常に世界から取り残される自分…ラグを実世界で体験してみる
2014/05/03 10:00
オンラインゲームで遊んでいる人なら、あるいはネット上で限定品の通販をした人なら一度ならずとも経験のあるはずの「ラグ」。厳密には「タイムラグ(Time Lag)」と表し、自分自身の行動や環境上の変化・入力に対し、コンピューター上の反応に遅延が生じることを意味する。時報と共に入力したはずなのにデータ上では数秒遅れており、限定品を買いそびれてしまう、ゲーム上で華麗に回避行動をしたはずなのにいつの間にか直撃を受けていた……良くある話であり、今や「よくある事象」ととらえている人も少なくない。その「ラグ」をリアルな世界で実体験してしまう実証実験が行われ、話題を集めている(【トリガー記事:ラグと共に過ごす...もし自分が数秒遅れの実体験の中で生活するとしたら】)。
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↑ 実験内容を紹介する公式映像。:living with lag - an oculus rift experiment
今件実験はスウェーデンのエネルギー総合会社Umea Energiの1セクションである、ネットワークプロバイダume.netが実施したもの。同社のプロバイダ回線による高速性をアピールするため、逆説的に「遅い回線環境で容易に起きうるラグ状態を、実社会上で実体験するとどのような状況が発生するか」を検証している。
実験の手法は次の通り。ボランティアスタッフに専用のHUD(ヘッドアップディスプレイ)を被験者として装着してもらい、観察体制においた上で日々の生活を営んでもらう。このHUDを通しては、各種情報が添付されるといった今話題の「グーグルグラス」のようなものでは無く、実環境から多少の遅延が生じた上で世界を見通すことになる。例えば時計をじっと見続けていたとすると、実世界上では「7時00分00秒」の時に、HUD越しの世界、つまり被験者の目には「6時59分59分」の時計が映っている次第。実験では最初に1/3秒の、そして3秒遅れのタイムラグを体験してもらっている。1/3ならちょっとしたずれ程度に思えるが、3秒となると明らかなズレを確認できる。
↑ ラグが発生した視界が広がるというHUDの仕様を説明中。HUD越しに手を振りかざしても、視界の中ではまだ手が見えていない。クレイジーという叫び声も
早速生活の中でHUDを付けながら色々と活動をしてもらうことになったが、3秒はおろか1/3秒でも非常に難儀させられる。冒頭部分にある通り、卓球をしてもろくに打ち返すことができないばかりか、床に落ちた玉を拾うことすらなかなかかなわない。激しい動きをするフィットネススタジオのエアロビクスではあまりにものぎくしゃく感に焦りを覚えるばかり。「自分がどこにいるのかは分かってるはずなのだけど、どちらを向けばよいのか分からない。結局、自分がどこにいるのか分からないのと同じなのよ」と嘆いたりもする。
↑ 卓球の試合はおろか、床に落ちた玉を拾うのにも難儀する
↑ 音楽に合わせて皆と同じ踊りを踊っているはずなのだけど……
台所に置かれているボールの上に卵を割って入れ、それを使ってパンケーキを作るという、静止している物体を使った行動ですら、うまくいかずにあたふたモード。割った卵をつい落としてしまったり、ようやく作ったパンケーキミックスをフライパンに注げずに大変なことになったり。
↑ 卵を割ってボールに入れる。そんな些細なことにすら困難さを覚える
ボーリングなどしようものなら、まともに球を投げることすらかなわない。当然ガーターばかりを連発する。自分の手持ちのボールの重量感と見ている情景が合致しないのだから、コントロールできるはずもない。
↑ ボーリングでは当然ガーターばかり
映像は最後に「実社会ではラグなど受け入れられるはずもありませんね。それではオンラインではどうでしょう?(もちろん同じく受け入れられないでしょう。だからこそ当社の高速回線で快適な、ラグの無い環境を…)」と締めくくっている。非常に上手い切り口ではある。
↑ 最後に「実社会ではラグなど受け入れられるはずもありませんね。それではオンラインではどうでしょう?」とのメッセージ
視界が歪む、色が変調・脱色する、あるいは狭まるなどの病症は良く知られているが、タイムラグが生じる病症は(SFの世界ならともかく実社会では)聞いたことが無い。しかしネット上でしばしば起きている状況を現実社会に持ち込んで再現すると、その実状が非常によくわかるのは興味深い。今後はXbox360に使われるキネクトのような全体行動をトレースするデバイスを用いたネットゲームなどで、今件と似たような体験をすることになるのだろうか。
なお映像の右端に時々表示されるHUDから見た情景部分を確認すれば分かる通り、スペック上の問題から、HUD越しの映像は結構ギクシャクしており、見えやすいとは言い難い。この映像の見にくさも、行動上のおかしさの原因の一つとして考えられる。眼精疲労も生じてしまうだろう。技術進歩がなされ、この映像部分がスムーズに表示されるようになれば、もう少し違った結果も見えて来るかもしれない……いずれにせよ、まともに行動できるとは思えないし、有益性は考えられないのだが。
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