鍋旋風一巡、すき家には嵐の予感…牛丼御三家売上:2014年04月分

2014/05/08 08:00

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吉野家ホールディングスは2014年5月7日、同社子会社の牛丼チェーン店吉野家における2014年4月の売上高や客単価などの営業成績を公開した。その発表内容によれば既存店ベースでの売上高は、前年同月比でマイナス3.3%となった。牛丼御三家と呼ばれている主力牛丼企業のうち松屋フーズが運営する牛めし・カレー・定食店「松屋」の同年4月における売上前年同月比はマイナス0.2%、ゼンショーが展開する郊外型ファミリー牛丼店「すき家」はマイナス1.4%との値が発表されている(いずれも前年同月比・既存店ベース)(【吉野家月次発表ページ】)。



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鍋効果一巡、前々年同月比試算で分かる各社の現状


↑ 牛丼御三家2014年4月営業成績(既存店)(前年同月比)
↑ 牛丼御三家2014年4月営業成績(既存店)(前年同月比)

牛丼御三家の前年同月比における、公開値による客数・客単価・売上高の動向は上記のグラフの通りとなる。まずは吉野家の状況だが、昨年同月(2013年4月分)の記事を基に営業成績を比較すると、一年前の客単価前年同月比はマイナス2.2%。今月はそこから転じて6.5%のプラスを示している。これは同社の主力商品である牛丼を2013年4月に値下げしたことの反動に加え、2013年12月から発売を開始した鍋メニュー(「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」)の高単価による後押しがあるものと考えられる。冬期から比べれば勢いは減じているものの、今なお営業成績の上では影響を及ぼしているようだ。

吉野家における熟成肉利用アピールまた【吉野家、牛丼並盛を4月1日から20円値上げで300円に・牛すき鍋膳などは10円上げに】でも伝えている通り、消費税率改定に伴う主力メニューの牛丼の価格引き上げも多分に客単価のプラスに貢献しているものと思われる。この牛丼値上げに際して吉野家では単純な価格引き上げでは無く、内容のリニューアルをも宣言し、その内情を公式サイトで大きくアピールしている。実際、吉野家に足しげく通う人たちからの声に耳を傾けると、そのリニューアルは大よそ好意的に受け入れられているようだ。

一方で客数は大きく減じてマイナス9.2%。3社間ではもっとも大きな減少幅を示している。これを受けて売上もマイナスに転じたわけだが、この下げ幅は現状の大幅な後退というよりは、前年同月の反動によるところが大きい。なぜなら直上の通り、1年前の同月は牛丼の値下げ開始直後で客数が大きく伸び、プラス13.6%を示していたからだ。試しに2年前同月比を計算すると、客数・客単価・売上高共にプラスとなり、中期的には順調な伸びであることが把握できる。

↑ 牛丼御三家2014年4月営業成績(既存店)(前々年同月比)
↑ 牛丼御三家2014年4月営業成績(既存店)(前々年同月比)

続いて松屋にスポットライトを当てる。同社では御三家ではもっとも新商品の投入に積極的で、4月に限っても「山形だし牛めし」「味噌漬け牛カルビ定食」「おろしポン酢牛めし(復活発売)」「筍(たけのこ)牛めし」を相次ぎ投入している。一方で【すき焼き鍋膳(松屋)試食】で報告した、一部店舗で地域限定導入をしていた鍋系定食の展開はすでに終了していることが確認されている。客単価は他社同様それなりに健闘したものの、客入りは思わしくなく、売上もギリギリながらマイナスとなった。ただし上記前々年同月比グラフを見れば分かる通り、2年越しの客数減少率は一番大きく、集客力の回復が求められるところではある。

最後にすき家。新作メニューの展開は特に無く、【一時お休み!? すき家の牛すき鍋定食など4月1日で「一時終売」】で伝えたように鍋系定食の発売を一時休止しており、これが売り上げにも明確に表れることになった。なお後述する一時的閉店店舗については、今件前年同月比算出の際には含まれていないため、数字には影響を及ぼさない。

↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2014年4月)
↑ 牛丼御三家売上高推移(既存店)(前年同月比)(2006年1月-2014年4月)

松屋・すき家で続いていた客数減少、そしてそれに伴う売上減退は、震災後の消費者性向の変化に伴う中期的な症状といえる。吉野家は他2社に先んじる形で客足の遠のきを経験しているが、牛丼の単価引き下げと鍋膳の適切なタイミングでの投入で、プラスを維持し続けていた。今回月はマイナスに転じているが、これは前年同月からの反動、牛丼の単価引き上げなどが遠因で、中期的に見れば復調過程に変わりはないことは、すでに上で解説した通りである。

