貯蓄が多いとお金の使い道にも余裕が出る…貯蓄額別・日頃のお金の使い道(最新)
2024/11/11 02:37
保険とは何か負担がかかる事態が生じた際に、それを解消するのに必要となる対策を事前に用意することを意味する。健康・医療保険ならばけがや病気の際に生じた医療費を補てんするものであり、「保険として傘を持ってきた」状況ならば、万一雨に降られてもずぶ濡れにならないための対抗手段の確保に他ならない。そしてさまざまな物品やサービスの代替となるお金を貯めておく、つまり貯蓄は、多様な状況に対応できる究極の保険ともいえる(企業が余剰金を好むのも、色々な問題事案に対し臨機応変に対応できるからに他ならない)。今回は総務省統計局が定期的に行っている家計調査のうち、先日2024年5月17日付で2023年分の速報値が発表された「貯蓄・負債編」を基に、各家計(二人以上世帯)における、貯蓄額別のお金の使い方の違いを確認していくことにする。究極の保険たる貯蓄額の違いが、日々のお金の使い方にどのような変化をもたらすのだろうか(【家計調査報告(貯蓄・負債編)-年平均結果速報-(二人以上の世帯)】)。
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貯蓄高が大きいほど生活の上で使う額も余裕も増えてくる
今件記事で用いる専門的な用語をいくつか抽出し、支出と収入との関係を説明すると次の通りとなる。
・支出……消費支出(世帯を維持していくのに必要な支出。「食料費」「住居費」「光熱費」など)
+非消費支出(消費を目的としない費用。税金・社会保険料など)
+黒字分(投資や貯金など)
つまり消費支出とは「収入の中から、社会生活の過程でお財布から出していく金額」を意味する。
最初に作成・精査するのは、貯蓄額階層別「一か月あたりの」消費支出を示したグラフ。現在貯蓄をどれだけ持っているか、その額面で区分した、一か月における生活費の違いを示している。なお貯蓄・負債編では単身世帯に関しては調査が行われていない。また今件は単に二人以上世帯を対象としているため、勤労者以外、例えば年金生活者や個人営業の世帯、世帯主が役員の世帯なども該当する。さらに貯蓄高は単純な貯蓄の額であり、負債との相殺は行われていない。
↑ 消費支出(二人以上世帯、月次、貯蓄額階層別、万円)
個々の世帯を検証すれば例外のパターンも存在するには違いないが、平均としては貯蓄額が大きい人ほど収入も大きい傾向がある。そして税金や社会保険料なども収入が上がれば増えるが、完全な正比例ではないので、当然「貯蓄現在高≒収入が大きい方が、消費(できる)支出額も大きくなる」。
実際、貯蓄額の違いにより直近年では最大で6割近くもの消費支出の違いが出ている。また経年変化を見ると、各貯蓄額階層別で大きな傾向だった動きは見られない。ただし2020年はどの層でも有意に減少が生じているが、これは新型コロナウイルス流行による巣ごもり化現象で、交通・通信や教養娯楽などの支出が大きく減ったからに他ならない。2021年、さらには2022年でも回復までには至っていない。直近の2023年でようやく元に戻したような貯蓄額階層が確認できる程度。
具体的消費支出項目を見ると
以前【エンゲル係数の推移】における「エンゲル係数」の考え方で解説したが、漫画やドラマに登場するような豪邸に住む、それこそ湯水のようにお金を使える富豪でない限り、多少収入額が大きくても「食費」が跳ね上がり「光熱・水道費」が急上昇することはない(無論多少の上昇はある)。従って、消費支出全体が大きくなれば、「食費」「光熱・水道費」の”割合”は漸減していくことになる(これこそがエンゲル係数の基本的な考え方である)。これを確認できるのが、次の貯蓄額別に区切った、主要項目別の消費支出の中身を確認したもの。
↑ 消費支出の費目別構成比(二人以上世帯、貯蓄額階層別)(2023年)
上記の説明の通り、おおよそ貯蓄額が大きい階層の方が「食料」「光熱・水道」「交通・通信」などの比率は落ちる。3000万円以上の貯蓄があったとしても、毎日執事とメイドさんが身の回りの世話をしてくれるわけではなく、運転手がリムジンでお出迎えを受けることもないからだ。
また「貯蓄額≒収入」が大きいほど(グラフ上では右側になるに連れ)「その他の消費支出」「教養娯楽」の2項目(一番上と上から二番目)の比率が大体増加している。このうち「その他の消費支出」とは具体的に「諸雑費」「こづかい」「交際費」「仕送り金」が主な項目として例示されており、簡潔には「色々雑多に自分の自由意思で使えるお金」と表現できる。
消費支出額そのものも増え、自由裁量の強い支出項目が占める割合も増える。結論として「貯蓄現在高≒収入が大きい方が、自分の思う通りに使い回せるお金の額が大きい」ことになる。当たり前の話だが、今件の数字・グラフはその常識的な話、あるいはイメージ的な事象について、数字的・統計的に裏付けたものとなる。
他方、同一年における貯蓄額の違いによる各品目別の構成比は金銭的な豊かさによって差異が出てくるが、経年変化における差異は、昨今では特に食費(エンゲル係数に直結する)は以前ほど意味が無いものとなりつつあることを加えておく。【中食系食品などの購入性向推移(家計調査報告(家計収支編))(最新)】などでも言及している通り、ここ十年ほどの間にスーパーやコンビニの急速な日常生活への浸透、それに伴う惣菜や冷凍食品などを用いた中食文化の普及が進んでおり、食の上での投資額の増加が、生活の豊かさを表す指標の一つとなりつつあるからだ(自炊料理を敬遠しがちな高齢者の全体に占める比率の増加もそれに拍車をかけている)。エンゲル係数の経年的変化上の比較は、あくまでも食文化・食生活の環境が同一である場合にのみ有効となる。昨今の状況変化は、その前提をくつがえしかねないほどの動きに違いない。
2022年から2023年への変化を確認する
前年分2022年分との違いを算出すると、1年間の間に消費生活上でどのような変化が起きたのかを推し量ることができる(絶対金額ではなく対全体比率値の変化であることに注意)。
↑ 消費支出の費目別構成比(二人以上世帯、前年比貯蓄額階層別、ppt)(2023年)
新型コロナウイルス流行による社会様式の変化の影響の薄らぎで、交通・通信や教養娯楽が増えているのがうかがえる。一方で食料が大きく増えているのは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じている世界的な資源高の影響で食料価格が値上がりしている影響によるものだろう。光熱・水道も同様に増えるはずだが逆に減っているのは、政府の補助政策によるものと考えられる。食料の価格上昇へは、教育やその他の消費支出の削減で対応したのだろうか。
今件で抽出・算出し、グラフを作成した各種値も含め、家計調査報告の公開値はあくまでも平均値であり、絶対的な基準値ではない。しかも二人以上世帯に限定されており、単身世帯の状況はまだ別のものになる。当然、平均値を大きく外れる世帯も無論多数存在するはずだ。
だが社会全般の動向を概要的に表現していることもまた事実。今件結果を眺めていると、記事内で解説した動き以外にも色々と、世の中のお金関連の動向が見えてくるに違いない。
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