被災三県で未処理地域は福島県のみ、同県での津波堆積物の処理も大よそ終了宣言…震災がれき処理動向(2015年3月31日時点)(最新)
2015/05/01 05:19
2011年3月の東日本大地震・震災では被災三県(岩手県・宮城県・福島県)において特に大きな被害が発生し、災害廃棄物や津波堆積物で構成される、いわゆる「震災がれき」が大量に生じた。復興庁から2014年4月末付で発表された2014年3月末分の進捗状況公開値において、そのうち岩手県と宮城県の処理が終わり、残すは福島県内部のものにつき、作業が進んでいる状態であることが分かった。そして現在もなお福島県内でその作業は行われ、逐次状況は変化をとげている。今回は復興庁が2015年4月30日付で発表した(資料内日付は2015年4月24日)、2015年3月末時点の進捗状況に関して、過去のデータも含め、当サイトで独自算出した指標も合わせグラフを生成し、分析を行うことにする。
スポンサードリンク
福島県内では震災がれきは301万トン、そのうち未処理分10万トンに減少
「災害廃棄物」「津波堆積物」「災害廃棄物等」(「震災がれき」)など、今記事内で用いられる各種がれきに関する専門的用語の意味などは、関連記事の一覧ページ(【定期更新記事:震災がれき処理の現状(復興庁発表)】)にまとめて解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。なお公開資料の体裁は2014年5月末発表・同年4月末分から大きくそのフォーマットを変化させている。これは記述対象が、未処理対象が残る福島県、しかも処理が残る沿岸5市町をメインとした動向に限定されるようになったのが原因。
最初に確認するのは、がれきなどにおける「仮置き場」への搬入状況。災害廃棄物などは災害発生現場から直接処理場に運ばれ処理されるのではない。一度、仮の置き場に搬送され、その仮置き場から色々な方法で処分(焼却、埋め立て、再利用など)先へと運ばれ、処分が行われる。直接現場から処理現場に運ぶ方がスマートに思えるが、それでは処理工程や作業上の混乱が懸念される。要は商品の物流と同じで、量が多いだけにスムーズな作業の流れが求められる。そして現場(大部分は生活の場やその隣接地域)からの「がれき」排除を最優先事項としているのが、理由としては大きなものとなる。全体(福島県だけでなく被災三県における総合値。以下特記無き限り同)では2015年3月31日時点で災害廃棄物が99.9%・津波堆積物は100.0%との値が出ている。
家屋解体に関しては、福島県でなお作業が残っている南相馬市(避難区域以外)では残り31件、広野市では残り10件との説明がなされている。ここ数か月間、今件に関してあまり進行が見られないのは、国の設置した焼却炉で2016年処理開始予定、国の代行による仮設減容化処理施設で処理予定(2015年6月から処理開始予定)などのように、環境整備待ちの事案が多数含まれているからに他ならない。
↑ 災害廃棄物などの仮置場への搬入状況(2015年3月31日時点)
がれき処理の作業進行に連れて仮置き場に運ばれたがれきの総量は増加する。仮置き場から各実処理へ移行したものは差し引かない。あくまでも累計である。
続いて処分された災害廃棄物などの動向を示すグラフで、処分の現状確認を行う。「処分」は多用な手法が用いられる。単純な埋め立て処分だけでなく整地や防災緑地、防災林造成事業などに流用したり、焼却、再生燃料化、素材として売却処分、リサイクルなどが主な選択肢として挙げられる。今グラフ内の「未処理」とは、被災現場に残された状態だけでなく、「仮置場」に搬入されたままの状態の対象も含まれる。「仮置場」に移しただけでは言葉通り仮に置かれただけ。
↑ 沿岸市町村の災害廃棄物処理の進捗状況(被災三県・県ベース・2015年3月31日時点)(万トン)
↑ 沿岸市町村の津波堆積物処理の進捗状況(被災三県・県ベース・2015年3月31日時点)(万トン)
上記にある通り全体で仮置き場への集約率は災害廃棄物は99.9%・津波堆積物は100.0%までと、双方とも9割9分以上にまで進んでいる。しかしその先の行程の結果となる処理・処分済みの状況では、災害廃棄物処理に関しては岩手・宮城両県はすべて終了しているのでものの、福島県ではそこまでは達していない(津波堆積物処理は全県で処理を完了した)。
これは「震災がれき」の処理は内容が複雑で量も多く、処理に時間がかかるから。がれき自身がどのような物質から構成されているか、それすらも分からない場合が多く(特に津波の被害地域では、その場に存在していた建物によるがれき「のみ」とは限らない。他からの漂着物の場合も多々ある)、震災がれきの処理には内容物の選り分けをはじめとした、各種処理工程が必要となる。遅れが生じているのは、主にそれが原因である。それでもなお、今回発表分で津波堆積物処理が(公開数値の限りでは)終了したのは、大いに評価すべき事象であると共に、一つの節目を迎えた感はある。
被災三県で概算した全体的な処理の推移
