前世紀末にはすでに生じていた低迷感、新型コロナで急落…小売業の売上推移(最新)
2023/07/08 02:27
当サイトでは【定期更新記事:まとめ】で記載している通り、スーパーやデパート、コンビニエンスストアなど、複数の小売業者の販売動向を定期的に追いかけ、その動向の精査を行っている。今回はそれら小売業者の売上動向について、業界団体それぞれの個別公示値ではなく、経済産業省が逐次公開している統括データを確認し、状況の把握を行うことにした。
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前世紀末からの動向を探る
データ取得元は【経済産業省の商業動態統計調査】。このページから【統計表一覧】を選択。記事執筆時点では確定報で2023年4月分まで、速報値では2023年5月分が取得可能なので、それを用いてグラフを作成する。抽出する項目は、「商業全体」「小売業全体」「大型小売業(百貨店とスーパー)」「百貨店」「スーパー」「コンビニ」。
「商業全体」「小売業全体」以外、つまり具体的な店舗業態種類が区分されている項目は既存店に限定する。その理由としては、新規参入店も含めた値を用いると、店舗数の増加そのものが売上増加に加算されてしまい、個々店舗の動向を推し量るのには不都合が生じるから(無論店舗数の増減そのものは業界全体の伸長・縮小と小さからぬ関係があることも違いない)。またコンビニの既存店売上前年同月比については商業動態統計調査において、2015年7月から既存店の調査収録がなくなってしまっているため、日本フランチャイズチェーン協会が発表している集計値を代用する。厳密には連続性に欠けるが、近似値としては一番妥当であるため、これを採用する。
まずは月次ベースでグラフ化したのが次の図。
↑ 主要小売業売上額前年同月比(既存店、業態別)
約20年分を月次変動の形で収めたため、大まかな動きは把握できるが、細かい部分までは確認し難いグラフとなった。しかしそれでも、次のような傾向はつかみ取れる。
・小売業は2003年以降の景気回復期でも大きなプラスは無い(「商業計」と比べると低い値で推移)。ほぼ前年同月比プラマイゼロ付近を行き来している(a)。
・大型小売業、百貨店、スーパーなどは前世紀末から前年同月比で縮小の傾向(マイナス圏を推移)。
・2008年後半以降の各業態の売上減が急速な形を見せている。特に商業全体の落ち込みが前代未聞の動き(b)。
・コンビニは(b)の時期でもプラスを維持していたが、2009年後半期には失速、マイナスを見せる。直近数か月は大きな上下が確認できる(c)。
・2011年3月の震災以降は激しい変動のあと、全体的に低迷。
・2012年後半からは商業全体を含め、上向きの動きが確認できる。
・2014年4月の消費税改定に伴い、直前の駆け込み需要による上昇と(2014年3月までの数か月間)、その反動(2014年4月)によりグラフ上で大きな変移が生じている。さらに1年後の2015年3月と同4月は、それぞれ1年前の大きな動きへの反動が生じている。
・2014年4月の消費税率改定は駆け込み需要に伴う各種イレギュラー的な動きをのぞけば、商業計は減退傾向にあった。2017年以降は持ち直しているが、いずれも卸売業が大きく影響している(商業計は小売業と卸売業の合計)。
・2019年に入ってからはおおよそ失速している。
・2020年に入ってからの下げ方は2008年の時同様。一方で百貨店の下げ方は2008年の時をはるかに上回るもの(d)。2021年以降の上げ方はその反動。中でも2021年4月の百貨店がプラス158.3%という突出した値を出したため、グラフ全体のバランスすら崩してしまっている。2020年からの百貨店の値の上下感が著しい。
(a)の事象「商業全体が売上を増やしている一方、小売業の売上増加が今ひとつ」なのは、(今グラフには反映されていない)卸売業の伸びが著しいため。逆に(b)で商業全体の急降下ぶり(無論これはリーマンショックによるもの)の割には各種小売業の下げ方がそれほど大きくないのは(それでもマイナス5-10%だが)、やはり卸売業の下落が急激だったため。(c)のコンビニ堅調、そして最近の大きな上下の理由は前者が「タスポ特需」、後者がたばこ値上げの駆け込み需要とその反動によるものである。
また2014年に入ってからは同年4月に消費税率がそれまでの5%から8%へと引き上げられたのに伴い、税率改定前に先行して買い物をしておく「駆け込み需要」が発生。そして4月には税率改定実行に伴う大幅な売上減に伴う下落が生じている。
