10年で伸びたのは4業種のみ…4マスへの業種別広告費の「10年間の」推移(最新)

2024/03/03 02:40

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2024-0229電通が2024年2月27日に発表した、日本の広告業界の動向を記した報告書【発表リリース:2023年 日本の広告費】を基に、いくつかの切り口から精査を行い、広告業界の動向を垣間見ている。今回は4大従来型メディアとも表現される4マス、テレビ(メディア)・ラジオ・新聞・雑誌における、業種別広告費の10年前と直近(2023年分)とを比較する。業種毎の主要媒体に対する中期ベースでのアプローチの変化を推し量ることができよう。

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10年間の推移を額面比較


2023年における媒体別広告費前年比は次の通り。今回取り扱う4媒体では雑誌とラジオがプラス。

↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2023年)(再録)
↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2023年)(再録)

それでは1年ではなく10年を経た変化はどのようなものだろうか。それが今回の記事の主旨。

今報告書にはテレビメディア・雑誌・新聞・ラジオに対する、21に区分した広告主業種別の広告費の推移が掲載されている。2023年と2013年における対象メディアすべての値を抽出し、整理した上で並べてグラフ化したのが次の図。ただしテレビメディアでは衛星メディア関連は除かれている。

↑ 業種別広告費(4マス全体、億円)(2013年と2023年)
↑ 業種別広告費(4マス全体、億円)(2013年と2023年)

単純な総額(4マス限定)では2013年が2兆7825億円、2023年が2兆1909億円と2割強の減少。業種別で増加したのはエネルギー・素材・機械、情報・通信、外食・各種サービス、官公庁・団体の計4業種で、あとはすべて減少。東日本大震災の影響、相次ぐ政変、高齢化の進行(特に団塊世代の高齢化突入)に伴う社会構造の変化、インターネットやスマートフォンの普及によるメディアシフトの流れ、新型コロナウイルスの流行、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高など、劇的な動きが生じたとはいえ、金額面における変容ぶりが改めて認識できる結果ではある。またこの時代の流れでどこまで(4マスへの)広告投資のウェイトが変わったのか、業種別の動向を推し量れる値となっている。

割合でもっとも増加したエネルギー・素材・機械(プラス37.8%)は249.0億円から343.0億円へと94.0億円の増加。具体的には「電気、ガス、ガソリン、紙、鉄鋼、化学材料、農業機器、建設・土木機器、工作機器、店舗用機材など」が該当し、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高(特に資源価格の高騰)が大きく影響していそうな業種ではある。

10年間で半分以上に額を減らしているのはファッション・アクセサリーと自動車・関連品。ファッション・アクセサリーは具体的には「衣料品、生地、身回繊維品、靴、バッグ、傘、貴金属・アクセサリーなど」を指す。自動車・関連品は「自動車、オートバイ・スクーター、自転車、モーターボート、タイヤ、カーナビゲーションなど」。勢いのある業種とは言い難いが、ここまで減少するのは不思議な感もある。この業種の広告費そのものが減ったのではなく、インターネット通販への誘導で直接購入に結び付きやすいインターネット広告にシフトする形で4マスへの出稿が減ったと考えれば道理は通る。

変化の度合いを比率で見ると、そして注目の4業種の推移


直上のグラフは額面の推移が把握できるもの。これを金額ではなく、10年の経過における増減比率で見ると、個々の業種における「4大従来型メディアに対する広告費」のさじ加減の変化が見えてくる。

↑ 10年間の広告費変移(4マス全体、業種別)(2013年から2023年)
↑ 10年間の広告費変移(4マス全体、業種別)(2013年から2023年)

10年で金額を上乗せできたのは4業種だが、中でも大きな上げ幅を示しているのはエネルギー・素材・機械。下げている業種の下げ度合は一様ではなく、大きな違いを見せていることが改めて分かる。

