需要増に応じられない、企業の維持強化が困難…人手不足の影響を探る
2014/01/21 15:30
帝国データバンクは2014年1月20日付で同社公式サイトにおいて、人手不足に関する企業の意識調査結果を公開した。その内容によると調査対象母集団の企業のうち人手不足を実感している企業においては、半数以上が「人手不足で需要増への対応が困難になっている」と、機会損失の影響が生じていることが分かった。特に建設、運輸・倉庫、サービス部門で高い懸念の声が確認できる。また、経営力や企画力などの企業の事業力の維持・強化が困難とする意見や、さらに世代交代が難航してしまうなどの意見も多数に及んでいる(【発表リリース:人手不足に対する企業の意識調査】)。
スポンサードリンク
人手不足による悪影響、6割近くは「需要増への対応が困難」
今調査は2013年12月16日から2014年1月6日にかけて行われたもので、有効回答企業数は1万0375社。回答企業規模は大企業23.3%、中小企業76.7%。
先行する記事で解説している通り、昨今の景況感の改善や公共インフラの更新の必要性が増しているなどの状況を受け、建設業をはじめとした各業種で人手不足が叫ばれている。
↑ 現在の従業員の過不足感(再録)
この人手不足な状況により、各企業がどのような影響を受けているかを答えてもらった結果が次のグラフ(人手不足を実感している企業に限定している)。
↑ 人手不足による影響(不足感のある企業限定、複数回答)
需要増への対応が困難とする意見がもっとも多く57.7%と6割近く。製造業で生産ラインの稼働率を上げたりラインを増強する、建設業で請け負う建築物の数を増やす、ソフトウェア業で製作・運用するサービスを追加する、いずれの場合でもそれに携わる人手が欠かせない。しかしその人手が足りなければ、需要があるにも関わらずそれに応じられないという事態が生じることになる。
それ以上に大きな問題となりうるのは、経営力、企画力、営業力の維持・強化が困難とする意見が3割近くに達していること。需要増への対応が出来ないだけでなく、事業そのものが維持できなくなる可能性すら生じている。これは後に続く回答技能・ノウハウの伝承が困難、組織の高齢化が解消できないとも深くかかわっている。要は企業を生き物に例えた場合、通常の新陳代謝に相当する人員の入れ替えすら難しくなっていることを意味するからだ。
これを業種別(当サイトでしばしばスポットライトを当てている、建設・製造・金融に限定)に見ると、第二次産業と第三次産業の悩みどころの共通点、相違点が見えてくる。
↑ 人手不足による影響(不足感のある企業限定、複数回答)(業種別、一部)
景況感の変化がもっとも大きい、需要が一番膨らんでいる建設業では、需要増への対応が困難とする意見ももっとも大きい。それに連動する部分が多分にある製造業でも6割近くが需要に応じきれないとしている。また、短期的な需要増への対応だけでなく、中期的な流れとして技術・ノウハウの伝承が困難な状況への懸念も強い(建設業では組織の高齢化の解消が出来ないとの意見も多く見受けられる)。
他方、第三次産業の金融では、経営力、企画力、営業力といった、企業の根幹・中枢を成す部分での維持・強化が困難とする意見が強い。
「需要増に対応しきれない」どの業種に切迫感があるか
これら「人手不足で影響が生じている」内容のうち、もっとも直結した影響であり、同時に現在特に問題視されている「需要増への対応が困難」について、業種別の回答率を示したのが次のグラフ。
↑ 人手不足による影響(複数回答のうち「需要増への対応が困難」の回答)(不足感のある企業限定)
やはり建設業が一番多く、3/4を超えている。次いで運輸・倉庫が7割近く、サービスが6割、製造が6割近くと続いている。小売や不動産、金融などは少なめだが、それでも1/3前後が需要に応じきれないとしている。
これを「人手不足を覚える企業」比ではなく、「各業種の企業全体数」比で見たのが次のグラフ。例えば建設業では48.7%とあるので、調査対象母集団企業の建設業全体のうち、約半数は「人手不足によって需要増に対応できない」と答えていることになる。
↑ 人手不足による影響(複数回答のうち「需要増への対応が困難」の回答)(各業界全体比)
建設では約半数、運輸・倉庫では4割近く、サービスでは3割強が「人手不足で需要増に応じられない」という結果。昨今の建設ラッシュ、そしてこれまでの建設業や運輸・倉庫業に対する世情の冷遇さのツケが一気に出ている感はある。
ちなみに各企業が人手を少しでも確実に確保するため、確保・定着方法として行っている対策を挙げてもらった結果が次のグラフ。
↑ 人材の確保・定着方法として行っている対策(複数回答)
金銭的な問題の解決を図る意見よりも、継続して働ける意欲が沸く職場の環境作り、仕事のやりがいの提供などが前面に押し出されている。どこまで成果が上がるかはケースバイケースだが、賃金をはじめとした対価の支払いの正当化、充足と共に、積極的に実行してほしいものである。
■関連記事:
【「やりがい無し」「不満あり」3割強…正社員に成れなかった非正社員のくすぶり】
【学歴別の平均賃金(賃金構造基本統計調査2012年版)】
【若者は「よい上司に恵まれたい」、団塊世代は…? 若年層と団塊世代の仕事観の違いとは】
【非正規雇用が多い若年層の賃金事情は…正社員・非正社員別、世代別の賃金動向(2013年)(最新)】
【全体では39%、男性23%・女性58%は非正規…就労者の正規・非正規社員率(2013年発表版)(最新)】
スポンサードリンク