二人以上世帯の総貯蓄の2/3近くは60代以上の世帯だけで保有…世帯主の年齢別貯蓄総額分布(最新)

2023/07/18 02:30

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2023-0706日本における高齢化社会の進行とともに論議される話題の一つに、世代(年齢階層)間の資産格差がある。元々経年蓄積による蓄財があることから、高齢者の方が貯蓄が多いのは当然の話なのだが、現実問題としてどの程度の世代別格差が生じているのだろうか。今回はその指針の一つとして、2023年5月12日付で公開された総務省統計局による家計調査の「貯蓄・負債編」最新版速報値(2022年分)をもとに、二人以上世帯における現状やこの数年における変移を確認していくことにする(【家計調査報告(貯蓄・負債編)-年平均結果速報-(二人以上の世帯)】)。

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全体比率で見る世帯数と貯蓄額


今回用いる各値は家計調査の「貯蓄・負債編」の最新版および過去の値を引き継いだもの。なお「貯蓄」とは負債を考慮しない、単なる貯蓄の額。預貯金だけでなく、生保の掛け金、有価証券、社内貯金、さらには共済などの貯蓄の合算。また負債をいくら抱えていても相殺はしない。

次のグラフは「該当世帯数全体における、各世帯主年齢別の世帯数割合」、そして「各世帯主年齢階層別の、貯蓄総額に占める金額比率」を算出したもの。世帯数割合は比較のために作成したものだが、他の主旨の記事でも参照値として使用価値のある、有益な結果に違いない。

↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)
↑ 世帯数割合(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)

↑ 貯蓄分布状況(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)
↑ 貯蓄分布状況(二人以上世帯、世帯主年齢階層別)

これらのグラフには当然ながら単身世帯は含まれていない。従って日本全体の状況を指し示しているわけではないが、昨今の状況における概要的なものは十分把握できる。

元々若年層は蓄財の機会・期間が少なく、実入りも少ない。当然貯蓄額も小さなものとなる。さらに高齢者世帯数が増加し、若年層世帯の数が減少しているので、世帯数割合が減少する(【「お年寄りがいる家」のうち28.3%・638万世帯は「一人きり」(最新)】)。結果として年齢階層別の貯蓄総額比率も、高齢層が増えていく結果になるのは明らか。

直近の2022年においては、二人以上世帯に限れば、今や貯蓄総額の4割強が70歳以上の世帯で占められている。60歳以上に区切れば2/3近くとなる。

高齢層全体の貯蓄額増加は、人数増加と経年蓄積による結果


上の2つのグラフから(特に2番目のグラフを見て)「世帯主が高齢層の世帯は皆が皆、ますますお金持ちになっていく」「若年層がさらに年々圧迫を受けている」と誤解をする人がいる。しかしこの結果は、2002年以降時間の経過とともに個々の高齢者世帯が富んでいくことを意味しない。それは先行する家計調査の「貯蓄・負債編」に関する記事「年齢階層別の収入や負債の推移」で挙げた次のグラフを見れば明らかである。

↑ 貯蓄額(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)(再録)
↑ 貯蓄額(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)(再録)

↑ 純貯蓄額(貯蓄額−負債額)(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)(再録)
↑ 純貯蓄額(貯蓄額−負債額)(二人以上世帯のうち勤労者世帯、世帯主年齢階層別、万円)(再録)

なお純貯蓄額が若年層で減少する傾向にあるのは、持家率が増加し、住宅ローンの負担が増えているため。

つまり「所属年齢階層全体ではなく、個々の1世帯単位で比べれば、元々高齢層は若年層と比較して貯蓄額が大きい。その高齢層の世帯数が増加し、若年層の世帯数が減っているのだから、二人以上世帯全体に占める高齢層世帯群の貯蓄額比率が増えても当然」となる。「個々のお年寄り世帯がますます裕福になっている」とは構成要素一つ一つの値の比較と、各年齢階層全体による値の比較を混ぜ合わせてしまうことで生じる、誤解の一つである。

↑ 世帯あたり貯蓄額(二人以上世帯、世帯主年齢階層別、万円)
↑ 世帯あたり貯蓄額(二人以上世帯、世帯主年齢階層別、万円)

一方で同時に、年齢階層別全体で見た場合、直近2022年では「二人以上世帯の総貯蓄の2/3近くは、60代以上の世帯だけで保有されている」「二人以上世帯の総貯蓄の84%は、50代以上の世帯だけで保有されている」ことになる。

さらに付け加えるとすれば、今件は単なる「貯蓄」であり、上記にある通り負債の考慮はない。そして負債の多くは住宅ローンであり、50代前後にはほぼ完済していることから、実質的な「純貯蓄額」(貯蓄から負債を引いた額)の総量はさらに50代以上に偏ることになる。



内需喚起が叫ばれる昨今だが、若年層に無理な支出を強いるより、「60代以上で2/3近く」「50代以上で約84%」(二人以上世帯のみ)の貯蓄を市場に、無論サービスなどの対価として、吐き出させるかについて考えた方が効率はよく、確実性は高い。やせ細ったまだ成長過程の樹木から未成熟の果実をもぎ取るより、熟した果実が実った大人の木々から収穫を得た方が、はるかに健全なのは誰の目にも明らか。

誤解を受けかねないので付け加えておくが、これは「高齢層に無駄遣いをさせろ」を意味しない。支払いの価値がある効果・満足感を得られる商品・サービスを考察し、提供していき、お財布のひもを緩められるだけの社会的安心感を提供し、さらには資産を市場、そして特に若年層に還流させる仕組みを多数創り上げることを意味する。

それこそが社会全体の活力・生産力を底上げし、高齢者の満足感と、後に続く世代に直接の資産だけでなく、将来に続く国富をも手渡せる道につながるはずである。


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