女性の若年層と高齢層でパート・アルバイトが大幅増加…非正規社員の現状(最新)
2024/05/18 02:21
労働市場に関する状況の変化において、注目を集めている事象の一つが非正規社員(職員・従業員)問題。雇用者全体に占める非正規社員の比率が増加し、該当者の生活の安定性への懸念はもちろんのこと、職場における技術や経験の継承が困難となり、企業・業態そのものが脆弱化するとの指摘、報告もある。今回は総務省統計局が2024年2月9日に発表した、2023年分の労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に、最新のデータによる非正規社員の現状を複数の視点から確認し、現状を精査していくことにする(【労働力調査(詳細集計)年平均(速報)結果発表ページ】)。
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直近年では前年比で増加した非正規社員数
元となるデータは「労働力調査(詳細集計) 令和5年平均(速報)結果」の「令和5年平均(速報)結果の概要、統計表」など。場合によってはその値を基に当サイト側で独自算出した指標を用いている。
最初に取り上げるのは、雇用形態別で区分した、非正規職員・従業員(非正規社員、非正社員)に関する直近と近年の人数推移。【「派遣叩き」がもたらす現実……企業は「派遣を減らしパートやアルバイトを増やす」意向】で解説している通り、「派遣叩き」が世論、そしてそれに後押しされる形で各種法規制によって行われ、多業種の企業は派遣社員を敬遠する傾向にある。彼ら・彼女らの雇用そのものがリスク扱いせざるを得ないのだから、企業側が避けるのも仕方が無い。
最新データが公開された2023年においては、2020年春先から流行が続いている新型コロナウイルスの影響で経済活動が大きな規制を受け、人員調整を受けやすい立場にある非正規職員・従業員が少なからず解雇され、職を失っていた2020年以降の減少傾向が、2022年で転じて増加傾向となっていたが、それが継続する形で前年比で増加を示す結果となった。
具体的にはパート・アルバイト、派遣社員は前年比で増加、契約社員・嘱託は前年比で減少した。
↑ 非正規職員・従業員数(雇用形態別・男女別・年齢階層別、万人)(2023年)
↑ 非正規職員・従業員数(雇用形態別、万人)
↑ 職員・従業員数(前年比、雇用形態別、万人)
パート・アルバイトは前年比でプラス15万人と大幅な増加を示している。この増加の原因は、詳しくは後述するが、主に女性の若年層と高齢層でパート・アルバイトの数が大きく増加したことによるものである。
「派遣叩き」の影響が薄れた2011年には派遣社員の前年比がプラスマイナスゼロとなり(それまでは「派遣叩き」が世間を騒がせた2009年以降大きなマイナスを示していた)、この期間には同時にパート・アルバイトや契約社員・嘱託が増えているところから、単に労働力が過剰で非正規社員が減らされたのではなく、「派遣社員がバッシングで雇用し難くなったのなら、同じような作業はアルバイトや契約社員に任せよう」との意図を企業が実践していたことが分かる。もっとも2012年にはさらに数は減るものの、その年が2009年以降の動きでは底となる。
2013年では労働力そのものの不足に加え、景況感の回復に伴い労働市場の活性化が生じ、さらに団塊世代の定年退職を受けて高齢層の非正規雇用希望者としての供給が大幅増加。その上、それら高齢層の離職の穴を埋めるための非正規雇用としての求人も増え、いずれの形態でも非正規社員は大きく増加した。ただし雇用者全体数は微増しているが、正規社員は減少し、その分非正規社員は増加していることから、労働のスタイルそのものの変化(非正規化へのシフト化)が進んでいる現状が改めて見て取れる(正規社員の高齢者が定年退職して非正規社員として再就職するのだから当然の話なのだが)。
2015年以降は正規社員でも前年比で増加の動きを示しており、同時に非正規社員も増加を継続している。労働市場の回復ぶりや内部構造の変化に加え、企業側の求人内容の変化が生じている実態がつかみ取れる。派遣社員が増えているのは、正規社員の求人をしても人手を集められない企業が、派遣社員で代用する需要があるのも一因ではある(景気ウォッチャーのコメントでこの方式を用いている企業の弁が少なからず見受けられる)。
直近の2023年では前年比でパート・アルバイトが大幅に増加したが、派遣社員も、そして正規社員も増加している。素直に解釈すれば労働市場が回復期を迎え、まずは流動性の高い非正規社員が雇われ、さらに正規社員にも雇用の動きが生じていると読める。
2023年時点では職員・従業員全体の62.9%が正規社員、残りがパートや派遣社員、契約社員などから成る非正規社員との計算になる。もっとも上記グラフにある通り、非正規社員は兼業主婦によるパート・アルバイトが多分に含まれていることに注意しなければならない。各算出値はあくまでも老若男女すべてを合わせた結果である。
↑ 職員・従業員全体に占める割合(雇用形態別)
