米雑誌業界の動向(紙媒体編)(SNM2013版)
2013/04/18 11:30
アメリカの調査機関【Pew Research Center】は2013年3月18日、デジタル・非デジタル双方におけるアメリカでのニュースメディアの動向と展望に関するレポート【State of the News Media 2013(SNM2013)】を発表した。現状の確認と将来の展望をPew Research社の調査結果と公的情報や他調査機関のデータを合わせてまとめ上げた、いわば「米デジタルニュース白書」のようなもので、貴重なデータが数多く盛り込まれている。そこで先日から【米主要メディアにおける視聴者数の動きなど】のように、昨年記事展開を行ったSNM2012版から更新できるものがあれば更把握すると共に、今後の記事展開の資料構築も兼ねるようにしている。今回は雑誌の現状、特に「紙媒体」としての雑誌に関するデータを見ていくことにする。
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まずは直近5年間における、雑誌の販売部数全体の前年比。
↑ 雑誌販売数動向(米、前年比)(-2012年)
一つ補足説明を。「定期購読(Subscriptions)」と「一部売り(Single Copies)」の違いだが、「定期購読…半年や一年のような一定期間の定期的な継続購読。料金前払い」「一部売り…本屋などでの一部買い」を意味する。日本でも雑誌の定期購読の仕組みは本屋、あるいは雑誌社単位で用意されていて、利用している人も少なくない(本屋での定期刊行誌の事前予約、あるいは付録付き雑誌の定期購読の仕組みは、一度ならずとも使った経験があるはず)。アメリカの場合「定期購読で読者数=販売実態部数が確保できれば、広告費で売上はカバーできる」との思惑が強く、(新聞同様)雑誌では定期購読者に対する割引率が異様に高くなっている。
昨年の記事で挙げた「Time」誌の例なら、アマゾンで確認すると1年間の定期購読の場合、通常277ドル20セントなのが、わずか30ドルで済んでしまう。9割近い割引率(現時点でもこの割引率に変化はない)。日本ではまずありえない。
↑ 米アマゾンでTime紙の1年間定期購読版を確認(前年版から再録)。
当然この仕組みを利用する読者は多く、雑誌によっては「定期購読」対「一部売り」の比率が9対1を超えているものもある。雑誌業界団体MPA(The Association of Magazine Media)のデータによれば、2011年時点での定期購読部数は2億8291万9614部、一部売りは2955万8699部で、大体9対1となる(【Historical Subscriptions/Single Copy Sales】))。
↑ 米雑誌販売総数(MPA、万部)(-2011年)
↑ 米雑誌販売総数(MPA、販売スタイル別シェア)(-2011年)
両スタイルの動向を見ると、「一部売り」の前年比が毎年マイナス1割前後と大幅な減少を続けている。「一部売り」は駅の売店や本屋などでの「一見さん」「気になったから」「ついで」買いと、いわゆる「ロイヤリティ」(忠誠心・愛着心・傾注度合い)の低い購入層が多く、また読む状況も時間つぶしの場合が少なくない。当然、スマートフォンをはじめとするモバイル端末にその立ち場を奪われつつあり、売上減少は著しいものとなる。この事情は日本と何ら変わりはない。
一方「定期購読」は「一部売り」と比べて減少幅は小さい。2007年-2008年のように、前年比でむしろプラスを示した場面もある。これは元々「ロイヤリティ」が高めの層で、しかも読む場所が通勤時などに限定されない(職場や自宅買いが好例)のが一因。さらに売上が落ちる傾向があれば、出版側が値引き率を調整することで、購読者離れを引きとめることも(ある程度は)できる。読者側でも1冊あたりの単価を考慮し、「一部売り」から「定期購読」に鞍替えする場合もあろう。
もっともこの「値引き率調整」もあり、「雑誌業界そのものの勢いを推し量るには、一部売りの動向を見るべき」との考えもある。「雑誌業界は(少なくとも紙媒体では)集客魅力が減退している」と見なすというものだ。この2、3年では「定期購読」の数すら減り始めており、その推論に不自然さは見られない。
「定期購読」が著しい値引き率を出せる原動力の「雑誌内広告」だが、2012年では2011年以上に多くの分野で落ち込を見せている。
↑ 雑誌広告の種類別ページ数推移(米、2011-2012、前年比)
アメリカでは2011年以上に2012年は景気回復の動きを見せ、それに伴い消費の増加、広告への投入資本も増えつつある。しかし広告主の多くはむしろ増加分をデジタル分野など他の媒体へ切り替えている。2007年の金融危機・景気後退と共に始まった世の中の動きとしての媒体シフトは、景気が回復しても継続されている。前年比プラスの項目が「トイレタリー・コスメ」「アパレル・アクセサリー」だけで、残りは全部マイナス。特にアメリカの産業を象徴していた広告主大手の「自動車」がマイナス21.7%と豪快な下げ方をしているのでは、雑誌全体の広告売上が軟調なのも当然といえる。
項目別の下げ方に関する詳しい説明は、今年のレポートでは見受けられない。しかし「トイレタリー・コスメ」「アパレル・アクセサリー」がプラスなこと、「自動車」はともかく「食品」「金融・保険・不動産」「公共交通機関・ホテル・観光地」など、インターネットと相性の良い産業で大きな下げ幅が見られることから、これらの産業がより費用対効果の良好なデジタル系に広告出稿を移行していると想像するのは難くない。
組織構造・収益形態がそのままで売上が減れば、当然利益は減り、赤字となる。赤字のままでは企業は倒れてしまうため、体質改善が必然となる。その一つとして実行されるのが人員削減、いわゆる「リストラ」というものだが、雑誌業界では引き続き大規模な人員削減が続いている。
↑ 雑誌部門における人員数推移(米、前年比)(-2012年)
「人員の大規模な削減は峠を越した雰囲気がある」とは昨年記事の言い回しだが、今回2012年分は再び削減率が増加し、さらなるコストダウンを余儀なくされたことが想像できる。さらにこちらも昨年の指摘だが、この10年余りの間に人員が増えた年は3年しかないことを合わせると、中長期的な縮小傾向は継続しそうである。
無論この人員削減は、単純な市場そのもの、制作部門全体の規模縮小だけを意味するのではない。デジタル化、システムの汎用化や共用化に伴う、効率向上の結果としての減少を含んでいるのも忘れてはならない。
■関連記事:
【「The New Yorker」という雑誌】(不景気の中でも発行部数をさほど減らしていない雑誌の話)
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