インターネット選挙活動解禁は効果あり!? 投票者ピラミッド(第23回参議院選挙版)
2013/11/04 15:00
今夏に行われた参議院選挙、つまり2013年7月21日に投票が行われた第23回参議院議員通常選挙から、いわゆる「インターネット選挙運動」が日本でも初めて解禁された。インターネットによる選挙「投票」では無いが、若年層の選挙への関心を高め、投票率を上げる試みの一つとして注目を集めたことは間違いない。今回は投票率に関する以前の分析記事と同じ手法を用い、今選挙について総務省が公開した投票率のデータを基に投票者ピラミッドなどを作成し、世代間の投票率や投票者数、そして意見力の違いについて確認を行うことにした。
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右肩上がりの投票率と団塊世代の投票者数の多さは変わらず
データの取得元は【総務省の参議院議員通常選挙結果】。ここから該当する選挙となる【第23回参議院議員通常選挙結果】を選び、さらに「年齢別投票状況について」に掲載されている各データを参照していく。
このデータは全国の4万8777投票区の中から188投票区(47都道府県×4投票区)を抽出し、該当投票区に関して男女別及び年齢別に投票率を調査したもの。各都道府県から標準的な投票率を示している1市1区1町1村(区が無い場合は市を2か所、村が無い場合は町を2か所選択)を抽出している。このデータを元に、男女別で有権者数、そしてその中で実際に投票した人の実数をピラミッド型のグラフ化したのが次の図。さらに単純な投票率のみのグラフも作成し併記する。
↑ 第23回参議院通常選挙・年齢階層別投票状況(性別・年齢階層別有権者数と投票数、投票状況調査地区における結果)
↑ 第23回参議院通常選挙・年齢階層別投票率
少子化が進行していることもあり、等間隔の世代区分を行うと、若年層人口は他の世代と比べて少なめとなっている。現在は中堅層、そして団塊世代の人口が多く、いわゆる「つぼ型」の人口ピラミッドが形成されている。
さらに投票コスト(個々が投票を実行するためのハードル)は若年層の方が高い。仕事や趣味趣向、家庭周りの事柄など、やらねばならないこと、やりたいことが多く、投票に参加するための時間や手間が惜しくなる。そして選挙は直接すぐに自分自身へ成果が返ってくるようには見えない。その結果、選挙に対する優先順位が下がり、後回しにされ、投票率は低くなる。これらの理由により、選挙権を持つのに投票しない人(男女ともグラフ上の薄い部分)が増え、若年層における有効投票者数は減少してしまう。
世間一般には「若年層と団塊世代層で投票率は2倍から3倍の差がある」と言われている(見聞きした人も多いはずだ)。今回選挙のデータで見る限り、人口数では無く投票者数で試算すると、男性では最大3.36倍、女性では3.45倍の差が出ており、実に3倍を超える差が生じてしまっている。
これは投票を受ける政治家の視点で考えると若年層3人と団塊世代1人は同じ重きという計算になる。例えば選挙運動で3人の若者と握手をするのと、1人の団塊世代と握手をするのとで、同じ成果が期待できることになる(むしろ後者の方が期待値が高い)。これでは政治家諸達が若年層を軽視しても仕方がない。
前回参議院選挙と比較。インターネット選挙活動の成果が…!?
前回の参議院通常選挙、つまり第22回衆議院総選挙(2010年7月11日投票)と世代別の投票率の差異を算出したのが次のグラフ。全体的に投票率そのものが低下しているが、その低下が団塊世代で特に大きく生じており、若年層では少なめに留まっているのが分かる。
↑ 第23回参議院通常選挙・年齢階層別投票率(前回参議院通常選挙投票率との差)
減少幅がもっとも小さいのは20代。次いで30代、さらに50代。逆に大きいのは40代と60代。同様の試算を2012年末の衆議院総選挙で行った際には若年層から中堅層の減少幅が大きく、さらなる「若年層の選挙離れ」が懸念されたが、直近の国政選挙である今参議院選挙では、ほぼ逆の動きが生じたことになる(中堅層はイレギュラーな動きだが)。なお前回・今回共に選挙は同じ7月に行われたため、季節特性に伴う投票性向の違いは生じない。
インターネットによる選挙活動が解禁されてまだ1回しか国政選挙が実施されていないため、今件値だけをもって「インターネット選挙活動は若年層の選挙離れに歯止めをかけた」と断じることは難しい。とはいえ、容易に類推できる結果が出たことにも違いは無い。この類推の確からしさは、今後の国政選挙の結果に伴いデータが蓄積されるにつれ、底上げされる、あるいは覆されることになる。今後の選挙が楽しみだ。
「インターネット選挙活動」が若年層の選挙離れに歯止めをかけた雰囲気が見られる。これは喜ばしい話には違いない。一方、今回の参議院選挙でも投票率そのものの低迷は続き、さらに若年層と高齢層(特に団塊世代層)との間の投票率そのものの差異の大きさに変わりは無く、世代別人口の違いと合わせ、大きな投票力=意見力の差が生じているのにも変化は無い。政治家の立場から見て「若年層3人と団塊世代1人は同じ重き」な状態は、少なくとも若年層の立場からは理不尽以外の何物でもない。
世代別人口比率の違いは、当人が属する世代に関しては、それぞれ個々への責は無い。自分が産まれてくる年代は選べないからだ。一方、投票率は一人一人の意志によって状況の是正を図ることができる。仮に男性20代前半の投票率が現行の2倍になれば、団塊世代とのウェイト差は3.36倍から1.68倍にまで縮めることができる。
「どうせ若者の意見など聞く耳持たないさ」とあきらめるのではなく、まずは声を挙げ、投票所に足を運ぶことからはじめて見るべきではないだろうか。黙っていては誰もその存在を確認することすらできないのだから。
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