その特異的な需要状況の変化は、上昇か下落かの違いはあれど、その振れ幅においては小売業に関していえば震災やリーマンショック当時の動きにも勝るとも劣らないもので、特に百貨店ではリーマンショック時に生じたマイナス幅(10%強)に倍するプラス幅(20%台)を示すこととなった。耐久消費財などの駆け込み需要によるセールスが、いかに大きな影響を示したかが分かる。
他方、消費税率引き上げ前の需要急増とその直後の大幅減少は、その大変動との比較となる1年後においては、それぞれ大幅減少・増加を起こさせる影響を及ぼしている。2015年3月は1年前の2014年3月の特需との比較となるため大幅なマイナス、2015年4月は1年前の2014年4月に発生した特需の反動などによる消費減少との比較となるため大幅なプラスが算出された。要は計算上の反動が生じている次第。
2019年に入ってからは夏の冷夏、大型台風の相次ぐ上陸による被害、そして消費税率引き上げなど売上の足を引っ張る事象が相次ぎ、そして2020年初頭から生じている新型コロナウイルスの流行での自粛活動による経済の低迷で、大きな下振れが生じている。特に(d)にある百貨店の下落ぶりは、店舗そのものが多分に一時休業を余儀なくされた結果であり、再開を果たしても客の戻りは鈍く、売上もさえないままとなっている次第である。当然、2021年に入ってからの反動による上振れも大変なものがあり、百貨店は異様な値をはじき出してしまっている。
金融危機以降の動向を精査する
もう少し期間を短い期間で区切る、具体的には「金融危機」が表面化した2007年夏直前からを盛り込む形と、リーマンショック直前以降に区切る形、さらには直近の消費税率引上げ前後の動向を確認するために2019年1月以降で区切ってデータを抽出し、グラフの作成を行う。新型コロナウイルスの流行による百貨店の落ち込みと、その反動の動きが極端すぎて、グラフ全体のバランスが崩れてしまっているが仕方がない。
↑ 主要小売業売上額前年同月比(既存店、業態別)(2007年1月以降)
↑ 主要小売業売上額前年同月比(既存店、業態別)(2008年6月以降)
↑ 主要小売業売上額前年同月比(既存店、業態別)(2019年1月以降)
大型小売店や百貨店、スーパーなどの業態は元々低迷していたものの、金融危機による景気後退をきっかけに売上下落率が大きくなったこと、しかし(輸出低迷による卸売業に大きく影響を受けた)商業全体の落ち込み具合と比べれば下げ幅は小さいこと、そして低迷を続けた状態で先の震災に至り、その反動を経て景気低迷感の中、低調さを継続していたこと、さらには2012年終盤から2013年頭を底として少しずつだが上昇の動きを見せていることが分かる。
そしてその後、消費税率引上げ直前の特需が起き、導入後の反動による消費減少が発生。2015年3月をピークとして前年同月の特需の反動に伴う大きな下げが起き、同年4月は税率引上げ直後の売上減退との比較による反動上昇が生じている。その後はスーパーやコンビニはそれなりに堅調だったがスーパーはやや軟調に転じ、その一方で百貨店の低迷で大型小売店、そして卸売業の軟調さを受けて商業全体が低迷の中にあることも確認できる。2017年に入ってからのプラス圏での動向は前年からの比較による反動と、卸売業の堅調さによるところが大きいが、そのような中でも上げ幅は限定的でいささか頼りがない。
コンビニは、奇跡的なタイミングで「タスポ特需」が発生したこともあり金融危機真っ最中の一年強をプラスで維持する事ができた。その後反動で落ち込むも低迷期は1年半ほどの期間で済み、再び安定期に移行。たばこ値上げの影響を受けて上下変動が激しいものの、他業種と比べれば堅調に推移していた。しかしやはり震災による一時的な下落、その一年後の反動の後は、景気低迷やたばこ値上げによるマイナスの影響が大きくなり、他業種同様軟調に推移するようになった。さらに商業、小売業全体が2013年頭からの回復基調にある中でも、あまりさえない動きをしていた。
ただし消費税率引き上げが実施された2014年4月前後も駆け込み需要やその反動はほとんどなく(わずかな駆け込み需要的上昇が2014年3月に発生している程度)、引き上げ後もほぼプラス圏で横ばいに推移し、2015年以降は上げ幅をやや高値にシフトし、他の小売業態とは異なる安定した堅調さを見せている。2017年以降はマイナスを示す月が出てくるなど、勢いに欠ける動きを示している。
