開発途上国への開発協力の必要性、最多意見は「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要がある」(最新)
2024/01/31 02:41
内閣府は2024年1月19日、外交に関する世論調査を発表した。その内容によると調査時点において、日本国が行っている開発途上国への開発協力について、その実施する理由・意義を聞いたところ、最多同意意見は「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」で、5割強を占めていることが分かった。次いで「エネルギー資源などの安定供給の確保に資するから」「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」などが続いている(【発表リリース:外交に関する世論調査】)。
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今調査の調査要項は先行記事【日本のアメリカ合衆国への親近感87.4%、対中親近感はやや悪化(最新)】を参照のこと。
日本も含め先進国は開発途上国に対し、資金協力や技術協力などの開発協力を行っている。今件調査ではかつて「ODA」(Official Development Assistance(政府開発援助))との表現を用い、政府あるいは政府の実施機関により、開発途上国や国際機関に供与・貸与される、資金や技術提供による協力行為のことを対象としていたが、【開発協力適正会議】にもある通り、有償資金協力や技術協力も合わせた、より広義な支援を意味する「開発協力」の言い回しが2014年調査分から用いられている。
とはいえ目的はODAと何ら変わるところはない。外務省の解説(【外交政策:ODAとは】)によると、ODAは国際社会での重要な責務であり、日本の信頼をつちかい、存在感を高めることに資する役割を果たしている。また開発途上国の安定・発展化に寄与することで、国際平和に依拠し、資源・食料を海外に依存する日本にはプラスとなるとも解説している。
この開発協力について、どのような観点から意義がある、実施すべきであると考えているかを聞いたところ、「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」とする意見がもっとも多く、69.9%に達していた。グラフの空欄はその年では該当の選択肢が無かったことを意味する。
なお2020年以降の調査は新型コロナウイルス流行の影響を受けて郵送調査で実施されており(原則は調査員による個別面接聴取法)、「分からない」の項目が値として存在せず、その設問について何も回答しなかった「無回答」が代わりに表示される結果となっている。一部グラフでは「分からない」の項目にこの「無回答」の値を当てはめている。
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答)
トップとなる「災害や感染症など世界的な課題に対して各国が協力して助け合う必要があるから」は前回年の54.0%からは大きく値を増やしている。複数回答とはいえ、第2位の「開発協力は世界の平和と安定を支える手段だから」とともに、世界情勢の変動ぶりに影響されたのだろうか。他方、2020年以降同意する人が増えているのは、調査方法の変更も一因かもしれない。
続く項目は「エネルギー資源などの安定供給の確保に資するから」。日本は石油、ガス、石炭などエネルギー資源の大部分を海外に依存しており、諸外国の情勢不安定化はそれらの資源の供給が不安定化することにもつながる(前世紀のオイルショックが好例)。この項目への回答者が多いのも納得できる話ではある。前回年の50.5%からは値を減らしているが、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で、エネルギー資源などの安定供給が不安視される事態による危機感に変わりはないと判断できるほどの高い値ではある。
次いで「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」。こちらも少なからず新型コロナウイルスの世界的流行というイレギュラーな要素が多くの同意者がいる結果に影響していると思われる。信頼が無ければ外交交渉も経済的な協力関係も資源の買い入れもスムーズには進まない。海外とのさまざまな関係の維持強化のための基盤が信頼であり、それを高めるのは有意義であるに違いない。
経年推移で見ると2020年でいくつかの項目が大きく増加し、それが直近年の2023年まで継続している。これは新型コロナウイルスの世界的流行という特異な状況が生じ、考慮すべき要素に大きな変化が生じた結果だと思われる。一方で「開発協力は日本の戦略的な外交政策を進める上での重要な手段だから」「中小企業を含む日本企業や地方自治体の海外展開など、日本の経済に役立つから」が2023年では大きく値を落としているのが気になるところではある。
直近年分につき年齢階層別に見ると、複数の項目で高齢者が高い値を示す傾向が見受けられる。
↑ 政府による開発協力を実施すべき観点(複数回答、年齢階層別)(2023年)
興味深い動きが2点。1つは若年層は関心度が低いこともあり、複数の項目で18-29歳の値が他の年齢階層と比べて低め。ただし「国際社会での日本への信頼を高める必要があるから」では高い値を示している。普段から伝えられる日本の外交政策に不安を覚えているからかもしれない。また、「中小企業を含む日本企業や地方自治体の海外展開など、日本の経済に役立つから」も、現状に不安を覚えているとの観点で、同様の理由だろう。
他方高齢層では複数の項目で高い値が出ている。国際社会における日本の立ち位置について、低い評価を受けること、日本企業や自治体の展開の現状に不安を抱いている感はある。この数年、海外における日本企業の入札事案が他国、特に中国に競り負ける報道が相次いでいることから、それを受けての反応だろう。直近年に限れば、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で、エネルギー資源に関する日本の立ち位置の弱さ(以前の自分の経験則的な意味でのポジションほどではなかった、実体が違っていたという意味)も影響しているのかもしれない。特に複数項目で70歳以上が突出しているのが気になるところだ。
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