「無料で聴ける手段が増えた」「懐がさみしい」「今所有している曲で満足」…音楽購入が減った人の事情(最新)

2023/07/11 02:46

このエントリーをはてなブックマークに追加
2023-0703音楽を楽しむスタイルは多様だが、大きな区分の一つに「金銭的な対価を支払うか否か」がある。CDや楽曲ファイルの購入は当然対価が不可欠だが、無料データのダウンロードや無料動画配信サイトの動画視聴ならば金銭的対価は(原則)発生しない。音楽業界としては対価がなければビジネスとして継続することはかなうはずもなく、音楽聴取者の消費性向は非常に気になるもの。今回は日本レコード協会が2023年3月に発表した最新の調査結果資料「音楽メディアユーザー実態調査 2022年版(公表版)」の結果を基に、音楽の対価を支払ったもののその購入度合が減った人に向けて行った質問「なぜ減ったのか」の結果を見ていくことにする。その動きから音楽業界の問題の一端を知ることができるかもしれない(【発表リリース:2022年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書公表】)。

スポンサードリンク


調査対象母集団の要項は今調査に関して先行する記事【無関心層が増え4割を突破…年齢階層別の「音楽との付き合い方」(最新)】を参照のこと。

今件報告書では音楽との付き合い方に関して、新曲への関心の度合いや商品購入などの面から、大きく次の4つに区分を設定した。

・有料聴取層:
「音楽を聞くためにCDや有料音楽音源など音楽商品を購入したり、お金を支払ったりしたことがある」(定額制音楽配信や有料のコンサートへの参加も含む。通信料金や聴取機器の購入は除く)

・無料聴取層:
「音楽にお金を支払っていないが、無料動画サイトやテレビなどで新たに知った楽曲を聴いた経験がある」

・無料聴取層(既知楽曲のみ):
「音楽にお金を支払っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴かず、新曲は(テレビなどでも)聴かない」

・無関心層:
「音楽にお金を支払わない。特に自分で音楽を聴かない(音楽には特段積極的な好意、関心を持たない。音楽への本当の意味での無関心派)」

↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの(再録)
↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの(再録)

そして楽曲の購入について、前年同時期と比べて使ったお金の額が減った人を対象に、なぜ減ったのかについて尋ねた結果が次のグラフ。

↑ 楽曲購入減少の原因(前年同期から購入が減った人限定、複数回答、上位陣)(2022年)
↑ 楽曲購入減少の原因(前年同期から購入が減った人限定、複数回答、上位陣)(2022年)

トップに挙げられたのは「無料聴取手段増加」で36.8%。今回年で初めて用意された選択肢だが、群を抜く形で最上位となった。先行記事【主な音楽を聴く機会、YouTubeがトップで定額制音楽配信が続く(最新)】にもある通り、音楽の聴取手段としてYouTubeを挙げる人が前年比で19.1%も増加していることも踏まえ、無料の音楽聴取サービスを利用する人が増えたと考えられる。

次いで「金銭的余裕減少」が22.7%。心底アーティストを好み発売された楽曲が気に入っても、肝心のお財布事情が厳しければ購入することは難しくなる。「音楽聴取の時間減少」なども回答者側の事情によるもの。これらは音楽業界の動向とはあまり関係がないように思われる。

次に「現在所有楽曲で満足」で19.5%。音源がデジタル化し検索・カテゴリ化・ランダムアクセスが可能となり、多数の楽曲を保有しても気軽に聴きたい曲をすぐに選べるようになったのが現状。1000曲の楽曲保有でも、CDが1000曲分と音源ファイル1000曲分とでは、利用スタイルはまったく異なる。当然、後者の方が隔てなく何度となく音楽を聴取・利用可能。

たとえるならば自分の好みの、あるいは必要な方面のレシピ本を10冊購入するのと、レシピサイトから1000件分のレシピを取得するようなもの。大量のレシピをデータ化したレシピサイトのブックマークを10か所取得して定期的に巡回ルートにあてると表現した方がよいだろうか。

デジタル楽曲の取得と蓄積により、保存の場所を取らずに即時に検索して該当楽曲を聴取することが可能となっただけでなく、ランダムに聴取すれば「自分のお気に入りの音楽を多様な組み合わせでエンドレス状態にして聴く」こともできるため、CDなどの物理メディアで楽曲を取得し再生する音楽聴取スタイルと比べ、新規の購入動機は手元の楽曲が増えれば増えるほど減っていく。お気に入りの曲の雰囲気、歌手やグループにスポットを当てて音楽を楽しんでいるのなら、該当領域内の手持ち曲が増えれば、それで満足感を堪能できてしまう人が増えてくる。要は「お腹いっぱい」「手持ちのと比べてもっと新しいもの、よい曲でないと買うに値しない」との判断を下した結果に他ならない。

「好きなアーティストに関係なく買いたい曲が減った」「音楽への興味減少」「好きなアーティストの新商品の発売が減った」「好きなアーティストが居なくなった・減った」は音楽業界における魅力、訴求力が(相対的に)減ったのも一因ではあるし、同時に回答者側の心境変化も要因として考えられる。

昔と比べてデジタル化、聴取ツールの増加に伴い、音楽への門戸はより大きく開かれているはずなのに、音楽そのものへの興味自体を持たなくなった、減ったがために楽曲を購入しない人が確実に一定数存在している。対価支払いをしている・していた人も、手持ちの曲で満足してしまったり、無料のもので音楽への需要を充足してしまい、購入動機が減少している。音楽に関する環境の変化を今一度確認した上で、根本的なビジネスモデルの再構築が必要な時期に来ているのかもしれない。あるいは無料の聴取手段を上手く活用し、有益なビジネスとするための工夫が求められているのだろう。


■関連記事:
【視聴音楽入手 借りるか買うか】
【若年層中心、男性は中堅層まで…ボカロ楽曲や個人製作楽曲の購入性向(2013年発表)】
【【更新】レンタルショップが一番、次いでアマゾン…音楽入手ルート】
【CDの売上落ちてるけどコンサートはバリバリ人気なんだってさ、いやマジで】

スポンサードリンク



このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2024 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|X(旧Twitter)|FacebookPage|Mail|RSS