2019年に入ってからは10月からの消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動が、特に百貨店で大きく生じている。また、それらの動きに隠れる形で分かりづらいが、冷夏やその後の大型台風直撃の被害による売上減の動きも確認できる(10月以降は消費税率引き上げによる影響が大だろうが)。そして2020年では2月以降において、新型コロナウイルスの流行による消費性向の大きな変化により、スーパーは食品特需でプラスを見せるが、その他の業態は大きなマイナスを示している。特に多分の店舗そのものが一時休業に追いやられた百貨店では目を疑うレベルでの売上減が生じてしまっている。その分、2021年2月以降の反動が大きく、百貨店は前代未聞と表現できるほどのプラス幅をはじき出している。大型小売店やコンビニもそれなりにプラスなのだが、百貨店の動きの前にはかすんでしまっているのが実情(スーパーは食品特需が生じていたのでマイナスだが、食品の需要変化は現在も進行中であるため、マイナス幅は最小限のものにとどまっている)。
他方、百貨店の業績が思わしくないのは、直近の景気後退をきっかけとするものではなく、元々存在していた問題であること、2007年以降の景気後退は単にその下落を加速させる要因でしかなったとの事実も確認できる。何しろ2003年以降の景気回復期においても、前年同月比でマイナスの売上を継続していたのだから。
消費税率改定前後の挙動
動向箇条書きやグラフそのものの特性でも明らかだが、2019年10月の消費税率の改定前後の動向は、非常に特異なものとなっている。そこで改定直前・直後の前年同月比の値を抽出したのが次のグラフ。
↑ 主要小売業売上額前年同月比(既存店、業態別)(2019年9月-10月)
駆け込み需要による売上アップは2019年の夏頃から生じていたが、最大の上げ幅を示したのはやはり直前の9月。特に耐久消費財のセールスが大きい百貨店では前年同月比でプラス22.9%と巨大な値が発生している。その分、反動が生じた10月の下げ幅も大きいが、それでも1割台の減少で留まっているのが印象的。当時の景気ウォッチャー調査や消費動向調査の精査記事でも言及したが、当初想定したほど、税率改定直後では消費減少は生じていないようだ。ただし上記折れ線グラフの通り、低迷感は継続することになる。
他方コンビニでは他の業態とは反対に、9月はマイナス、10月はプラスという奇妙な動きを示している。当時のコンビニの動向を日本フランチャイズチェーン協会の月次報告書などから確認すると、9月は前年同月の2018年9月に生じたたばこ税増税の駆け込み需要の反動、10月はやはり前年同月の2018年10月に生じたたばこ税増税後の買い控えの反動や2019年10月からスタートしたキャッシュレス還元の恩恵を受けた結果のようだ。
ちなみにグラフ化は略するが百貨店や大型小売店、スーパーの統計データは1988年以降から存在する。前年同月比でマイナスを頻繁に示すようになったのは、1992年以降しばらくの間。そして1997年以降は継続的なもの。【スーパーやデパートの主要商品構成比の移り変わり(最新)】を見ると、そのタイミングで売上構成に大きな変移、具体的には衣料品の減退と食料品の増加、が確認できる。顧客構成、消費性向に大きな変化が生じたのだろう。
やはり結果論でしかないが、仮にこの時、遅くとも1997年か1998年で「変化」を覚えた際に、各業態、特にスーパーや百貨店が危機感を明確に把握し、適切な対応策(衣料品の売上の底上げ、あるいは業界の構造そのものの革新)を見出し、正しい対処を行っていれば、昨今の景気後退時期、そしてその後継続している低迷状態においても、これほどまでの売上の不調さは見せなかったと推定される。ただしその「正しい対処」がいかなるものであるか、それを見出すのは非常に困難であることは言うまでも無い。
無論現状でも各関連会社は必要と思われる対応策を打ち出しているが、残念ながらその成果はあまり思わしくない。新型コロナウイルスの流行は低迷傾向を加速させているのが実情。今後「ピンチをチャンスにとらえ」、どのような積極的で具体的な打開策を打ち出していくのか、注目したいところだ。
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