足りるか、何とかなるか、足りないか…年金に対する考え方(最新)
2024/04/01 02:39
医学の発達、社会的インフラの向上などを受け、平均寿命は年々伸び、その結果として日本では加速度的に高齢化社会へと突入しつつある。それとともに社会保障制度の一つである年金問題が大きくクローズアップされている。受給時期にまで歳を重ねた際、果たしてその額で日常生活をまかなうことはできるのか否か、足りないと考えている場合、その理由はどこにあるのか。金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年調査・結果の公開を行っている、家計の金融行動に関する世論調査の公開値を基に、年金に関する心境の現状と経年推移について見ていくことにする(【家計の金融行動に関する世論調査】)。
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「年金だけでは日常生活もキツい」単身世帯では5割近く
まずは年金支給額について、その額(公的年金に加えて企業年金も含め、個人年金は除く。以下同)だけで老後の生活を営めるか否かを尋ねた結果が次のグラフ。単身世帯と二人以上世帯でそれぞれ区分して集計してある。
↑ 年金に対する考え方(単身世帯)
↑ 年金に対する考え方(二人以上世帯)
二人以上世帯で2001年に大きな変化が生じているが、これは同年から「日常生活費程度もまかなうのが難しい」の選択肢部分を変更したため。元々はより緩やかな生活をイメージさせる「年金だけではゆとりが無い」だったことから、表現の変更により回答値に変化が生じる次第となった。「ゆとりは無いが、日常生活費程度はまかなえる」と読み違えかねないのが変更の理由だろう。
経年動向を見ると、年金と老後生活の金銭的な関係において、考え方に大きな差は生じていなかったことが分かる。あえていえば二人以上世帯では「さほど不自由なく暮らせる」が微減、単身世帯では微増していたぐらいが、中長期的な変化といえるだろうか。一方で2020年から2021年にかけて両世帯種類とも「さほど不自由なく暮らせる」「ゆとりは無いが、日常生活費程度はまかなえる」が大きく増えたのも注目に値する。新型コロナウイルス流行の影響だろうか。ただし調査方法が変更されたのが原因の可能性もあるため、あと数年はようすを見る必要がある。少なくとも今調査に限れば、公的年金受給額に関する心境は、昨日今日に騒がれ出した問題ではない。
受給開始年齢引き上げへの懸念強まる
公的年金だけで老後の生活をまかなえるか否かについて、「ゆとりは無いが、日常生活費程度はまかなえる」「日常生活費程度もまかなうのが難しい」、要は「ゆとりが無い」とする回答者に、なぜ「ゆとりが無い」と考えているのか、その理由を選択肢の中から2つまで選んでもらった。その結果の直近年分および推移をグラフ化したのが次の図となる。
↑ 年金ではゆとりが無いと考える理由(ゆとりが無い世帯、2つまでの複数回答)(2023年)
↑ 年金ではゆとりが無いと考える理由(単身世帯、ゆとりが無い世帯、2つまでの複数回答)
↑ 年金ではゆとりが無いと考える理由(二人以上世帯、ゆとりが無い世帯、2つまでの複数回答)
まず直近年分。回答数の平均値を見ると、二人以上世帯では1.56個なのに対し、単身世帯では1.54個にとどまっている。それだけ二人以上世帯の方が、ゆとりが無い世帯における不安要素が多岐にわたっていることが分かる。他方、単身世帯・二人以上世帯ともに、最大の要因は「物価上昇などで費用が増加」となり、続く「年金支給金額引き下げ」を20%ポイント近く上回っている。ロシアによるウクライナへの侵略戦争で資源価格などが高騰し物価が急上昇しているが、その物価高の心理的影響は年金生活の勘案においても、大きな影を落としていることになる。
第3位は両世帯種類で変わらず「年金支給年齢引き上げ」、第4位も両世帯種類で変わらず「高齢者への医療費用の個人負担増加」ではあるものの、二人以上世帯の方が値が高く、単身世帯との差がそれなりに出ている。これは二人以上世帯の場合、世帯主と配偶者双方の医療費用がかかるため、単純計算で単身世帯の2倍の負担増が懸念されるからに他ならない(どちらか片方だけだとしても、世帯ベースでの負担増加の可能性は単身世帯の2倍となる)。
経年変化では、単身・二人以上世帯ともに「支給金額の減額」を懸念する声がもっとも大きいことに違いはなかった。また、以前は「高齢者への医療費用の個人負担が増える」ことを心配する人が多かったが、少しずつ減少する傾向にある。他方、2022年以降はロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高の影響で、「物価上昇などで費用が増加」を懸念する声が非常に大きなものとなり、直近年では単身世帯・二人以上世帯ともに、「年金支給金額引き下げ」を追い抜いてトップになってしまった。
このグラフ、状況の推移動向からは、「いくらもらえるか」「いつからもらえるか」この2点における懸念が、年金生活における不安を底上げしていたのがつかみ取れる。現実問題として支給金額の減額や、支給開始年齢の引き上げが起きていることから、それらへの心配が増すのも道理ではある。また直近2年における物価高の心理的影響の大きさもうかがいしれる。
なお今件調査は「2つまでの複数回答」であり、値が低い要件に関する懸念が無いことを意味しない。値が減少している理由があっても、懸念が鎮静化しつつあるのではなく、相対的に優先順位が下がっているだけの話でしかない。そのことに注意する必要があることを書き記しておく。
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