このグラフを見ると、単純に非正規社員の割合が増加の一途をたどっているように見える(2020年以降で減る動きが生じているのは、新型コロナウイルス流行による非正規社員の大量解雇が生じたのが主要因)。しかし、先の実数のグラフと照らし合わせると、景気後退の影響が出る2008年までは「正規社員数は横ばいか微減」「非正規社員数は増加」との構図、言い換えれば企業は「景気拡大期は非正規社員の増加で、業務拡大に対応していった」のが大きな流れであることが分かる。ちなみに「世間が派遣社員制度を叩き正規雇用を求める動き」と、「不景気で雇用調整が行われ、正規社員が減る時期」「不景気に加えて派遣叩きの世論で派遣市場が縮小する時期」、さらに「パートやアルバイトの増加時期」はほぼ一致する。
直近2023年において非正規社員の雇用にどのような動きがあったのか、その実情が分かるのが、次の男女別・年齢階層別における非正規社員の増減動向。
↑ 非正規職員・従業員数(前年比、男女別・年齢階層別、万人)(2023年)
2023年においては女性の15-24歳と55-64歳・65歳以上、そして男性の65歳以上のパート・アルバイト、男性の55-64歳での契約社員・嘱託・その他で大きな増加が確認できる。一方で女性の35-45歳・45-54歳のパート・アルバイトと契約社員・嘱託・その他で大きな減少が生じている。前者の動きは景況感の回復による業務拡大に伴い、フレッシュな若年層や経験豊富な高齢層の非正規社員を雇う動きか、あるいは高齢層に限れば正規社員を定年退職後に非正規社員として再雇用する流れかもしれない。
大きな減少の動きは男性では生じていないことから、前年に続く形で飲食店や小売店で働いていた兼業主婦が、新型コロナウイルス流行の影響で生じた店舗の休業や業務縮小によって解雇されたのではないかとの推測ができる。あるいはその解雇された人員の代替として、若年層や高齢層が新たに雇われたまでがひとつながりの動きだろうか。
完全失業者数の推移
正規社員は2022年の3588万人から2023年には3606万人となり、都合18万人増加している。一方で非正規社員は2022年の2101万人から2023年には2124万人となり、23万人の増加。結果として雇用者(職員・従業員)全体は正規・非正規合わせ(役員を除き)5730万人となり、前年の5689万人から41万人の増加となった(万人未満は四捨五入)。
前職の雇用形態別に離職した完全失業者数の推移を確認すると、正規社員と派遣社員が前年比で増加している。新型コロナウイルスの流行による経済の不調はまだ継続中ということだろうか。
↑ 離職した完全失業者(前職の雇用形態別、万人)
今データはあくまでも「過去1年間に前職を離職した者のうち」との前提があることに注意しなければならない。つまり「失業期間が1年以上」(なかなか再就職先が見つからない)の人は今グラフには反映されていないことに留意する必要がある。この「就職浪人1年超」に該当する人は2022年の64万人から2023年には57万人に減少している。
元派遣社員に対する風当たりの強さは継続中だが、少しずつ風は収まりつつある。次のグラフは各雇用形態別に「その時点で雇用されている人数」に対する、「前職でその雇用形態にいた人の完全失業者数の割合」を算出したものだが、元派遣社員の値がいまだに他の職種と比べれば高い値を示している。現状は29人派遣社員が雇われている場合、それとは別に1人が「元派遣社員の完全失業者」(失職してから1年未満)として存在する計算になる。
↑ 完全失業者の職員・従業員に対する比率
パートやアルバイト、正社員と比べて派遣社員は元々の人数が1ケタ少ないため(2023年では派遣社員は156万人、パート・アルバイトは1489万人、そして正規社員は3606万人)、単純な比率計算では「ぶれ」が生じている可能性はある。ただし10年来同じ計算式で同様の結果が出ていることから、その誤差は十分無視できる範囲に収まっていると考えてよい。解雇された派遣社員(の割合)の相変わらずの多さが認識できる。
完全失業者数の絶対数は元正規社員の立場にある人が一番多い(2023年は36万人)。しかし同じ雇用形態で現在働いている人に対する完全失業者数の比率を算出すると、元派遣社員の値が一番大きくなる。同じ雇用形態で再び就職を望む人が多い実態を考慮すれば、元派遣社員の辛さが再認識される次第である。
昨今の非正規社員の増加、雇用者全体に占めるシェアの増加の実情は上記にある通りで、労働市場の変化の表れの一側面に違いない。ただし一面的な数字のみにとらわれ、非正規社員の生活の不安定さを喧伝するばかりでは、全体的な実情を正しく把握できない。
上記の各種データにある通り、非正規社員そのものの構成や増加分の多分が、兼業主婦のパートやアルバイト、定年退職者や中途解雇者による中年層以降の再雇用から成る事実も認識する必要がある。正しい状況を把握せずに、全体的な、表面的な数字だけを振りかざして、バッシングの気運を高めれば、数年前の派遣叩きとその結末同様の愚が繰り返されてしまうことになる。
「木を見て森を見ず」的な判断を下さないよう、心から願いたいものだ。
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