復興庁では同庁公式サイト上で2011年12月時点分以降、災害廃棄物などの搬送動向情報をほぼ一か月のペースで公開している。その公開資料上で、処理・処分動向が公開されたのは2012年2月14日分、一方で津波堆積物は2012年7月31日分以降。
それらの公開値を逐次取得し、処理状況の推移を示したのが次のグラフ。上記にある通り被災三県のうちすでに岩手県と宮城県は処理を終えており、作業中なのは福島県に限定されているが、次のグラフは被災三県全体としての処理状況を示したものである。
↑ 沿岸市町村の災害廃棄物等処理の進捗状況(-2015年3月31日)
災害廃棄物の処理は2012年の年末、津波堆積物は2013年の春先から処理が加速している。「福島県における国の直轄処理地域での処理状況が計算から除外された」のも一因だが、むしろ主要因は政情変移に伴う処理への姿勢・対応の変化によるものだろう。それ以外に該当しうる理由が見つからない。
また災害廃棄物では2013年半ばから、津波堆積物でも2013年末から、上昇カーブがやや緩やかになりつつある。これは処理が終盤に迫るに連れて、困難な場所での作業を手掛ける事例が増えたことによるもの。一方でここ数か月は津波堆積物の処理が堅調で、災害廃棄物の処理と比べても進捗が明らかなものとなっており、今回月ではついに上記の通り津波堆積物の進行状況は100.0%に達することとなった。数字の色合いを変えて見間違いの無いようにしているが、2015年3月末時点では災害廃棄物処理は99.4%、津波堆積物は100.0%の進行状況、つまり数字上は完了状態にある。
全体進捗率は99.6%…進行現状のまとめ
最後に現時点での処理状況を一目で把握するため、各県ごとの災害廃棄物と津波堆積物双方(つまり「震災がれき」全体)の処理済み・未処理トン数、さらには総推定重量に対する処理進捗状況を公開値をベースに当サイト側で独自に算出し、その値を元にグラフを生成する。繰り返しになるが現在も処理作業を続けているのは福島県のみであることから「未処理」項目の表示がなされている(グラデーション処理がされた部分が表示されている)のは福島県と全体の項目のみである。
↑ 沿岸市町村の災害廃棄物等処理の進捗状況(被災三県・県ベース・2015年3月31日時点)(万トン)
↑ 沿岸市町村の災害廃棄物等処理の進捗状況(被災三県・県ベース・2015年3月31日時点)(対全体進捗比率)
現時点では震災がれきの処理は被災三県合計で99.6%まで進んでいる。
今グラフのうち、特に万トン数の積み上げグラフから見るに、今なお9.8万トンもの震災がれきが処理されず、その姿のままで(福島県の)仮置き場や現場に残されている。引越しに使われることもある大型の4トントラックなら2.5万台分、戦艦大和(満載時、7.11万トン)ならば1隻と少々と表現できる。
2014年4月公開・3月末分までの報告記事で伝えている、そして今記事でも繰り返し書き記しているが、現時点で被災三県のうち岩手県・宮城県における震災がれきの処理は終了しており、福島県のもののみが処理作業を続けている。復興庁発表の公開データも体裁を変えており、変動する数字もその領域を狭まることになったのを受け、2014年5月公開・4月末までの値に関する精査記事以降、今件記事もいわゆる「上書きタイプ」のものにスタイルを変更している(ただし最近では過去の記事について、検索エンジンにはインデックスをさせないとの指示の上で掲載を成し、記録保全は継続している)。
何度か表記しているが、今回発表分において津波堆積物の処理に関し「推計量134万トンの処理を概ね完了」とあり、震災がれきの処理が一つの節目を迎える形となった。これを受けて報告書では「平成26年度末までに一部の損壊家屋の解体と国による可燃物の代行処理を除き、概ね処理を完了」とし、引き続き確実に処理を実施すると共に、今後は「処理の節目毎に進捗状況を報告予定」とし、これまでの毎月の報告スタイルを改めるとしている(広域範囲における処理状況は、災害廃棄物は263万トン/273万トンで約97%の処理を終了、津波堆積物は100%の処理を終了)。
報告書の更新・開示が無ければ今記事の更新も行えないことから、今後は月次では無く折を触れての公開となる。状況が進行・改善したことは喜ぶべきだが、それで被災地の震災に関する作業すべてが終わったわけでは無い。むしろそこからスタートとなり、復興、回復、そして発展への歩みが待っている。
震災から4年が経過した今、それらの歩みを体現化するための各種事業でも、極力いわれなきハードルが取り除かれるよう、心から願いたいものだ。そしてもちろん今なお災害廃棄物の処理が進む福島県においては、一刻も早い作業の進行、そして今記事の更新作業の終了宣言が出せるよう、望みたいところではある。
■関連記事:
【定期更新記事:震災がれき処理の現状(復興庁発表)】
【震災がれき広域処理、賛成派88.3%・反対派8.9%】(2012年8月)
【「がれきの撤去」はまだ半ば…被災三県がボランティアに望むこととは】(2011年11月)
【阪神・淡路大震災では「がれき」などの処理は県内だけで行われたのか】
スポンサードリンク