各電力会社間の電力の融通具合を図にしてみる(2016年)(最新)
2016/05/13 15:01
電力需給のひっ迫感の継続、供給量の不安定さが特徴の一つである風力・太陽光などの自然エネルギー発電所の増加に伴い、電力会社管轄間の電力融通(電力のやり取り)に対する注目が高まりつつある。そこで今回は政府の【電力需給に関する検討会合公式ページ】や【総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会】内「電力需給検証小委員会」で公開された資料を基に、直近における電力融通の見込み(全国系統の概念図と運用容量)をまとめておくことにする。
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電力会社管轄間で電力を融通するパイプ、連系線
今回資料として用いたのは、直接的には総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会内で、2015年10月9日に関連資料が公開された【総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力需給検証小委員会の報告書】の公開資料。今夏の電力需給に関する「電力需給に関する検討会合」で政府の統一見解・指針として発表された「2016年度夏季の電力需給対策について」のたたき台となった検証資料を作成した委員会のものではあるが、先の【震災後初の節電要請そのものの見送り……2016年夏の電力需給対策内容正式発表】にもある通り、今夏に係わる検証では電力管轄間で電力を融通しなくとも需給リスクは生じる可能性が低いとして、小委員会レベルでも連系線に関する新たな資料の提示はなされていない。そこで現時点で最新の公開資料となる2015年冬季の電力需給対策の検証において使われた資料を用いた次第である。また大本をたどると、電力系統利用協議会が定期的に公開している【「電力広域的運営推進機関」内の各地域間連系設備の運用容量算定結果】がベースとなる。
なお今回図にしたのは、図版内記述にもある通り運用容量。これは安定的に送電できる上限に他ならない。さらに、すでに送電している分も含まれるため、イコール応援融通可能量ではないことに注意してほしい(目安にはなる)。またベース資料の「各地域間連系設備の運用容量算定結果」内表の通り、連系線によっては容量が状況に応じて定期的に変化している場合もある(例えば東北-東京間連系線の東北向は60万kWから80万kWを行き来している)。
↑ 国内連系線と運用容量(平日昼間帯・安定送電上限)(2015年1月平日昼間帯)(2015年10月9日公表「電力需給検証小委員会」報告書から作成※すでに送電している分が含まれるため応援融通可能量にあらず。【拡大表示版はこちら】
各電力会社はそれぞれのエリア内で需要に応じた電力を供給している(【電力供給の仕組みを図にしてみる】参照のこと)。しかし他社受電などでも対応しきれないほどの需要が生じた場合や、事故や発電所のメンテナンスその他の理由で供給が落ち込んだ場合、さらに猛暑や厳寒で冷暖房による電力需要が急増した場合、他の電力会社からの電力の融通が出来るように、連系線を使い、電力の応援送電・応援受電が行える仕組みを構築している。だが送電線の熱容量や周波数、電圧、安定度などの問題から、送れる電力には上限が生じる(要は水を送る際のパイプの太さのようなもの)。
また、中部-東京電力間が直流なのは、主に異なる周波数間でも連系が行えるため(その分交流・直流・交流の変換プロセスが必要になるので施設が大きく・複雑になる)。四国-関西と東北-北海道間が直流なのは、交流の電力間で環状の流れが構築されると制御が難しくなるので、意図的に直流を用いている(他にも理由はあるが、これが大きい)。
連系線のキャパを超えた運用は…!?
