1990年代以降売上低迷は生じていた、新型コロナで歴史的減少と反動…百貨店やスーパーの分野別売上高推移(最新)
2023/07/08 02:30
かつては憧れの場所、特に子供にとっては一日中いても飽きない場所でもあった百貨店やデパートだが、今やその勢い、商品やサービスに対するきらびやかさは見られない。需要の多様化、小売業態の細分化、流通の変化などさまざまな時代の流れに追いつけない感が強い。屋上の売店や子供向けの遊び場の縮小、撤廃が、その流れのきっかけだったとする話もある。しかしそれでも多彩な商品が一堂に会する、言葉通り「百貨」が集まる店には、今でも不思議な魅力を覚えずにはいられない。今回は普段業界団体側発表による業界全体のセールス(【定期更新記事:チェーンストア】)とは別の視点、経済産業省が逐次公開している統括値を確認し、商品分野別の売上動向の把握を行うことにした。
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低迷続く衣料品と住関品…年次動向を確認
データの取得元は【経済産業省・商業動態統計調査】の【統計表一覧】。ここには百貨店とスーパーの合計(大型小売店)、そしてそれぞれ別個のデータが記載されている。
当サイトで業界団体(日本チェーンストア協会)発表の売上高を定期更新している「チェーンストア(スーパーやデパートなど)」とは、構成要素で「スーパー」は同じもののもう片方の要素として、「百貨店」か「デパート」の違いがある。しかしこれは表記上の違いのみで実態は同じと見なしてよい(【百貨店 衣料品客離れていく 行き着く先はモールとネットに】で説明している通り。「日本チェーンストア協会に加盟している大規模店舗で展開する総合小売業者がデパート」「日本百貨店協会に加盟している大規模店舗で展開する総合小売業者が百貨店」といった程度)ので、同一視して問題はない。
まずは年次動向。現時点では年ベースでは2022年分までの値が公開されているので(2023年は現在進行中)、素直に2022年分までのものを参照する。「時系列データ」部分から該当値を取得、グラフ化を行う(直接「年報」項目からの取得ではない)。
↑ 百貨店・スーパーの売上額(年ベース、前年比、既存店、主要分野別)
衣料品・食料品の名称、区分は業界団体の定期報告データと同じだが、元データの項目区分の都合上、住関品は他のものと一緒に「その他」扱いとなっている。しかし「その他」の中で比率的には住関品が圧倒的に多数を占めるので、変移を見る上では「その他」=「住関品」と判断しても問題は無い。
グラフで動きを確認すると、
・飲食料品は他分野と比べれば下げ幅が小さい(マイナス5%未満に収まっている)。
・住関品や衣料品は1992年-1993年の低迷時期を皮切りに、約5-10年のサイクルで大幅な減少を見せている。
・衣料品は特に下げ幅が大きい。住関品も同様の傾向を見せていたが、2009年をピークとする下落期では衣料品の下げ方が著しい。リーマンショックは高額商品が多い衣料品に大きな影響を与えたように見える。
・衣料品、食堂・喫茶の2008年-2009年の下げ幅はこれまでのパターンを逸脱するほどのもの。
・2009年は全分野でマイナス、2010年もマイナスだが、下げ幅は縮小(売上高の前年比における絶対額がマイナスであることに違いは無し)。
・2011年は震災の影響にもかかわらず、年ベースでは総売上・衣料品・飲食料品で下げ幅を縮小している。
・ここ数年では飲食料品は堅調だったが失速、衣料品の下げ幅は大きなものに。住関品はプラス圏への動きも見られるようになり、飲食料品とともに売上総計を支える形に。
・2020年は新型コロナウイルス流行の影響で内食特需による売上増を得た飲食料品以外は大きく下げる。特に多くの店が休業に追い込まれた食堂・喫茶の下げ方が著しい。2021年にはその反動が生じているが、わずかなプラスにとどまっており、売上額そのものは2020年時点の値とさほど変わっていない実情が確認できる。2022年に入ると大きな反動が生じており、回復の動きが把握できる。特に食堂・喫茶の動きが大きい。
など、昨今のチェーンストアの低迷が昨日今日に始まったことではなく、1990年前半以降継続中の問題であることが分かる。特に住関品・衣料品は1990年代後半以降、2004-2005年の好景気をのぞけば前年比マイナス3%から6%の範囲で低迷した状態がしばらく続き、両分野が深刻な状況にあることが見て取れる。ただしここ数年では住関品も復調の気配が見られるのが幸いか。
