろしアイルランドが横ばいから再上昇の気配を示しているのが気になるところ。
一部の国で悪化…若年層失業率動向
続いて若年層(今件では25歳未満と定義)の失業率動向。日本も含め先進国では若年層の失業率の高さが深刻な状態にある。原因は複数挙げられるが「寿命の延び」「技術革新による同一労働に対する必要な人的リソースの減少」「経済構造の変化」など、先進国が持つ共通の状況変化の結果として生じる、いわば副作用的な社会現象といえる。元々これらの現象は効率化の過程で生じたもので、その余剰人員が新しい産業・市場に回され、市場、さらに経済全体が拡大し、社会そのものが成長を継続するという構造が前提だった。ところが技術革新や構造変革による効率化が先行し、新市場の開拓が追い付かず、結果として余剰人員、特に労働市場では立場上不利なポジションにある若者層を中心に、職からあぶれる人が増えることになる。
今回発表された2014年5月時点の25歳未満の失業率はEA17か国で23.3%・EU28か国でも22.2%。5人に1人以上が失業状態。成人全体の失業率は経済状態の回復の中で少しずつ改善しているが、若年層はそのスピードと比べればさらに緩やかな回復ぶりに留まっている。さらに一部の国では状況悪化の気配すら見受けられる。
成人全体の失業率上位ではお馴染みの国々が、若年層失業率でも上位に名前を連ねている。ギリシャの57.7%(2014年3月)を筆頭に、スペインの54.0%、クロアチアの48.7%(2014年3月)、イタリアの43.0%など、経済的に不安定な国の高さが目に留まる。
↑ 2014年5月時点でのEU諸国等の25歳未満の失業率(季節調整済)(5月データが無い国は直近分)
↑ 2014年5月時点でのEU諸国等の25歳未満の失業率・前月比(季節調整済)(5月データが無い国は直近分)
上記解説の通りこちらでもプラスマイナス0.5%ポイント未満を誤差の許容範囲内として判断すると、今回月ではギリシャ、スウェーデン、エストニアの悪化、ポルトガル、ブルガリア、ポーランド、アイルランドの改善が確認できる。先の成人全体では大きな値動きは無く、全体として改善の方向を見せたのとは様相を異にする動向である。今回月に限れば、若年層の雇用市場は二極化の方向性を見せつつある、と評するべきだろうか。
ギリシャと並んで成人全体において大きな失業問題を抱えるスペインだが、ここ数年では少しずつ若年層でも改善方向に歩みを示している。
↑ 2013年1月-2014年5月での25歳未満の失業率(季節調整済)(スペイン)
とはいえ今回月はやや跳ねる形で悪化。今年1月のイレギュラー的な動き同様のものなら良いのだが、やや注視するべき流れには違いない。
今回月の大勢をまとめると、「成人全体は改善徴候」「若年層は二極化」という形になる。元々若年層は労働市場でもしわ寄せを受けやすい立場にあり、それゆえに全体と比べても高い失業率とならざるを得ないのだが、回復基調でも「ポジションの悪さ」が影響を及ぼしているようだ。
なお冒頭で一部触れたように、現在のヨーロッパでは西側諸国の債務問題より、東部における旧ソ連領の中小国における内紛問題に注目が集まっている。各地域に住まう固定の民族、抱える歴史問題、そしてロシア、EU、そしてアメリカの思惑が複雑に絡み合い、事態の収拾は難しい状況となりつつある。この騒乱ぶりを受けてか、中東やアジアでもきな臭い動きが生じている(とはいえ、今件記事には直接関係は無い)。
東ヨーロッパの情勢問題は、直接的には雇用市場に関係がないように見えるが、事態の収拾のためには一定量以上のリソースが求められ、それは必然的に債務問題の解消と経済の復興、そして労働市場の改善化に割かれるはずだったものが割り引かれることになり、結果として事態の改善はスピードダウンしてしまう。さらに情勢の混乱に拍車がかかれば、復調を見せていた経済情勢も再び悪化を示す可能性がある。戦争リスクが高まる地域に積極的に投資を図る投資家は少なく、資金流入がしぼめば経済の復興は怪しくなってしまうからだ。
どのような結論が最適かは現状では推し量ることは難しいが、いずれにせよ早期の事態解決を望みたいことに変わりはない。
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