転職で「収入増」の人は前年比0.6%ポイント増。しかし……(2012年版)

2013/03/28 11:30

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先に【日本の学歴・年代別失業率(2012年版)】などで説明した通り、総務省統計局は2013年2月19日、2012年における労働力調査(詳細集計)の速報結果を発表した(【労働力調査(詳細集計) 平成24年平均(速報)結果:発表ページ】)。直接該当する2012年、あるいは2012年を含む過去数年間における、日本の労働環境、雇用問題に関する各種データが盛り込まれており、労働市場面からの動向を推し量るのに頼もしい内容となっている。今回はその資料から、過去の記事を更新する形で、「転職と収入の増減の関係」を確認していくことにする。



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元となるデータは「労働力調査(詳細集計) 平成24年平均(速報)結果」の「平成24年平均(速報)結果の概要、統計表」から。また東日本大地震・震災が発生し、データが取得できなかった月のある2011年分データが存在する場合は、被災地などの調査不可能地点に対し補完推計値を用いている(。そのため昨年の記事と比べ過去数年間分は値が異なる場合もありえる)

それによると2012年の1年間で離職を経験した人は596万人(前年比変わらず)。その内訳は次の通り。

■離職経験者……596万人
 ・現在は就職者(つまり転職した人)……285万人(47.8%)(前年比1万人増)
 ・現在は完全失業者……126万人(21.1%)(前年比2万人減)
 ・現在は非労働力人口……185万人(31.0%)(前年比1万人増)

「非労働人口」には諸般の事情(リタイヤや長期休業、肉親の看病・介護、子育てなど)で再就職を望んでいない人や、雇用情勢を見て就職活動を中断している人(就職浪人)などが含まれている。

さて、転職をした人285万人の、転職後の収入は転職前と比べてどのように変化しているだろうか。男女で就労状況や給与体系は大きく異なるため、全体値では無く性別で区分した上で経年動向をグラフ化をした。

↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(男性)
↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(男性)

↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(女性)
↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(女性)

まず第一に目に留まるのは、2008年から2009年にかけての大幅な状況の悪化。緑(収入増加)の値が大きく減っているので一目瞭然。同時に男性よりも女性の方が(この時期に限らずだが)「収入増」の割合が大きいのも確認できる。

これはさまざまな理由が考えられるが、双方の現象とも最大の要因は「転職前が正社員で、転職後は非正社員として就職した」から。「リストラされ、似たような条件での正社員雇用を望んだが良い職場には巡り会えず、仕方なく妥協し、給金の安い非正社員として就労している」「元々非正社員率が高い女性は、転職後が同じく非正社員でも『収入減少』となる割合は、元の立場で正社員率が高い(そして非正社員へ転職すると収入減少となる)男性よりも低い」というのが典型的なパターンと考えられる。また2009年には世界全体の経済を「リーマンショック」が包み込んでおり、これも転職時における給与相場の減退原因と見て間違いない。

一方で男女ともこの数年は、2009年を底値とし、2012年も含めて漸次「増えた」回答率の増加、「減った」の減少が起き、状況は改善している(無論「転職できた人」に限った話)。

↑ 正規・非正規間を移動した転職者の推移(万人、2008-2012年)
↑ 正規・非正規間を移動した転職者の推移(万人、2008-2012年)

↑ 転職者移動状況(2012年、万人)
↑ 転職者移動状況(2012年、万人)

特殊事例を除けば、非正社員よりも正社員の方が賃金は高額(。さらに企業負担もはるかに正社員の方が重い)。正社員から非正社員に転職すれば、転職前より収入が下がる可能性は高い。直上のグラフを見ると”「正社員から非正社員」から「非正社員から正社員」を引いた数”が男性は6万人、女性は2万人となり、「男女とも転職の結果、非正社員が増加した」「女性よりも男性の方が非正社員が増加している」のが分かる。従って上の「収入の増減割合-」のグラフ通り、「正社員から非正社員になり、手取りが減った人が多い」「男性よりも女性の方が手取り増加者が多い」状況になる次第。

直近の2012年について、性別・年齢階層別で見ると、また違った事情が見えてくる。

↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(2012年、性別・年齢階層別)
↑ 転職者の収入の増減別割合の推移(2012年、性別・年齢階層別)

女性は54歳まで転職による収入の増減傾向に大きな違いは無い。25-34歳で少々増えた人が多い程度。これは女性の就業が多分にパート・アルバイトによるもので、それらの職種は給与体系もさほど変わりないからだと考えられる。また25-34歳で「減った」が大きく伸びているのは、「結婚(+妊娠)による退職」を経て、家庭内がある程度落ち着いた後に、パートなどの再就職を果たした事例が底上げしているのだろう(。ただし1年以内にそれすべてをこなさないと今件グラフには反映されないため、数はさほど多くない)。

一方で男性では、「高年齢になるほど転職で収入が減る人」が増加している。手取りだけで断定するのはややリスクがあるが、「(正規→非正規も含め)前職と同じような好条件下での仕事が見つからず、妥協して収入減での転職を受け入れた」パターンが、歳を経るにつれて増えた結果と考えるのが妥当。特に前職で管理職だった人は、(ヘッドハンティングでもない限り)同じ手取りを確保したままの転職は困難と思われる。

男女ともに55歳以上で急激に「減った」人が増えているのは、早期定年・定年後に嘱託として再就職したり、第二の人生として気軽に仕事を楽しむ、あるいは仕事そのものを生きがいとしているために転職した人による結果。もっとも企業側からの好条件によるアプローチが無い限り、55歳以上の転職は、賃金上昇を望む前に、再就職できるだけでも御の字ともいえる。



かつては専門誌がテレビCMなどでしきりと「転職で収入アップ」などのコピーで喧伝し、転職を推し進める動きがあった。しかし今では転職による収入アップ・維持どころか、再就職することすら困難な人も多い。幸いには昨今の失業率は低下気味で、その点はありがたい話ではある。

転職によるステップアップ2012年は2011年と比べ、転職出来た人の賃金状況は多少ながらも改善されたようにも見える。しかし離職経験者のうち非労働力人口は増加していること、そして全体に占める比率も増加している状況を見ると、「再就職できた人はあらかじめ、それなりの『収入増となる要素』を持っている可能性が高い(例えば特殊自動車の運転免許、卓越したプログラム技術、優れた事務処理能力)」「再就職を果たせなかった人は、就職活動を諦めて非労働力人口にカウントされる」パターンによる動きによる動きが見て取れる。

好条件の確約を伴うヘッドハンティングならいざ知らず、自分自身の都合・スナック感覚で転職を考えても、良い目を見るのは(少なくとも収入の面では)難しい。「転職でスキルアップ、だけどサラリーダウン」ではやる気もごそりとそがれてしまう。仮に転職を頭に思い浮かべても、ここは「堪(こら)えてみる」のも一つの手では無いだろうか。



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