図を見直すと分かるように、各電力会社間の連系線の運用容量は限られている。不測の事態・緊急事態においては短期間的に運用容量を超過した応援量を流すことも不可能ではないが、大きなリスクが生じる。
その一例として、2012年2月3日に九州電力管轄・新大分発電所で午前4時頃に起きた緊急停止(230万kW減)を挙げておく。安定運用では中国電力から九州電力への融通電力は30万kW(当時)だが、最終的には差し引きで100万kW超の超過潮流が生じた(融通電力量は210万kW。ただしその時点で69万kWが九州電力から中国電力に流れていたため、その分が打ち消され、141万kWとなる)。
↑ 2012年2月3日に九州電力管轄・新大分発電所で午前4時頃に起きた緊急停止の際の動向。策定資料より抜粋(再録)
運用容量を超過すると当然リスクが生じる。交流線の場合「熱容量」「系統安定度」「電圧安定性」「周波数維持面」の面でリスクが考えられ、想定値を超えて運用すると、それぞれの面で大規模停電、設備損壊などの可能性が生じる。ゴムホースの設定されている能力を超えて大量の水を一度に流そうとすると、蛇口からホースが外れてしまったり、ホースにひびが入り水が噴き出てしまうといった事例を思い浮かべれば、どのような状況かは理解できよう。
ゲーム感覚でインフラ増強は出来ない
「もっと連系線の能力を上げれば良いではないか」とする意見もある。上記の例ならゴムホースをもっと大きなものにしよう、ホースの本数を増やそうといった発想である。しかし「欲しいからすぐに用意しろ」で準備が出来るほど、インフラは容易いものではない。【総合資源エネルギー調査会総合部会 電力システム改革専門委員会地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会(第二回)】の【資料7 地域間連系線等の整備に係る 費用負担のあり方について(PDF)】によれば、増強には「10年程度の期間」「100万kWの増強に2000-3000億円の費用」が必要とされている。
また【「融通電力しにくいし、50Hzと60Hz、周波数統一したらどうよ」への試算】でも解説したが、東西日本の周波数の違いを乗り越える(具体的には東電と中電の間にある)東西連系線の増強に関する試算もなされている。こちらでも90万kWの増強には10年から20年の工期と1000億円強から3000億円強の予算が必要となる。
↑ 東西連系容量拡大案の工事費と工期(試算)
第13回(2015年度冬季向け)の電力需給検証小委員会では資料の一つとして「資料6 東京中部間連系設備(FC)300万kWへの増強に関する技術的検証結果について(電力広域的運営推進機関)」が提示され、東西日本間の連系線を現在の120万kW+工事中90万kWから、合計で300万kWにまで増強する案が提示されている。4つの案が提唱されたが、主に経済面の優位性から佐久間30万kW・東清水60万kWをさらに増強する案Dが選択され、詳細の計画策定のステップに移る形となった。これによれば予算は1750億円程度(工事費のみ。運用費用含まず)、概略所要工期は10年程度とされ、2020年代後半をめどにした増強がなされることとなる。
↑ 連系線増強案の比較評価(2015年10月電力需給検証小委員会資料から)
もちろん施設が増強されればその分だけ運用・不測の事態の対応コストも上乗せされる。費用が増えれば収益上の問題が生じることになる。
連系線に関しては本文中で触れている東西連系線の他に、北海道本州間連系設備(北本連系設備)において、冬期における北海道の電力需給のひっ迫感と共に、自然エネルギー関連(北海道で大量の太陽光・風力発電所を設置して、その電力を本州に転送すれば良い云々)から、増強が声高に叫ばれている。しかし本文中で触れている通り、連系線もインフラの一つであり、創設と維持には莫大なリソースが必要となる。それを誰が負担するのか、しなければならないのか。なぜかこの点に関する議論はあまりなされていない(一番のネックとなるにも関わらず、である)。
それでも北本連系設備については、【北海道本州間連系設備の増強について(北海道電力)】にある通り、2014年4月着工(【北海道本州間連系設備増強工事の着工について】で伝えられているように、予定通り着工された)・2019年3月運転開始を目標に、青函トンネルを流用する形で30万kWの増強が図られることになっている。
↑ 北本連系設備増強の概念系統図(リリースより抜粋)
青函トンネルを流用してもこれだけの工期が必要とされる。そして建設費用・運用費用も大きなものとなる。時期が過ぎれば更新のため、さらなる費用が求められることから、その時に向けての備えも必要である。
コスト意識を持った上で実状を見極め、より正しい選択肢を選んで欲しいものである。
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