アメリカの新聞動向(SNM2013版)
2013/04/19 08:45
アメリカの調査機関【Pew Research Center】は2013年3月18日、デジタル・非デジタル双方におけるアメリカでのニュースメディアの動向と展望に関するレポート【State of the News Media 2013(SNM2013)】を発表した。現状と将来展望をPew Research社の調査結果と公的情報や他調査機関のデータを合わせてまとめ上げた「米デジタルニュース白書」的なレポートで、貴重なデータが数多く盛り込まれている。そこで先日から【米主要メディアにおける視聴者数の動きなど(SNM2013版)】のように、気になる要項について抽出やグラフの再構築などを逐次行い、現状を概要的に把握すると共に、今後の記事展開の資料構築も兼ねるようにしている。今回はアメリカの新聞業界の動向に関する部分を、昨年の記事を更新する形で、いくつかの数字・グラフと共にかいつまんでみることにする。
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アメリカの新聞業界の動向に関しては、以前から定期的に年ベース・四半期ベースで広告売上の面から確認の記事を展開している(それぞれ【アメリカの新聞広告の売上推移(年ベース・2012年分まで)】【アメリカの新聞広告の売上推移(2012年4Qまで・四半期単位版)】が最新)。次に示すグラフはその広告費動向と、さらに新聞そのものの販売による売上を重ねたグラフ。
↑ 新聞売上推移(米、億ドル)(2003年以降の広告費にはオンラインも含む)(-2012年)
「総広告売上」が2012年分まであるのに対し、「販売売上」の値が2011年までしか掲載されていない。元資料をたどってもその値は見つけらなかった。販売実績を公知する団体は数字の算出にやや時間がかかる傾向にあるようだ。
グラフから各値の動向を見る限りにおいては、販売売上をベースとし、広告費で不足分を補い利益を算出するビジネスモデルであり、その広告費分が2007年以降急落したため、経営が悪化したように見受けられる。レポートでは直近の2012年における販売売上に関して「広告費の減退率は前年比で7%足らず、しかしオンライン上の健闘で販売売上がいくぶん伸び、全体の売り上げ減少率は3%未満に留まっている」と書かれている。この記述・推論が正しいとすれば、2012年の販売売上はプラスとなる……が、具体的な値までは分からない。
ちなみに「広告売上」が急激に落ち込み始めた2007年は直近の金融危機の始まり(いわゆる「サブプライムローンショック」)であり、同時にデジタルメディアへの本格的な移行が始まった時期でもある。
さて新聞の売上の多分を占める「広告売上」だが、「アメリカの新聞広告の売上推移(年ベース・2012年分まで)」で解説している、そして上でも言及しているが、2007年をターニングポイントとし、大きな減退を続けている。
↑ 日刊紙における広告収入変動(米、紙媒体のみ、億ドル)(-2012年)
いくつか用語解説を。「ナショナル広告(National)」とは全国区の広告。今件はアメリカ国内での新聞の話なので、アメリカ全土における広告となる。一方「リテール広告(Retail)」は小売・地域別・小口の広告。そして「クラシファイド広告(Classified)」は小さな広告を多数集めて情報集合体として見せるタイプの広告。いわゆる「三行広告」なるもので、右の写真が良い例。この三つを合わせて紙媒体の広告となる。
インターネットに代替されやすい「クラシファイド広告」の減少ぶりが著しい。同広告が主に簡易な文字列で構成されていることや、検索機能が使えれば便宜性が桁違いに良くなることを考えれば、その事由は一目瞭然。そして持ちこたえそうに見えた「リテール広告」「ナショナル広告」も、2008年秋のリーマンショックの直接の影響を受けた2009年に大きく下落し、「クラシファイド広告」の後を追う事で広告費全体を大きく押し下げた動きが確認できる。収録されているデータは1985年以降のものだが、この数年間の動きは、まさに期間内では初めての規模の下落ぶりであることが確認されている。そして紙媒体の広告費総額は1985年以前のレベルにまで戻ってしまった。
インターネットの登場でもっとも大きな痛手を受けた「クラシファイド広告」だが、その主要3分野「自動車」「不動産」「求人」すべての項目で2007年以降出稿額が急降下を描いている。
↑ 米新聞の主要カテゴリにおけるクラシファイド広告売上の推移(億ドル)(-2012年)
元々「求人」は今世紀に入ってから、「自動車」は2005年前後から減少していたものの、「不動産」がそれを補う形で上昇を続けていた。しかし2007年の「サブプライムローンショック」で主要3分野は大きく額を減らす。リーマンショックの直接の影響を受けた2009年より後は、下落の動きも緩やかなものとなるが、不動産市場の軟調さを受けて「不動産」の下げ方は厳しいまま。昨年の記事で「さらなる景気回復が果たされれば、主要3分野の広告出稿も持ち直す可能性はある」との言及をしたが、景気回復はそれなりに現実のものとなったものの、新聞広告の分野ではいまだに不況が続いている。
もちろんオンライン版の展開は各社とも進めており、それによる広告収入・会員収入は増加の一途をたどっている。しかし紙媒体の売上、特に広告費の減退は著しく、オンライン版の躍進分では穴を埋めきれないのが現状である。
↑ 米新聞の広告収入推移(単位:100万ドル)(-2012年)(再録)
この減少ぶりを覆すことが出来なければ、さらなる経費の削減が必要不可欠となる。前向きな経費削減ならまだマシだが、これまでと同じような切り口では、質の低下、さらなる読者・部数の減少、広告費の低迷と、マイナススパイラルに陥る可能性は高い。ただでさえ外部環境が紙媒体の売上を押し下げているのだから、早急な、そして今まで以上の構造改革が求められる。
レポートでは主要米新聞における直近の発行部数のデータも記されている。良い機会なので上位陣の値についてグラフ化をしておく。
↑ 米新聞部数上位10位(2012年9月時点)
今件の各部数には通常の完全版以外に、要約版(無料で配布される)やブランド版(他国語版)も加えている。それですら、日本の全国紙における「1000万部が絶対防衛線」「700万部が死守ライン」(双方とも現状では突破されているが)云々との話と比べると、意外にも少ないのが分かる。これは日本以上に地方紙の影響力が強く、「地方紙メインで購読、全国紙はついでに」的な立ち位置があるのが理由(もっとも、New York TimesやWashington Postですら「地方紙」と考えることもできる)。
これら全国紙、そして地方紙もまた、固定費の削減を続けている。従業員の解雇や事務所の移転、給与の一部カットなど、削減項目を数え上げればきりがない。それですら広告費・部数の減少には追いつかず、休刊したり買収されたりオンライン版に専念する新聞社が相次いでいる。一方、適切なバランスを確保して読者の支持を得て、オンライン上の収益を中心に、財務状態を安定化させるところも出てきている。
日本では新聞を取り巻く事情が異なるため、同じような動きを示すとは考えにくい。しかしながら、メディア関連の動向に大きな違いはない。似たような流れの中に、少しずつ身を任せていると考えた方がよさそうだ。
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