50%以上の下げ幅、つまり半減以上の減り方を示しているのは上記の通りファッション・アクセサリーと自動車・関連品のみ。しかしその2つ以外にも3割台、4割台の下げ幅を示している業種が複数確認できる。

もっとも、これら下げ幅の大きい業種が、すべて同じ理由によって広告費を落としているとは限らない。業界そのものが不調なもの、インターネット広告をはじめとした4大従来型メディア「以外」との相性がよいものなど、いくつかの理由が考えられる。その内情までは把握できないが、上記のファッション・アクセサリーや自動車・関連品における状況変化のように、推測できるものもいくつか見受けられよう。

変移が気になる業種を4つほど抽出し、2005年以降の動向を記した。また変化が分かりやすいように、それぞれの業種における2005年の額面を基準とし、どれほど増減をしたのかを比率算出したグラフも併記する。すべての業種が金融危機・リーマンショック後に大きな減少を示しており、自動車・関連品や金融・保険はその減少後の復調ぶりも弱く、自動車・関連費はこの数年では再び大きな失速を見せている。飲料・嗜好品は金融危機・リーマンショック後の復調がほとんど果たせず、実質的には失速状態の継続と読める動き。他方、2021年では、情報・通信が劇的な増加ぶりを見せたのをはじめ、飲料・嗜好品、金融・保険も軒並み増加している。しかし2022年以降、情報・通信はまた減少してしまっている。

↑ 広告費(対4マス、一部、億円)
↑ 広告費(対4マス、一部、億円)

↑ 広告費(対マス、一部、2005年の値を1.00とした時の比率)
↑ 広告費(対マス、一部、2005年の値を1.00とした時の比率)

今後この4業種の4マスへの広告出稿額の動きには、特に留意をした方がよさそうだ。残念ながら「日本の広告費」では4大従来型媒体以外の業種別出稿額推移は公開されていないので、単に4マスから距離を置き他メディアにシフトしているのか、広告費そのものを減らしているかまでは判断が難しいが、該当業界で広告媒体に対する評価の点において、大きな動きが生じていることに違いはない。



蛇足ではあるが、独自の指標を算出しておこう。これは単純に「10年間の総変化額」のうち、どれほどの割合を各業種の増減分で構成したのかを計算したもの。例えばエネルギー・素材・機械はプラス1.6%と出ているので、10年間の総額変化分においてはプラス1.6%の増加分に寄与したことになる。

↑ 10年間の広告費変移が与えた影響度(4マス全体、10年間の総変化額のうち占める割合、業種別)(2013年から2023年)
↑ 10年間の広告費変移が与えた影響度(4マス全体、10年間の総変化額のうち占める割合、業種別)(2013年から2023年)

化粧品・トイレタリーや自動車・関連品の下げ幅の大きさが目立つが、他にもファッション・アクセサリー、食品、交通・レジャーなど、可処分所得と深いかかわりのある、インターネットとの連動性・親和性の高い分野での下げ幅が目にとまる。また外食・各種サービスの上げ方が全体に大きな影響をおよぼしているのも確認できる。今後これらの業種がどのような動きを示すのか、注目したいところだ。

さらに蛇足ではあるが、出版の広告費を抽出した結果が次のグラフ。

↑ 広告費(出版、対4マス、億円)
↑ 広告費(出版、対4マス、億円)

金融危機・リーマンショックで大きく下げた状況は他業種と変わらないが、その後上昇の動きがほぼ無い。東日本大震災翌年の2012年にはわずかに上昇しているが、その翌年以降は再び前年比でマイナスを継続。そして新型コロナウイルスの流行が始まった2020年の翌年となる2021年もわずかに上昇しているが、これも反動によるものに過ぎず、その翌年以降は再び前年比でマイナスを継続。飲食・嗜好品と動きが似ており、多分にインターネット広告へとシフトしているものと考えられる。同時に出版業界の苦しい実情もうかがいしれよう。


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