いわゆる「すき家問題」


2013年度は吉野家の牛丼値下げに伴う「牛丼価格プレミアム」の喪失(牛丼価格が3社横並びになった)、そして同じく吉野家の「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」投入で生じた鍋ブームと、吉野屋主導的な業界動向だったことは否めない。他方今年度は「消費税率改定に伴う牛丼価格の格差再び」「鍋事情変化」「すき家の人員問題」など、新年度に改まった途端にさまざまな事象が生じている。客数動向も明らかにそれを反映した動きを示しているのが興味深い。

↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2014年4月)
↑ 牛丼御三家客数推移(既存店)(前年同月比)(2011年1月-2014年4月)

まず「消費税率改定に伴う牛丼価格の格差再び」だが、【松屋の牛めし並盛プラス10円で290円に・4月1日からの料金改定内容発表】の解説の通り、消費税率改定に伴い3社とも牛丼価格の変更を実施し、これにより価格のみで考えれば松屋・すき家に再び「牛丼プレミアム」が生じることとなった。特にすき家は吉野家と比べて30円も安いことになる。

・吉野家……300円(+20円)
・松屋……290円(+10円)
・すき家……270円(−10円)

※いずれも税込価格、カッコ内は3月までの価格からの変異

他方吉野屋とすき家はこれに合わせて牛丼の味つけなどの改善も発表しており、この変更の影響も来月以降客足動向に表れてくるはず。

続いて「鍋事情変化」。吉野家は4月以降も鍋メニューの展開を継続している。それどころか【吉野家の鍋膳陣営に「牛バラ野菜焼定食」が加わる可能性】でも伝えている通り、季節感に合わせた新鍋メニューを試験導入しており、これが本格的な全国展開メニューとして登場する可能性もある。鍋への注力は相変わらずのようだ。一方すき家では後述の「すき家の人員問題」にも深く関係してくるのだが、4月から一時的に鍋メニューの展開を休止しており、これが客足の遠のきの一因となったことは否めない。松屋においては上記の通り、結局地域限定メニューの導入で今回は終了してしまっている。すき家の動向をも考慮すると、ある意味賢明だったかもしれない。

そして「すき家の人員問題」。【すき家、鍋定食などによる人手不足を公認、環境改善のため6月をめどに7地域分社化を決定】の解説の通り、昨今の小売業における人材不足が特にすき家では著しく、その一因として手間がかかる鍋メニューの導入が負担になったことを公式に認めている。そして根本的な状況改善を図るため、店内設備の効率改善のためのリニューアルや会社組織の変更、第三者委員会の設置と委員会の提言に耳を傾ける仕組みの構築などを実施している。

具体数はすでに公知されているが、店内設備の改善工事や人材不足による休業はかなり深刻なようで、既存店では無く全店舗における前年同月比(現在休業中店舗も含む)の推移をみると、2014年4月は公開データが取得できる2007年4月以降では最低水準の89.4%(マイナス10.6%)を示している。

↑ すき家業績推移(売上高、全店)(前年同月比)(2007年4月-2014年4月)
↑ すき家業績推移(売上高、全店)(前年同月比)(2007年4月-2014年4月)

既存店のみの前年同月比売り上げがマイナス4.9%であることから、単純試算で5.7%ほどが休業などの影響によるマイナスとなる。店舗数そのものは1920店から1985店に3.4%ほど増加しているため、「店舗数そのものが減ったから全店売上が減った」との説明は出来ず、休業店舗の影響が小さくないことがうかがえる。

年度替わりのタイミングでもあることから、学生アルバイトの入れ替わりが起きており、それがすき家の人手不足に拍車をかけているとの解釈もある。一方、店舗によっては時給の漸次引上げによる人材確保対策も伝えられているものの、状況の改善がなされたとの話はあまり見聞きできない。

人材不足は店舗そのものの営業時間短縮や一時的閉店といった直接影響だけでなく、開店が出来てもサービスの低下による中長期的な集客力の減退、そこから生じる客数の減少という結果を導きかねない。条件は多分に異なる(、だからこそ問題は生じていない)ものの吉野屋や松屋にも他人事ではない、むしろ他山の石となりうる状況といえる。「すき家の人員問題」は牛丼価格や鍋メニュー以上に、今年度の牛丼チェーン店業界において、大きな焦点となりそうである。


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