2007年から始まる金融危機、さらに2008年のリーマンショックによる景気後退が原因の売上高の減少ぶりは、少なくとも1988年以降において類を見ないほどのもの。2010年に入って下げ幅はようやく縮小の雰囲気が見え始めたが、2011年の震災で再び頭打ち、そして2012年以降はようやく復調の気配が感じられる。2020年からの新型コロナウイルスの流行がすべてを吹き飛ばした感はあるが。
また、注目したいのは「食堂・喫茶」。金額が小さく(これは「その他」項目の一分野であるのも要因)、他の分野よりも直接客足に影響されやすい分野だが、こちらも衣料品同様の大きな下げが生じている。理由の一つは顧客の消費性向の変化(外食離れ)があるが、それと同時に店舗そのものへの来客数が大幅に減少している可能性を示唆している。実際、来客数の変動が店舗に併設・内包されている外食店の売上にも大きな影響を及ぼすことは、外食チェーン店の月次営業報告でも時折言及されるほどである。2020年の下げ方は来客数の減少に加え、店舗そのものが休業するケースが多かったのも要因だが。
月次動向で最近の変化を探る
続いて月次の推移をグラフ化する。スタートは2007年4月。昨今の金融危機による景気後退が影響を見せ始めた2007年夏の直前からとした。さらに2011年の震災の影響を確認するため、2011年1月以降に範囲を限ったグラフも併記する。現時点では確定報が2023年4月まで、速報なら2023年5月まで提示されているので、それらをすべて反映させる。
↑ 百貨店・スーパーの売上額(月ベース、前年比、既存店、主要分野別)(2007年4月以降)
↑ 百貨店・スーパーの売上額(月ベース、前年比、既存店、主要分野別)(2011年1月以降)
直近の大幅な下げとその反動による大きな上げ(新型コロナウイルス流行の影響)以外で目にとまるのは、2014年2月と3月における大規模な上昇、そして4月の大幅下落。後述する震災による下落やその1年後の反動に勝るとも劣らない、特に上昇部分は震災時の反動をも超える上げ幅が確認できる。これは2014年4月に実施された消費税率改定に伴う駆け込み需要とその反動によるもので、特に3月の需要拡大が大きい。百貨店やスーパーにとっては消費税率改定が特需をもたらしたことになる。中でも耐久消費財が多分に含まれる「その他(住関品など)」では前年同月比で33.9%のような、異様なまでの上げ幅が確認されている。
この異様な売上変動は、1年後の2015年3月から4月にかけての値にも影響を与えている。あくまでも前年同月比のため、比較対象の値が大きな変化を示せば、それとの違いが大きく動くのも当然の話となる。
その特異値を除けば、1990年後半以降の定期的な低迷なら、前年同月比で悪くともマイナス6%前後にとまっていた(最初の年ベースのグラフ参照)。しかし2008年の後半(リーマンショック)以降、とりわけ同年秋以降下げが底割れ・長期化しているようすが分かる。特に衣料品の下げ幅が著しい。
一方で2011年3月はグラフが鋭い針を形成するかのように大きく下落しているが、これは同月に発生した東日本大地震・震災によるもの。店舗そのものの物理的損壊、一時閉店に加え、商品流通の遅延や混乱、商品そのものの一部生産中止、さらには消費者の消費マインドの低下など、売上を落とす原因が多数発生し、売上減退をもたらしている。リーマンショックを「一年以上にわたる大きなマイナス圧力」と表現するならば、震災は「2、3か月の短期集中的なマイナス圧力」となる。
急落した2011年3月の1年後にあたる2012年3月は、急落分との比較になるため、大きなせりあがりを見せる。こちらもまた「針」を形成している。数年前のたばこ大幅値上げの際にコンビニの売上、あるいはたばこ自身の売上動向で発生した「1年毎に現れる大反動の繰り返し」と原理は同じである。
また元々軟調ではあった衣料品だが、2015年に入ってから他項目とのかい離が大きくなっているようすがうかがえる。住関品などが持ち直し、飲食料品が堅調な中で、下落の度合いが大きくなり、マイナス圏に「浸かっている」。追随するのは食堂・喫茶のみ。昨今のデパートなどにおける盛況・閑散な分野の実情が手に取るように分かる。
そして2020年以降では新型コロナウイルス流行に伴う、2020年2月以降の急激な下落と、その反動による2021年2月以降の大幅な上昇が確認できる。この下落・上昇幅があまりにも大きく、グラフの上限・下限が大きく引っ張られ、形そのものが歪んでしまうほど。実のところその前年の2019年10月に実施された消費税率の引き上げで、その前月の2019年9月に生じた駆け込み需要による上昇と合わせ、小さからぬ動きをしていたのだが、そしてその前後で生じている冷夏・暖冬や大型台風による大規模被害の影響もあったのだが、それらが誤差範囲でしかないような形となってしまっている。
新型コロナウイルスの流行が百貨店・スーパーに与えているダメージの大きさを、あらためて知ることができる結果ではある。何しろリーマンショックや金融危機、そして東日本大震災の影響すらはるかに上回る上下幅なのだから。
ちなみに現時点で確認できる売上総計・前年同月比の最低値は、2020年4月に記録したマイナス22.2%。2020年5月のマイナス16.8%を除けば、これまで最低値だった1998年3月のマイナス14.9%をはるかに上回る下げ幅である。
消費税率改定直前直後とその翌年に生じた反動の動き
消費税率の改定など滅多なことではなく、それがため百貨店・スーパーの売上にも大きな影響が生じている。そこで2019年9月と10月の売上前年当月比を抽出したのが次のグラフ。
↑ 百貨店・スーパーの売上額(月ベース、前年比、既存店、主要分野別)(2019年9月-10月)
耐久消費財が含まれ、消費税率改定前の「駆け込み需要」の対象となりやすい「その他(住関品など)」は特需として29.4%の上昇幅を示したが、その後の反動が生じる10月では15.7%の下落で済んでいる。他の項目も似たようなもので、飲食料品や食堂・喫茶を除けば税率改定前の特需による上昇分より、10月の反動分の方が変化の幅は小さい。税率改定による消費性向の減少は、直前の駆け込み需要を食い尽くすほどのものではなく、1か月単位では案外軽微なものとしてとどまったことになる。
ただし反動による需要減退は2019年10月の1か月間で収束したわけではなく、11月以降も続くことになる。経験則では半年ぐらいは続くのだが(前回消費税率の引き上げとなる2014年4月ではおおよそ半年だった)、今回の引き上げの時期には上記で触れたように冷夏・暖冬、大型台風による大被害、そしてさらには新型コロナウイルスの流行という影響要素が多数生じているため、消費税率引き上げ単独の影響を推し量ることは困難である。
これらのデータを見返すに、ここ数年においてクローズアップされているチェーンストアの低迷振りは「1990年代以降露呈していた構造的な問題による売上低迷」に加え「昨今の景気後退による加速化」が加わった、二つの要素によるものであることが分かる。2007年以降の景気後退、さらには2008年のリーマンショックはチェーンストアの業績悪化の全原因では無く、あくまでも既存の現象の後押しをした、加速化させた要因に過ぎない。仮に2007年以降も好景気が続いていたとしても、現状のような状態は遠からず発生したものと見て間違いない。
人口の減少や可処分所得の漸減も、売上減少の理由として考えられる。しかしそれでは、GDPの増加期や好景気の時に、売上が伸びないことへの説明がつかない。むしろ今件のチェーンストアにおいては「コンビニやディスカウントストアなどの台頭」「インターネット通販の普及」「家族構成の変化」「消費者の消費性向の変貌」など、競合相手の勢力拡大をはじめ、刻々と変わりゆく周辺環境の変化に対応し切れなかった点に、昨今の売上低迷の起因があると考えたほうが道理は通る。
昨今の衣料品の一段安的な不調ぶりは、チェーンストアが需要環境に応じきれないもっとも顕著な例だろう。詳しくは後述するが、衣料品の中でもチェーンストアならではの高級品はそこそこな売上だが、他の店舗やネット通販などでも容易に調達できる種類は大きく下げており、競合にシェアを奪われている状態となってる。
チェーンストアも四苦八苦をしながら統合や部局の整理、新業態へのチャレンジなどを続けている。また中食・内食の盛況に伴う食料品売り場の活性ぶりは、多くの人が自ら実感しているところ。今業界においては、上記の折れ線グラフをプラス圏に持ち上げるべく、さらなる知恵と努力が求められよう。
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